三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第16号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件審査請求の対象となった部分について、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成29年7月4日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県内の公立小・中・高・養護・盲学校に関する体罰事故報告書(加害教師の反省文、顛末書、診断書、事情聴取記録、その他一切の添付文書等を含む)(平成24年度分)」の開示請求(以下「本開示請求」という。)に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成29年8月16日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件審査請求の対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、平成24年度に県立学校及び各市町教育委員会から実施機関に提出された体罰事案に係る報告書である。
4 審査請求の理由
審査請求書及び反論書、意見書における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
(1)審査請求書における主張
平成18年大阪高裁判決、平成23年大阪高裁判決、平成29年神戸地裁判決等においては、学校において教師が行った体罰は、加害教師に関しては、「職務の遂行に係る情報」であると認定され、公務員のプライバシーではないとされている。これらの判決により、プライバシー型の条例を有する兵庫県、神戸市その他多くの自治体の教育委員会では、体罰事故報告書の学校名、校長名、加害教師名等は原則公開とされてきている。非公開が認められているのは、児童生徒の氏名、関係者の住所等ごく一部にすぎない。
次に、条例第7条第2号では、「個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等によって特定の個人が識別され得るもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)若しくは特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの又は個人の事業に関する情報及び公務員等の職務に関する情報のうち公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」を「非開示情報」としている。
実施機関の非公開理由は、「理由1」、「理由2」に見られるとおりであるが、ただし書の部分を除くとそれは「個人に関する情報であって特定の個人が識別され得るもの」(理由1)と「公務員等の職務に関する情報のうち公にすることにより当該職員の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」(理由2)となる。
このうち「理由1」のみが該当するとされているのは、「保護者の意見・心情等に関する記述」、「被害児童生徒及び関係児童生徒に関する情報」であるが、これらのうち上記関連判決に照らして非公開が認められるのは被害児童生徒の氏名のみであると思われる。これらを除けば、「保護者の意見・心情等に関する記述」、「被害児童生徒及び関係児童生徒に関する情報」はそれだけでは「特定の個人が識別され得るもの」とはいえないし、裁判所の判断も同様である。なお、上記司法判断は、個人特定のための「他の情報」については、「一般人基準」を取ることを求めている。
次に「理由1」と「理由2」がともに主張されているのは、「学校名」、「練習試合等の場所」、「学校の詳細状況」、「学校行事月日」、「当該教育委員会の市町名及び市町名に関する記述」、「職員の名前」、「学校行事」とされる部分である。このうち「理由2」すなわち「公務員等の職務に関する情報のうち公にすることにより当該職員の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」については、上記関連判決では、体罰事故報告書においては教員の氏名は、保護に値するプライバシーではなく、非公開を正当なものとする事由とは認めていないのであるから、「公にすることにより当該職員の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」には当たらない。そもそも氏名以外の情報については、「公にすることにより、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」に当たらないことは自明というべきである。
次に「理由1」すなわち「個人に関する情報であって特定の個人が識別され得るもの」であるが、被害児童生徒と校長・加害教員を含め職員とに分けて考える。
