三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第14号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件審査請求の対象となった公文書のうち、当審査会が開示妥当と判断した部分を除き、非開示とすることが妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成29年6月28日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定施設の温泉利用許可申請書等」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、審査請求人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる温泉利用許可申請書等を対象公文書(以下「本件対象公文書」という。)として特定し、平成29年8月9日付けで開示請求者に対して行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、条例第17条第2項に規定する第三者である審査請求人が取消しを求めるというものである。
3 本件審査請求について
実施機関は、本請求に際し、本件対象公文書に審査請求人の情報が含まれていることから、条例第17条第2項の規定に基づき、審査請求人に対して意見照会を行った上で、本決定を行った。
実施機関は本決定を行うと同時に、反対意見書を提出した審査請求人に対し、条例第7条第3号(法人情報)に該当しないとの理由で条例第17条第3項の規定に基づき本件対象公文書を開示する旨を通知したところ、審査請求人から非開示とすることを求めて本件審査請求が提起された。
なお、本請求を行った開示請求者に対しては、本件審査請求に係る裁決に至るまで開示を停止する旨の通知がなされている。
4 審査請求の理由
審査請求書及び審査会に提出された意見書における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
(1)主意的主張
審査請求人は特定の法人と温泉水の排水に関して紛争中であり、本件対象公文書に記載されている温泉水の使用量・温度・排水経路の事実については、まさに当該紛争の帰趨を決する重要な争点であることは否定し難いものであると考える。したがって、「使用量・温度・排水経路の事実を知ることにより、争訟をどちらかが有利に進めるとは考えられないため」という実施機関の判断は、紛争の争点の捉え方及びその理解が十分ではないと考える。
(2)予備的主張
仮に、争訟性がない、ないしは低いものと考えられたとしても、申請書・届出書・報告書に添付された図面その他添付書類全てを開示することは、情報公開制度の目的を逸脱するものである。
さらには、図面等は、その作成者の専門的技術及び専門的ノウハウ等が凝縮されたものであり、他に模倣された場合には、当該図面作成者の法的保護を受ける利益を侵害するものである。たとえ、図面作成者の氏名などの個人情報を非開示にしても、何らその被害の発生防止にはならないと考える。
特に、旅館はじめ宿泊施設における排水経路に関する図面は、当該施設に特別に合致するように、いわゆる「オーダーメイド」によるものであり、著作権法・意匠法その他の法令による法的保護の対象となる利益が含まれているものである。
これら法律により保護される法的利益は、単に図面作成者だけではなく、現時点ではその発注者である審査請求人に対し、一時的に帰属するものである。図面自体が開示されれば、そこに表されている上記法的利益が拡散し、模倣される危険性は大であり、審査請求人等の法的利益を侵害することは必至である。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定等が妥当というものである。
利用許可申請書等に記載されている温泉の温度については、温泉法第18条第1項の規定により温泉等成分を施設内に掲示する義務があり、同法施行規則第10条第1項第3号で温度について記載する事項として求められている。そのため、温泉の温度については、公にされている情報である。
また、審査請求人は意見書において、利用許可申請書の1日の利用予定量、利用状況報告書の宿泊施設・公衆浴場施設の各年度温泉使用量については、同業他社との比較等の例示に使用されることを回避することと、営業上重大な支障があると述べているが、利用予定量については、浴槽の容量から概算で出されたものであり、利用状況報告書の各年度の温泉使用量はその実績になるため、競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず、条例第7条第3号の法人情報には該当しない。
さらに、審査請求人は、温泉水の使用量や温度、排水経路について係争中のため、争訟の帰趨に影響する蓋然性が認められると主張しているが、使用量、温度、排水経路の事実を知ることにより、争訟をどちらかが有利に進めるとは考えられない。
審査請求人は、たとえ仮に争訴性がない、ないしは、低いものと考えられたとしても、申請書・届出書・報告書に添付された図面その他添付書類全てを開示することは、情報公開制度の目的を逸脱するものであると述べているが、温泉法に基づき提出された文書については、審査請求人が温泉の利用に関して本県に提出したものであり、温泉法に基づく申請書等は様式化され、また、様式に記載する内容や図面等の添付する書類は義務づけられたものであり、さらに温泉法は、公衆衛生上、有害な温泉の利用を規制するなど温泉の利用の適正を図ることを目的としていることを考慮すると、特段の事情がない限り、申請書、届出書、報告書及び添付書類は公にすべきものと考える。
また、審査請求人は、図面等は、その作成者の専門的技術及びノウハウが凝縮されたもので、他に模倣された場合には当該図面作成者の法的保護を受ける利益を侵害すると述べているが、図面等は、浴槽、蛇口等の個々の施設について具体的に表示している配置図や湧出地から利用施設に至る引湯管の施設平面図等の事実を報告するために提出する一般的なものであり、その作成者の専門的技術及び専門的ノウハウ等が凝縮されたものとは認められず、条例第7条第3号には該当しない。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)審査請求人の主張について
審査請求人は次の2つの理由をもって、本件対象公文書に記載されている情報は条例第7条第3号に該当すると主張しているため、本件対象公文書を見分した結果を踏まえ、以下、審査請求人の主張する非開示情報該当性を検討する。
