三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第24号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件審査請求の対象となった公文書の存否を明らかにしない決定のうち、一部を取り消し、改めて開示・非開示等の決定を行うべきである。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成30年2月20日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定個人(以下「本件個人」という。)が所有している特定の地番にある建物(以下「本件建物」という。)の不動産取得税の課税と納税状況」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、平成30年2月27日付けで三重県知事(以下「実施機関」という。)が行った公文書の存否を明らかにしない決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 審査請求の理由
審査請求書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
自分はある番地に存在する「建物」に対しての不動産取得税の課税状況を知りたいだけであるので、その建物の名義人の氏名については関心がない。従って、氏名を伏せて課税状況だけ開示ができるのではないか。
以前、市にも同様の開示請求をしたら、名義人の氏名を黒塗りにした上で非開示の決定がなされた。市は非開示なのに県が存否応答拒否の決定をするのはおかしい。市の決定は情報公開法を根拠法令にしていた。県は、三重県の条例というが、法律のほうが優先されるはずである。
当初開示請求書に記入をしたときは、「ある番地の建物に対する不動産取得税の課税状況が分かる書類」というような請求をしたのであるが、職員に、「所有者の氏名を書かないと受付ができない。」というふうに言われたので、所有者の名前を記入したところ、個人情報のため、存否応答拒否という決定がされてしまった。なぜ受付ができるように訂正をしたのに存否応答拒否となるのかが納得いかない。
ある建物に対しての課税状況が分からないということになると、公務員が適正に税務に関して職務を全うしているかどうかチェックができないので、課税状況については開示されるべきである。
ある建物に対する課税状況が公開されないということになれば、不法、違法行為の保護になることがあり、犯罪の温床になる可能性がある。透明性の確保のため、開示するべきである。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。地方公務員法第34条第1項では、地方公務員の守秘義務が規定され、地方税法第22条では税務職員により厳しい守秘義務が規定されている。職務上知り得た秘密を漏らすことを禁止されており、条例第7条第1号に該当し、非開示とすべき事項である。
対象不動産の課税状況について、納税者の氏名及び住所を非開示とし、他の情報を開示した場合、当該情報単独では特定の個人を識別することはできないが、公知の情報である不動産登記と照合することにより、特定の個人を識別することが可能であり、対象不動産の課税状況は、条例第7条第2号により非公開とされている個人情報である。
対象不動産の課税状況について、当該公文書は存在するが非開示とする、又は当該公文書は存在しないと回答するだけで、課税の有無が判明し、公知の情報である不動産登記と照合することにより、特定の個人を識別することが可能であり、個人の権利利益を侵害することになる。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の意義について
公文書の開示請求があった場合、条例は、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならないが、条例第11条は、開示請求に対し、当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該公文書の存否を示さないで、当該公文書の開示をしないことができるとしている。
そして、「当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるとき」とは、開示請求に係る公文書の存否自体の情報が条例第7条各号の規定により保護すべき情報に当たる場合をいう。
(3)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性について
本請求は、特定の地番にかかる不動産取得税の課税と納税状況にかかる文書を求めて行った開示請求である。実施機関は、本請求の対象文書が存在するか否かを答えるだけで、条例第7条第1号の法令秘情報、同条第2号の個人情報を明らかにすると主張しているので、非開示情報を開示することになるか否かを、以下検討する。
ア 条例第7条第1号(法令秘情報)