まず職員名を含めこれらの情報を公開しても被害児童生徒が一般には特定されないことは自明である。教員名を公開するとそれだけで被害児童生徒が特定されるとの考えに立つものかもしれないが、そのこと自体も上記関連判決で否定されている。だからこそ教員名などは公開すべきと判示されているのである。
職員名については、まず「学校名」、「練習試合等の場所」、「学校の詳細状況」、「学校行事年月日」、「当該教育委員会の市町名及び市町名に関する記述」、「学校行事」だけでは、加害教員を特定することは一般にはできない。自治体の中には複数の学校があり、一つの学校には複数の教職員がいることが通常だからである。自治体、教委名が分かると学校名が分かり、教員が、ひいては児童生徒の特定が可能になるとの「ドミノ理論」も司法判断で否定されている。
結局、学校名を明らかにすれば、校長名が明らかになり、職員名を明らかにすれば加害教師を特定することができることをどう考えるかに帰着する。これについては近年の最高裁判決が、公務員の職務の遂行に関する情報は、そもそも「個人に関する情報」には該当しないとしていることから、特定されても「理由1」に該当することはなく、問題ないと結論できる。
すなわち最高裁判所はじめ各種の判決・答申においては、プライバシー型の規定を採用している地方公共団体の条例の「特定の個人を識別できる情報のうち、他人に知られたくないもの」と情報公開法その他の「特定の個人を識別できる情報から、ただし書イ、ロ、ハを除いたもの」等の個人識別型とで個別の情報の取扱いに実質的に大きな差異をつけてはいない。個人識別型の規定においても、公務員の氏名等の公開が争われた判決の例としては、「公務員の職務の遂行に関する情報は「個人に関する情報」に該当しない」とした例(最高裁判決平成15年12月18日(広島県条例関係))、その他、最高裁判決平成15年10月24日(岐阜県条例関係)、最高裁判決平成15年11月21日(新潟県条例関係)など同様の判決が続いている。
よって、個人識別型の三重県情報公開条例においても、プライバシー型の兵庫県や神戸市同様、体罰事故報告書においては教員名も含め公開されるべきである。実際、個人識別型の条例を持つ自治体(大阪市、岡山市、滋賀県、奈良県、岡山県、岐阜県等)の下でも、同様の公開が行われている。
ゆえに、本件公文書の部分開示範囲は、三重県情報公開条例、関連する諸判決等に照らし、違法な非開示部分を大量に含むものであり、本件決定は取り消されるべきである。
(2)反論書における主張
ア 弁明書の第3の1(体罰事故報告書に係る公文書開示請求の考え方)について
法治行政の下、情報開示は、「教育委員会の方針」によってでも、過去の審査会答申によってでもなく、裁判所の判断に従った条例解釈によって行われなければならない。実施機関はこれら司法判断を踏まえ、自己の処分がそれに合致したもの、それに違背しないもの、あるいはそれらは三重県情報公開条例には関係のないものであることを示さねばならない。弁明書にはこの点についてひとことの言及もない。それだけで法治行政失格である。
実施機関の弁明書には、対象文書記載の教員が、懲戒処分には至らない「訓告等」を受けていることが書かれている。これはつまり加害教員が懲戒処分や訓告等を受けたことは保護されるべきプライバシーであるところ、事故報告書で氏名を開示すると、本人が訓告等を受けたことも明らかになるので非開示とする、ということかと思われる。言うまでもなくこの点も関連司法判断で論点とされたものであり、それが明らかになることの是非は担当裁判官も十分理解した上で教員名まで開示せよと判断しているのである。
そもそも体罰事故報告書自体には懲戒処分の内容は記されておらず、別の文書において懲戒処分の内容を開示しているとすれば、それは実施機関の判断なのであるから、体罰事故報告書の氏名開示それ自体がプライバシー侵害にはならないこと、よって本件処分においてそれを理由に条例第7条第2号を持ち出すことが不当であることも言うまでもない。関連司法判断もそのような考えに基づいている。非開示情報はあくまでも当該文書に記されているものでなければならず、そこに懲戒処分・指導措置に関する記述がないのに、それを理由に非開示を行うのは、条例解釈の誤りであり、違法である。
イ 弁明書の第3の2(被害児童生徒及び関係児童生徒に関する情報)について
児童生徒の情報においても、その個人が識別可能でなく、また「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」(いわゆるセンシティブ情報)でもないのであれば、公開することが条例の求めるところである。
なお、児童生徒の個人識別可能性については、「一般人基準」を取るべきこと、その他司法判断に従うべきことは同様である。関連司法判断ではまさに体罰事故報告書においては一貫して「何人でも入手可能な情報を基準として考えることが適切」とされているのである。
