三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第22号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成30年1月30日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定個人が所有している浄化槽にかかる保守点検、法定検査、法令検査、清掃の記録」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、平成30年2月2日付けで三重県知事(以下「実施機関」という。)が行った公文書の存否を明らかにしない決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 審査請求の理由
審査請求書、反論書、審査会に提出された意見書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
開示請求の対象にした特定個人は、所有する浄化槽の保守点検、清掃等を行っておらず、汚水がたれ流されている。それを浄化する目的で、特定個人は自宅前に薬剤を散布しているが、この薬剤は非常に毒性が強いため、隣に住む私や家族、周辺住民が健康被害を受けている。県は個人情報保護法により第三者に情報が提供できないことを決定の理由にするが、個人情報を提供できる場合もあるはずである。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。個人が設置している浄化槽関連(財産状況)にあたり、個人情報のため、第三者への情報公開を行うことができない。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の意義について
公文書の開示請求があった場合、条例は、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならないが、条例第11条は、開示請求に対し、当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該公文書の存否を示さないで、当該公文書の開示をしないことができるとしている。
そして、「当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるとき」とは、開示請求に係る公文書の存否自体の情報が条例第7条各号の規定により保護すべき情報に当たる場合をいう。
この考え方に基づき、本請求の対象文書が存在するか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することになるか否かを、以下検討する。
(3)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性について
本請求は、特定の個人が所有する浄化槽にかかる保守点検、法定検査、法令検査、清掃にかかる文書を求めて行った開示請求である。
実施機関は、この請求に対して、浄化槽の点検結果等に関する公文書の存否を明らかにすることは、特定の個人における浄化槽の設置の有無を知らしめることとなり、条例第7条第2号に掲げる非開示情報を開示することとなると主張している。
浄化槽は、公共下水道等が整備されていない地域において、住宅などの建物の所有者等が設置する汚水処理施設であるが、すべての建物に設置されているわけではなく、浄化槽法(昭和58年法律第43号)施行前に建築された住宅等において浄化槽を設置していない場合もある。
本件請求は、特定の個人を特定し、その個人が所有する浄化槽の点検結果等に関する公文書の開示を求めている。浄化槽は、設置する個人や法人等の財産であるといえ、かかる請求について公文書の存否を答えることは、特定個人が浄化槽を設置しているかどうか、財産の保有状況について答えることとなる。
また、審査請求人は、個人情報であっても例外的に開示できる場合もあると、条例第7条第2号ただし書ロの該当性について主張している。条例第7条第2号ただし書ロは、個人識別情報であっても「公益上公にすることが必要であると認められるもの」については公開の対象となる旨規定している。
この点について、審査請求人は、開示請求の対象とした個人が撒く薬剤を原因とする健康被害を訴えているが、浄化槽からの排水そのものを原因とする健康被害を訴えている訳ではない。また、開示請求の対象とされた個人が所有する土地の近隣において、浄化槽の排水そのものを原因とする公衆衛生上の問題が生じているという具体的な事情もうかがえない。したがって、仮に開示請求の対象とされた個人が浄化槽を保有していたとしても、浄化槽にかかる点検結果等は開示される必要性のある公益性の高い情報とはいえず、条例第7条第2号ただし書ロには該当しないと判断する。
ところで、条例の定めた情報公開制度は、何人に対しても、理由や目的を問わず開示請求を認める制度であることから、開示・非開示の判断に当たっては、開示請求者が誰であるかは考慮されないものである。つまり、情報公開制度は誰に対しても同じ情報を公開する制度であるから、開示請求者が非開示情報を知り得ていたとしても、当該情報を開示するという判断をすることはできない。
したがって、当該文書の存否を答えるだけで、条例第7条第2号に規定する非開示情報を開示することとなるため、実施機関が条例第11条の規定に基づき当該公文書の存否を示さないで非開示としたことは妥当である。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。6 審査会の意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、本件事案については、実施機関の事務処理の一部に不適切な点が見受けられることから、審査会として次のとおり意見を申し述べる。開示請求を拒否する処分を行う場合の理由付記(条例第15条)については、開示請求者が拒否の理由を明確に認識し得るものであることが必要であると解されている。
本決定において、実施機関は、公文書の存否を明らかにしない理由として「個人情報保護法により、浄化槽にかかる個人情報を第三者に提供ができないため」と記載しており、浄化槽にかかる情報が、なぜ個人情報であり公文書の存否を明らかにすることができないのかを書面からは知り得ることができないため、実施機関の理由付記に不備があったと言わざるを得ない。
実施機関は、情報公開制度への信頼を確保するためにも、条例の適正な運用に努め、今後同様のことがないよう正確、慎重な対応をするよう努力することが望まれる。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
30. 3.15 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
30. 4. 9 | ・実施機関を経由して審査請求人からの反論書の受理 |
30. 5.14 | ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
30. 5.29 | ・審査請求人からの意見書の受理 |
30. 6.13 |
・書面審理 |
30. 6.13 | ・審査請求人からの意見書の受理 |
30. 7.10 | ・実施機関からの意見書の受理 |
30. 7.18 | ・審議 (平成30年度第2回第1部会) |
30. 8.21 | ・審議 ・答申 (平成30年度第3回第1部会) |
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
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※会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
※委員 | 内野 広大 |
※委員 |
川本 一子 |
※委員 | 藤本 真理 |
委員 | 片山 眞洋 |
委員 | 木村 ちはる |
委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。