実施機関は、この請求に対して、当該文書の存否を明らかにすることは、税務職員に与えられた調査権限に基づいて知り得た秘密を知らしめることとなり、地方税法第22条及び地方公務員法第34条第1項に基づく守秘義務により、一律に法令秘情報に該当すると主張する。地方税に関する調査に関する事務に従事する税務職員については、地方税法において「その事務に関して知り得た秘密」につき守秘義務があることを前提として、その違反に対し地方公務員法上のそれより重い罰則が設けられている(地方税法第22条)。これは、税務職員が、その従事する調査事務の性質上、個人、法人を問わず納税者の財産、資産、経営状況等の細部にわたり、その秘密に属する情報に接することが多く、これを漏らした場合は納税者の信頼を失い、申告納税制度の下においては特に納税者の自主申告について協力を得ることが困難となり、ひいては円滑適正な税務の執行に支障を来すことになることから、一般の地方公務員より重い守秘義務を課する必要があるとの趣旨に基づくものと解される。
一方において税務職員がその職務の執行に当たり法令や条例に従うことは主要な義務の一つであり、条例に基づき公文書の開示請求がされ条例に定める非開示情報に該当しない場合に、公文書を保有する実施機関としてこれを開示すべきことは条例に基づく義務というべきである。したがって、その限りにおいて守秘義務は免除され、上記守秘義務に違反することにはならないと解される。
ところで、地方税法及び地方公務員法にいう「秘密」とは、一般に知られていない事実であって、本人が他人に知られないことについて客観的に相当の利益を有するもの、すなわち「実質秘」をいうと解される。この実質秘は、地方税法及び地方公務員法という法律により、漏らすことが禁じられているのであるから、実施機関が主張するように、「実質秘」に該当する情報は、条例第7条第1号の「法令若しくは他の条例の定めるところにより(中略)公にすることができないと認められる情報」になるものというべきである。
そして、「実質秘」を上記のように解すると、条例第7条第2号に該当する情報は「実質秘」に該当し、ひいては条例第7条第1号に該当し、条例第7条第2号に該当しない情報は、条例第7条第1号にも該当しないと解される。
そこで、条例第7条第1号(法令秘情報)の非開示情報を明らかにするとして非開示とされた当該情報については、条例第7条第2号(個人情報)の非開示情報を明らかにするか否かという観点から審理するのが適当である。
イ 条例第7条第2号(個人情報)
不動産取得税は、不動産の取得に対し当該不動産の取得者に課する税である。実施機関の説明によると、不動産の取得者から提出される不動産取得申告書のほか、多くは税務職員が法務局において登記情報を調査し、不動産を取得した情報を入手しているということである。調査等の結果、課税・非課税等を決定し、課税台帳で管理される。課税台帳には、不動産取得者の氏名・住所、物件所在地・地目又は種類、面積、取得年月日、取得原因、課税・非課税等の区分、課税標準額、税額等の情報が記載されており、調査等の結果、非課税等の不動産取得税を課税しない場合においても作成されている。
本件個人が本件建物を取得したという情報は、不動産登記簿によって公になっている。県税事務所が調査を行った結果、不動産取得税が課税されない場合にも課税台帳は作成され、課税・非課税の別、課税額等は条例第7条第2号に規定する非開示情報に該当すると認められるが、課税台帳の有無自体は同号に規定する非開示情報には該当せず、課税状況にかかる当該文書の存否を答えるだけで、当該非開示情報を開示することとなるものとは認められない。
一方、課税することとなった場合、納税状況を管理するため、納税義務者ごとに収納明細が作成される。非課税の者にかかる収納明細は作成されないため、収納明細の有無を明らかにすると、本件個人が納税義務者であるかどうかの情報が明らかになり、条例第7条第2号に規定する非開示情報を開示することと認められるので、納税状況にかかる文書の存否を明らかにしないとした実施機関の決定は妥当である。
したがって、実施機関は本決定の一部を取り消し、改めて開示・非開示等の決定を行うべきである。
(4)審査請求人のその他の主張
審査請求人はその他課税状況が公開されないということになれば、公務員が適正に税務に関して職務を全うしているかチェックできず、不法、違法行為等の温床になる可能性があるため、開示を主張する。しかし、(3)で述べたとおり、当該課税状況にかかる文書の存否は明らかにすべきものの、課税・非課税の別、課税額等や納税状況にかかる文書の存否は、条例第7条第1号及び第2号に規定する非開示情報に該当する以上、審査会の判断を左右するものではない。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
30. 4. 5 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
30. 5.31 | ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
30. 6.14 | ・審査会事務局において審査請求人の主張の聴取 |
30. 9.27 | ・書面審理 ・審査請求人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (平成30年度第4回第1部会) |
30.10.17 |
・審議 |
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
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※会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
※委員 | 内野 広大 |
※委員 |
川本 一子 |
※委員 | 藤本 真理 |
委員 | 片山 眞洋 |
委員 | 木村 ちはる |
委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。