「生徒の発言・行動記録・心身の状況に関する記述」も個人特定を前提としないのであれば、センシティブ情報であるかどうかが基準であり、よく例示として示される「カルテ」、「反省文」などと同等の重大性があるかどうか、個別に判断されるべきで、一律に非公開とされてはならない。「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」は厳密に解されないと濫用のおそれがあるからである。
ウ 弁明書の第3の3(学校名、練習試合等の場所等)について
ここで示された情報は、それ自体では「特定の個人が識別され得るものではない」と実施機関も自認している。他方で、「特定の個人が識別される可能性は否定できない」などと曖昧なことを書いているが、要は審査請求書に書いたドミノ理論である。こちらは司法判断に照らせば、それは否定されていると言っているのであるから、否定されていない根拠を具体的に論じるべきであるが、それはなされていない。児童生徒の個人特定可能性、心身に配慮する必要性についても、イで述べたとおりである。関連裁判例は、こうした情報を開けることを命じており、それはそうしても児童生徒の特定も心身への影響も原則ないと判断しているからである。裁判例に従っていただきたい。
エ 弁明書の第4(職員の名前)について
職員の名前についても、アで述べたとおりである。
オ 弁明書の第5(保護者の意見・心情等に関する記述等)について
保護者の発言、意見、心情等についても、要はセンシティブ情報であるかどうかが基準であり、よく例示として示される「カルテ」、「反省文」などと同等の重大性があるかどうか、個別に判断されるべきで、一律に非公開とされてはならない。「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」は厳密に解されないと濫用のおそれがあるからである。
カ 結論
以上より個人識別型の三重県情報開示条例においても、プライバシー型の兵庫県や神戸市同様、体罰事故報告書においては教員名も含め開示されるべきである。実際、個人識別型の条例を持つ自治体(大阪市、岡山市、滋賀県、奈良県)の下でも、同様の開示が行われている。
よって本件処分に関する実施機関の非開示説明は正当なものとは言い難く、到底認められない。審査請求書に記載のとおり請求文書の一部非開示決定処分を取り消し、変更するとの決定を求める。
(3)意見書における主張
プライバシー型、個人識別型のどちらの情報公開条例を持つかにかかわらず、多くの情報公開審査会は、近年、関連判決を踏まえ、学校名、校長名、教員名その他の公開を求める答申を出している。具体的には、大阪府、奈良県、京都府、堺市、滋賀県などである。
これらの判断は、審査請求人の主張が情報公開の専門機関からも正しいと支持されていることを示しているというべきである。貴審査会におかれても、これらも参考の上、法的に正しく優れた判断を出されることを信じるものである。
以上より個人識別型の三重県情報公開条例においても、プライバシー型の兵庫県や神戸市同様、体罰事故報告書においては教員名も含め開示されるべきである。
よって本件処分に関する実施機関の非開示説明は正当なものとは言い難く、到底認められない。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当であるというものである。
(1) 体罰事故報告書に係る公文書開示請求の考え方について
審査請求人は、審査請求書において、「非公開が認められているのは、児童生徒の氏名、関係者の住所等ごく一部にすぎない」とし、児童生徒の氏名、関係者の住所等ごく一部を除き、全て開示するよう求めている。
三重県教育委員会においては、懲戒処分の公表は、平成26年9月9日付け「懲戒処分の公表について」により、原則、「①処分年月日」、「②処分内容」、「③処分根拠法令」、「④被処分者(学校名、職名、性別、年齢)」、「⑤処分対象事案の概要」について公表することとしているが、「懲戒処分の理由となった事案に、児童・生徒が直接関係し、かつ、安心・安全な生活を守るため当該児童・生徒に配慮する必要性がある場合」には「学校名及び具体的な職名等は原則、差し控える」こととしている。
また、体罰を原因として公立学校職員に対して行われた懲戒処分事案に係る公文書開示請求にあっては、平成26年3月7日付け三重県情報公開審査会答申第408号に基づき、「①個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得る情報」、「②個人に関する情報であるものの、それだけでは特定の個人が識別され得るものではないが、他の入手し得る情報により、特定の個人が識別され得る可能性が否定できない情報」、「③被害生徒及び保護者の発言、行動記録、心身の状況及び評価内容に関しての情報のうち、特定の個人の思いや信条、評価等の記載と認められる部分」、「④体罰事案に係る懲戒処分等を受けた職員の氏名であって、その氏名を開示することにより、当該公務員の公務員としての立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有し、私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」については非開示としている。