ア 主意的主張:現在、他団体と温泉水の排水に関して紛争中であり、使用量、排水経路等は当該紛争の重要な争点である。
イ 予備的主張:図面等の添付書類には法人のノウハウ等が含まれており、開示されると法人の法的利益を侵害することとなる。
(3)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。「競争上の地位その他正当な利益」とは、法人等の公正な競争関係における地位、ノウハウ及び信用等の運営上の地位を広く含むものである。したがって、財産権のほか、信教の自由、集会・結社・表現の自由など当該法人の有する憲法上の権利等の非財産的権利を含む法律上の権利がすべて含まれると解される。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
ア 主意的主張について
審査請求人は、温泉水の利用量等は他団体との紛争の帰趨を決する情報であるため、本号本文に該当すると主張している。この点において、本件対象公文書に記載されている温泉水の利用量、排水経路等の情報が当該紛争に影響を与える可能性は否定できず、実施機関の「使用量、温度、排水経路の事実を知ることにより、争訟をどちらかが有利に進めるとは考えられない」という主張は妥当ではないと考える。しかしながら、条例において法人情報が非開示とされた趣旨は、健全で適正な経済活動の範囲内において、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を保護する点にあり、生産技術上や販売上のノウハウに関する情報、信用上不利益を与える情報、人事等専ら法人の内部管理情報などが本号に該当するものと解される。また、情報公開制度は原則として請求の目的や開示された情報の使途を問わず、広く何人に対しても認められた制度であり、仮に開示請求者が開示された情報を裁判における証拠資料として使用したとしても、制度の趣旨に照らすと適正な使用の範囲内であるといえる。したがって、仮に本件対象公文書が当該紛争の帰趨を決するものであったとしても、そのような理由をもって本号に該当するということはできず、審査請求人の主張は採用できない。
また、実施機関が主張するように、そもそも温泉の温度や成分については施設内に掲示することが温泉法で義務づけられていることから、公文書開示請求に基づき開示することによって、当該紛争へ影響を及ぼすことはないといえる。
イ 予備的主張について
審査請求人は、申請書等に添付された図面等(以下「本件添付書類」という。)について、法人のノウハウ等が含まれているため非開示が妥当であると主張する。そこで、当審査会において本件対象公文書を見分したところ、本件添付書類は次の2種類に区分することができる。(ア) 各種図面(位置図、客室図面、配管ルート等が分かる図面)
(イ) 設置機器の性能、仕様等が分かる文書
(ア)については、一般的に、事業活動を行う建物内部の施設配置等については、事業者が、経験、知識等を基に、事業活動の効率的な運営等を目的として編成していると考えられる。特に宿泊施設にあっては、施設利用者に安全でかつ快適なサービスを提供する等の目的のため、どの場所にどのような施設を配置するかは明らかにすることができないノウハウであると考えられる。また、一般的に、建築物の建築に関して作成される設計図書は、設計者がその知識と技能を駆使して創作したものであり、相当の報酬を支払う依頼主だけに使用目的を特定して提供する設計者にとっての重要な財産であるということができる。
一方で、宿泊施設として不特定多数の者が立ち入ることができる場所に関する情報や大まかな位置を示す情報については、開示しても法人の競争上の地位その他正当な利益を害することはないと考える。
したがって、(ア)各種図面のうち、配管ルート等が分かる図面及び客室図面のうち不特定多数の者が立ち入ることができない場所に関する情報については本号本文に該当すると判断するが、客室図面のうち不特定多数の者が立ち入ることができる場所に関する情報及び位置図については本号本文に該当するとは判断できない。
(イ)については、一般的に事業活動を行う建築物に設置する機器について、どのような性能を持つ機器をどのように配置するかは、事業者が経験、知識等を基に、事業活動の効率的な運営等を目的として決定していると考えられる。とりわけ、本件のような宿泊施設においては、その経験、知識等を十分に活用して、その設置を計画しているものと考えられる。したがって、当審査会としては、(イ)については、開示することにより、法人の事業活動上の正当な利益を害すると認められるため、本号本文に該当すると判断する。
なお、条例第7条第3号は、公にすることで法人等の競争上の地位その他正当な利益を害する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護するために公にすることが必要であると認められる情報等については同号ただし書により常に開示が義務づけられることになると規定しているが、実施機関から具体的に同号ただし書に該当する旨の主張はされておらず、人の生命、身体、健康又は財産を保護するために公にすることが必要であるとまでは認められない。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
29. 9.19 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
29. 9.25 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 |
29.11.22 | ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
29.12.13 | ・審査請求人からの意見書及び資料の受理 |
30. 1.24 |
・書面審理 (平成29年度第7回第1部会) |
30. 2.21 | ・審議
(平成29年度第8回第1部会)
|
30. 3.22 | ・審議 ・答申 (平成29年度第9回第1部会)
|
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
---|---|
※会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
※委員 | 内野 広大 |
※委員 |
川本 一子 |
※委員 | 藤本 真理 |
委員 | 片山 眞洋 |
委員 | 木村 ちはる |
委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。