三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第23号
答申
1 審査会の結論
実施機関が非開示とした決定は、存否を明らかにしない決定をすべきものであったが、結論において妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成29年12月19日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成29年3月に三重県立こころの医療センターにて発生した特定人に係るインシデントへの対処、検証に関する文書」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県病院事業庁長(以下「実施機関」という。)が、審査請求人親族の情報が含まれるインシデント報告書を対象公文書(以下「本件対象公文書」という。)として特定し、平成30年1月15日付けで開示請求者に対して行った公文書非開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるものである。
3 インシデント報告書について
インシデントは、「県立こころの医療センター医療安全管理指針」によると、医療事故には至らなかったが、発見、対応等が遅れれば患者に有害な影響を与えたと考えられる場合やその他、日常診療のなかで危険と思われる状況(ヒヤリ・ハット事例)のことをいう。そして、インシデント報告書は、こうした事例を広く収集し、事故予防や再発防止対策の策定とその効果の検証等に活用するため、作成されるものである。インシデントを経験した職員は、各セクションのリスクマネージャー(医療安全推進者)を経由して医療安全管理室に報告をする。医療安全管理室は、報告された事例を集計、分析したうえで、その結果を医療安全管理委員会に報告し、再発防止の観点から必要な対策を検討、策定することになっている。
4 審査請求の理由
審査請求書、反論書、意見書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
病院管理下で有害事象が発生したことに対し、インシデント報告内容を、広く第三者を対象とした公開ではなく、当事者(親族)に開示しないのは医療事故に係る説明義務違反であり不当である。
条例第7条第6号の事務事業情報に該当するため非開示とあるが、具体事務事業の明示もなく、整合性を欠く。「インシデント報告は事実のありのままの報告のため、報告者の氏名を秘匿とする」のが条件ならば、報告者の氏名を非開示とすれば個人責任の追及の恐れは生じず、病院の事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすことはないと思われる。
当初カルテについて保有個人情報開示請求を行ったが、知りたい情報が記載されていなかったため、病院の指示どおりインシデント報告書の公文書開示請求を行った結果、全て非開示の決定がなされた。その後、実施機関から「保有個人情報の開示請求で対応するべきであった」と示唆を受けたことから、実施機関は情報公開制度の適正な運用を行っていないと思われる。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。インシデント報告をもとにした医療安全対策の絶え間ない改善という仕組みが有効に機能するためには、事実をありのままに報告してもらうこと、多職種の職員から積極的に報告してもらうことが必要であり、報告者の氏名は秘匿し、当事者の個人責任を追及しないことを条件として報告をもらっている。インシデント報告書は病院内部で情報共有、再発防止のために使用されるもので、外部に公表することは想定していない。
インシデント報告書が公表されると、病院内外からの批判や責任追及を恐れて、ありのままの事実が報告されなくなるなど、インシデント情報の把握及び再発防止のための検討が困難となり、医療安全管理業務の適正な遂行に著しい支障を及ぼす恐れがあるため、条例第7条第6号(事務事業情報)に該当するとして非開示としたものである。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本決定の妥当性について
本件対象公文書には、特定人に関して病院で発生した事象、それに伴い実施した医療行為等が記載されており、本件対象公文書を特定することによって、上記事実が明らかになることから、これは条例第7条第2号に規定する個人情報に該当する情報であると認められる。
この点について実施機関は、審査請求人とのやり取りの中で、本件対象公文書が存在していることを明らかにしていたため、公文書の特定をし、本件非開示決定を行ったとのことである。
条例の定めた情報公開制度は、何人に対しても、理由や目的を問わず開示請求を認める制度であることから、開示・非開示の判断に当たっては、開示請求者が誰であるかは考慮されないものである。つまり、情報公開制度は誰に対しても同じ情報を公開する制度であるから、本人やその代理人等が請求した場合のみ開示するという判断をすることはできない。
したがって、当該事実の有無は、条例第7条第2号の非開示情報に該当し、本件対象公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することになるため、条例第11条の規定により、存否を明らかにしないで開示請求を拒否すべきであったと考えられる。
しかしながら、本件処分においては、本件対象公文書が存在することを認めた上で非開示決定を行っているため、上記で述べた非開示情報を既に開示した状態となっている。このような場合においては、改めて本決定を取り消して条例第11条を適用する必要性はなく、本件非開示決定は、結論において妥当であると判断する。
(3) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会からの意見
本事案について審査請求人は、三重県情報公開条例に基づく公文書開示請求を行ったところであるが、当審査会としては、実施機関は三重県個人情報保護条例に基づく保有 個人情報の開示請求を案内し、同条例に基づき処分を行うべきであったと考える。どの条例に基づき、どのような申請をするかについては県民に委ねられているとも考えられるが、実施機関としても、両条例を十分に理解することで、適切に案内ができるよう努められたい。8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
30. 5.11 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
30. 5.16 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 |
30. 6.20 | ・実施機関を経由して審査請求人からの反論書の受理 |
30. 6.22 | ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
30. 7. 5 |
・審査請求人からの意見書の受理 |
30. 7. 25 |
・書面審理 |
30. 8. 22 |
・審議 (平成30年度第4回第2部会) |
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
---|---|
会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
※会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
委員 | 内野 広大 |
委員 |
川本 一子 |
委員 | 藤本 真理 |
※委員 | 片山 眞洋 |
※委員 | 木村 ちはる |
※委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長職務代理者及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。