本開示請求のうち、対象文書の限定がなされた範囲は、全て地方公務員法に基づく懲戒処分には至らない、指導・監督上の措置である訓告等に係るものである。しかしながら、当委員会では、本開示請求について、訓告等より重い、地方公務員法に基づく懲戒処分事案に係る公文書開示請求の答申である平成26年3月7日付け三重県情報公開審査会答申第408号にならい、開示・非開示の判断を行ったものである。
開示・非開示の判断に当たっては、原則開示の観点から、特定の個人が識別され得る情報、公務員の私生活上の権利利益を害するおそれがある情報のみを例外的に非開示とし、これ以外の情報については、全て開示としており、また、今回開示とした情報により、体罰事案の概要について容易に把握できるものとなっている。
(2)被害児童生徒及び関係児童生徒に関する情報について
ア 児童生徒の氏名について
被害児童生徒及び関係児童生徒に関する情報のうち、児童生徒の名前については、個人に関する情報であり、特定の個人を識別し得る情報であることから、非開示と判断したものである。
イ 児童生徒のクラス名、出自に関する情報、生徒会での役職名等について
一方、被害児童生徒及び関係児童生徒に関する情報のうち、児童生徒のクラス名、出自に関する情報、生徒会での役職名等については、個人の情報であるものの、それだけで特定の個人が識別され得るものではない。
しかしながら、これらの情報を開示した場合、既に開示している情報(発生年月日、校種、被害児童生徒の学年・部活動名、職員の年齢・性別・担当学年・担当教科など)及び他の入手し得る情報と照合することにより、特定の個人が識別され得る可能性は否定できない。
また、体罰事案は、「児童・生徒が直接関係し、かつ、安心・安全な生活を守るため当該児童・生徒に配慮する必要性がある」ものであり、それが開示されることによって、個人が特定されることについて留意しなければならないだけでなく、児童生徒の心身等に重大な影響を及ぼさないよう配慮しなければならない。
これらのことから、非開示と判断したものである。
ウ 児童生徒の発言・行動記録・心身の状況に関する記述について
また、被害児童生徒及び関係児童生徒に関する情報のうち、児童生徒の発言・行動記録・心身の状況に関する記述については、特定の個人の思いや信条、評価等を記載した情報であり、個人の人格と密接に関係するため、当該個人がその流通をコントロールすることが可能であるべきであり、本人の同意なしに第三者に流通させることは適切ではなく、また、それらの情報の内容次第では、それが開示されることによってさらに本人の心身等に重大な悪影響を及ぼす可能性もある。
これらのことから、非開示と判断したものである。
(3)学校名、練習試合等の場所、学校の詳細状況、学校行事月日、該当教育委員会の市町名及び市町名に関する記述、学校行事・練習試合等の場所について
学校名、練習試合等の場所、学校の詳細状況、学校行事月日、学校行事・練習試合等の場所については、個人の情報であるものの、それだけで特定の個人が識別され得るものではない。
しかしながら、これらの情報を開示した場合、既に開示している情報(発生年月日、校種、被害児童生徒の学年・部活動名、職員の年齢・性別・担当学年・担当教科など)及び他の入手し得る情報と照合することにより、特定の個人が識別され得る可能性は否定できない。
また、該当教育委員会の市町名及び市町名に関する記述についても、それだけで特定の個人が識別され得るものではないが、本県においては、一つの町に学校が一校しかない場合があり、市町名等を明らかにすることが、学校名を明らかにすることに繋がるものである。
さらに、体罰事案は、「児童・生徒が直接関係し、かつ、安心・安全な生活を守るため当該児童・生徒に配慮する必要性がある」ものであり、それが開示されることによって、個人が特定されることについて留意しなければならないだけでなく、児童・生徒の心身等に重大な影響を及ぼさないよう配慮しなければならない。
なお、平成26年3月7日付け三重県情報公開審査会答申第408号において、既に報道機関により明らかにされているものであれば、「慣行により公にされた情報」として開示対象となるものとされているが、今回、開示請求のあった文書において、報道機関により明らかにされているものはない。
これらのことから、非開示と判断したものである。
(4)職員の名前について
職員の名前については、体罰事案に係る職員の名前であり、特定の個人が識別され得ることは明らかである。
もっとも、三重県情報公開条例第7条第2号本文において、特定の個人が識別され得るものであっても、公務員の職務に関する情報は除外していることからすれば、体罰行為は、生徒に対する教育指導等の過程、すなわち職員の職務の遂行の過程で発生したものであり、かかる情報は公務員等の職務に関する情報として基本的には開示すべきものといえる。
しかしながら、当該情報は職員が公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報というべきであるから、その名前を開示することにより、当該公務員の私生活上の権利利益を害するおそれがあるといわざるを得ない。
これらのことから、非開示と判断したものである。
(5)保護者の意見・心情等に関する記述、保護者の発言・心情等に関する記述について
保護者の意見・心情等に関する記述、保護者の発言・心情等に関する記述については、特定の個人の思いや信条、評価等を記載した情報であり、個人の人格と密接に関係するため、当該個人がその流通をコントロールすることが可能であるべきであり、本人の同意なしに第三者に流通させることは適切ではなく、また、それらの情報の内容次第では、それが開示されることによってさらに本人の心身等に重大な悪影響を及ぼす可能性もある。
これらのことから、非開示と判断したものである。
(6)意見書での補足意見
審査請求人は反論書において、「弁明書では、対象文書記載の教員が懲戒処分には至らない「訓告等」を受けていることが書かれている。これはつまり加害教員が懲戒処分や訓告等を受けたことは保護されるべきプライバシーであるところ、事故報告書で氏名を開示すると、本人が訓告等を受けたことも明らかになるので非開示とする、ということかと思われる」とし、教員の氏名の全面的な開示を求めているが、本委員会は、加害教員が懲戒処分や訓告等を受けたことが保護されるプライバシーであるとの観点で非開示としたものではない。
本委員会は、原則開示の観点から、特定の個人が識別され得る情報、公務員の私生活上の権利利益を害するおそれがある情報のみを例外的に非開示としており、これ以外の情報については、全て開示としているものである。
なお、本委員会は、かつて体罰に係る懲戒処分について、公文書開示請求がなされた際、報告用紙について一部開示、一部非開示として対応していたところであり、今回の請求事案も体罰に係る公文書開示請求という点では共通であることから、同様の対応をしているところである。
また、審査請求人は反論書において、「「児童生徒及び保護者の発言・行動記録・心身の状況に関する記述」も個人特定を前提としないのであれば、センシティブ情報であるかどうかが基準であり、よく例示として示される「カルテ」、「反省文」などと同等の重大性があるかどうか、個別に判断されるべきで、一律に非公開とされてはならない」とあるが、本委員会は、一律に非開示としているわけではなく、「特定の個人の思いや信条、評価等を記載した情報」に限って非開示としており、「単なる事実等若しくは他で明らかとなっている情報」については開示としており、個別に判断を行った上で一部を非公開としているものである。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本件非開示部分について
実施機関が本件対象公文書において非開示とし、審査請求人が開示が妥当であると主張する部分(以下「本件非開示部分」という。)は多岐にわたるが、その内容により以下のとおり分類することができる。
(a)加害教員の氏名
(b)加害教員の処分の内容
(c)市町名、学校名、部活動等の活動場所、行事月日、加害教員以外の教員の氏名、クラス名、出自、家庭環境等
(d)加害教員・被害児童生徒・保護者の発言、行動、心情等に関する情報
そこで、これらの非開示部分について、当審査会において本件対象公文書を見分した結果を踏まえ、非開示情報該当性を検討する。
(3)条例第7条第2号の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。 そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(4)公務員等の職務遂行に関する情報について
本号は、「公務員の職務に関する情報」を個人情報から除外し、原則開示することとしている。これは、公務員の職務に関する情報は、そもそも公務員の職務の性格上公益性が強いことから「個人に関する情報」には含まないこととし、当該情報を原則開示することとしたものである。
ただし、公務員の職務に関する情報であっても、例外的に「公にすることにより、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」については非開示となる。これは、公務員の職務に関する情報であっても、同時に公務員の私事に関する情報の側面もあり、同側面の方が明らかに大きいような場合(特定公務員の「給与額」、「勤務成績」、「処分歴」等)がこれに該当すると解される。
この点において、条例は、県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としているものであり、県の諸活動を県民に説明する責務は、単に適切に行われた公務員の職務の遂行に関する情報についてのみ向けられているのではなく、非違行為など違法・不当と評価され得るような公務員の職務の遂行に関する情報についても向けられていると解すべきであり、「公務員等の職務に関する情報のうち公にすることにより、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」として非開示とできる情報は、極めて限られたものであると解するべきである。
(5)条例第7条第2号の該当性について
ア (a)加害教員の氏名及び(b)加害教員の処分の内容
まず、本件非開示部分(a)について検討する。体罰行為は教育指導等の過程で発生したものであり、本件対象公文書に記載されている体罰の経緯等を示す情報が、本件非開示部分(a)を含め、公務員等の職務に関する情報に該当することについては、実施機関も認めるところである。
この点について実施機関は、本件対象公文書に記載されている体罰事案に係る加害教員に対しては、全て地方公務員法に基づく懲戒処分には至らない、指導・監督上の措置である訓告等が行われているため、本件非開示部分(a)を開示することで、本件非開示部分(b)を開示せずとも当該教員が何らかの処分を受けたことが判明し、結果として公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させると主張している。
しかしながら、本件非開示部分(a)を公開しても、当該教員の「処分歴」のような不適切な職務遂行の結果として課された制裁の内容が明らかになるわけではなく、あくまでも公務員である教員の職務の遂行に関する情報が明らかとなるだけであり、その点においては私事の側面は大きくないと考える。また、体罰という非違行為が行われた場合には、当該教員が口頭注意等を含む何らかの処分を受ける相当の蓋然性のあることは自明の理であり、このような情報を非開示とすると、およそ体罰という非違行為に関する情報はすべて非開示情報として公開されないことになり、条例の本来の趣旨、目的が没却されてしまうこと、学校教育法上禁止されている体罰を行った場合、それは公務員たる教員としての適格性にかかわる問題として公的な側面を持ち、そのような違法行為がされた具体的事情は県民の正当な関心事であると考えられることを考慮すると、本件非開示部分(a)は「公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある情報」に該当するとは判断できない。
また、実施機関は、地方公務員法上の懲戒処分は、公務員関係における秩序維持のために、職員の義務違反に対して任命権者が職員に科する制裁であるのに対し、地方公務員法上の懲戒処分でない訓告等は、服務監督権者が職員の職務遂行に注意を喚起し、その改善向上に資するために行われる措置であり、制裁を目的としているものではないにもかかわらず、本件非開示部分(a)を公開することにより当該教員の道義的責任が追及され、本来訓告等が予期していない「制裁」を加えられることが危惧されるとも主張する。
しかしながら、公務員等の職務遂行の過程で違法・不当と評価され得るような行為が行われた場合、県民が道義的責任を追及することは当然であり、実施機関にはそのような県民からの追求に対して説明責任を果たす義務があること、あくまでも教員の職務の遂行に関する情報が明らかになるだけであり、公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる情報とは認められないことから、実施機関の主張する理由をもって本号に該当するとは判断できない。
以上のとおり、本件非開示部分(a)については、当該教員が体罰を行ったことが判明したとしても、公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる情報であるとまでは認められず、本号には該当せず、開示することが妥当である。
一方で、本件非開示部分(b)は、加害教員に対する具体的な訓告等の処分の内容を示すものであり、これを開示することで公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報であるというべきであり、また、あくまでも不適切な職務遂行の結果として課された処分の内容であることを考えると、公的な側面よりも私事の側面の方が大きいものであると判断する。したがって、本件非開示部分(b)については本号に該当し、非開示とすることが妥当である。
なお、本決定においては、本件非開示部分(a)が非開示とされている一方、一部の事案においては当該教員になされた具体的な訓告等の処分の内容が開示されており、本件非開示部分(a)と結びつくことにより、当該教員の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとも考えられる。しかしながら、その権利利益の侵害具合は重大なものではなく、かつ処分内容を実施機関が開示したことによって本来開示されるべき加害教員の氏名が開示できないのは条例の趣旨と照らし合わせても適当ではないと考えるため、やはり本号を適用するのは適当ではない。
イ (c) 市町名、学校名、部活動等の活動場所、行事月日、加害教員以外の教員の氏名、クラス名、出自、家庭環境等
実施機関は、本件非開示部分(c)については、それだけでは被害児童生徒が識別され得るものではないが、既に開示している情報及び他の入手し得る情報と照合することにより、識別される可能性は否定できないため、本号に該当すると主張する。
本号における個人識別性の判断は、特定の個人について特別の情報を有しない一般人が、通常入手し得る他の情報と照合することにより、特定の個人を識別できることを基準に判断するのを原則とする。ただし、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする本号の趣旨や、条例第3条において個人のプライバシーに関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮が求められていることからすれば、一般人であれば特定の個人を識別できない場合であったとしても、特別の情報を有する関係者によって特定の個人が識別され、その結果、当該個人のプライバシーにかかわる情報が開示されることにより、個人の人格的利益が著しく侵害され、当該個人の社会的評価が著しく低下し、その回復が極めて困難な事態が生じる相当程度の蓋然性が認められる場合には、特定の情報を有する関係者を基準に判断するのが相当な場合もある。
これを踏まえ、本件非開示部分(c)について検討すると、被害児童生徒の関係者等が本件非開示部分(c)を閲覧することにより、被害児童生徒を特定し得る可能性は否定できないが、体罰に至る経過、関係者への対応等の内容については、そのほとんどの情報については、当該被害児童生徒の年齢やその他の状況に照らし、特異な行動を取ったと認められるようなものや当該被害児童生徒の名誉を大きく侵害するようなものであるとはいえないことからすれば、特定の立場にある者が有する情報との照合による個人の識別可能性ではなく、一般人が通常入手し得る情報との照合により、特定の個人を識別することが相当程度の確実性をもって可能と認められるか否かにより決すべきである。
この点について、実施機関は、体罰事案を公表するに当たっては、児童生徒が直接関係し、かつ、安心・安全な生活を守るため当該児童生徒に配慮する必要性があると主張しているが、当審査会としても被害児童生徒の出自のような情報については個人のプライバシーに強くかかわるものであり、非開示が妥当であると判断するところである。しかしながら、その他の情報については上記のとおり、一般人が通常入手し得る情報との照合で識別することが相当程度の確実性をもって認められるものではないと考えるため、本号には該当しないと判断せざるを得ない。
したがって、本件非開示部分(c)のうち、別表1に掲げる部分について非開示とした実施機関の判断については妥当であるが、別表1に掲げる部分以外の部分については、本号に該当するとはいえず、本件非開示部分(c)を非開示とした実施機関の判断は妥当ではない。
ウ (d)加害教員・被害児童生徒・保護者の発言、行動、心情等に関する情報
本号は、「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報」を非開示とすると規定している。これは、個人を識別できない情報であっても、個人の人格、私生活と密接に関連し、あるいは、個人の知的創作に関連する情報については、これを公にすることとなれば、個人の人格や財産権を侵害するおそれが生じることもあることから、当該個人のみが情報の流通をコントロールして然るべきであるという趣旨から規定されたものである。
これを本件についてみるに、本件非開示部分(d)は、体罰事故が発生する前の加害教員・被害児童生徒の発言や行動、体罰事案が発生した後の被害児童生徒・保護者の発言や行動等の外形的事実に関する情報であり、「反省文」といった心情を直接的に表した文書とは性質を異にするものであるため、加害教員・被害児童生徒・保護者の心情等これらの者の人格に密接に関連するものということはできない。したがって、本件非開示部分(d)は、公にしても、個人の権利利益を害するおそれは認め難く、本号には該当しない。
なお、本件非開示部分(d)の記述の中には、出自や家庭環境等が記載されている箇所もあるが、その点についてはイで述べたとおり、非開示とすることが妥当である。
(6)その他
実施機関は、三重県情報公開審査会答申第408号に倣い、本決定を行ったと主張しているが、本件事案はあくまでも体罰に係る報告書が対象となった事案であり、懲戒処分に係る文書を扱った答申第408号とは異なるものである。
当審査会としては、開示・非開示の判断の妥当性について、事案ごとに審査しており、過去の審査会の答申や判例等についても検証し、慎重な審議をした上で今回の結論に達したものである。
(7)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。別表1
審査会が非開示とすべきと判断する部分頁番号 | 行番号 | 備考 |
---|---|---|
8頁 | 「体罰の概要」の3~4行目 | 3行目17文字目~4行目4文字目のみ |
「体罰の概要」の8~10行目 | 8行目6 文字目~10行目4文字目のみ | |
16頁 | 「体罰の概要」の20~24行目 | 20行目11文字目~24行目5文字目のみ |
17頁 | 「体罰の概要」の11行目 | 4~6文字目のみ |
18頁 | 「体罰の概要」の6行目 | 7~12文字目のみ |
39頁 | - | 児童生徒の氏名 |
73頁 | 「体罰の概要」の1行目 | 4~11文字目のみ |
87頁 | - | 児童生徒の氏名 |
90頁 | - | 児童生徒の氏名 |
98頁 | - | 児童生徒の氏名 |
99頁 | - | 児童生徒の氏名 |
100頁 | - | 児童生徒の氏名 |
101頁 | - | 児童生徒の氏名 |
102頁 | - | 児童生徒の氏名 |
「体罰行為の詳細とその対応」の12行目~14行目 | 12行目37文字目~13行目18文字目及び13行目29文字目~14行目13文字目のみ | |
103頁 | - | 児童生徒の氏名 |
104頁 | - | 児童生徒の氏名 |
「体罰行為の詳細とその対応」の9行目 | 12~19文字目のみ | |
106頁 | - | 児童生徒の氏名 |
111頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
112頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
113頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
114頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
117頁 | - | 児童生徒の氏名 |
118頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
119頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
120頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
121頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
122頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
123頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
124頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
125頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
126頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
127頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
128頁 | - | 児童生徒・保護者の氏名、処分の内容 |
129頁 | - | 児童生徒の氏名、処分の内容 |
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
29.10.11 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
29.10.16 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 |
29.11.28 | ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
29.12. 6 | ・審査請求人からの意見書の受理 |
29.12.19 |
・実施機関からの意見書の受理 |
30. 2.21 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・審議 (平成29年度第8回第1部会)
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30. 3.22 | ・審議 ・答申 (平成29年度第9回第1部会)
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三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
---|---|
※会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
※委員 | 内野 広大 |
※委員 |
川本 一子 |
※委員 | 藤本 真理 |
委員 | 片山 眞洋 |
委員 | 木村 ちはる |
委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。