三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第13号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成28年12月12日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った、「平成28年11月10日三重県と松阪市と松阪警察署が合同で特定会社を立入調査した際の業務報告書及びこれに関する一切の情報」についての開示請求に対し、平成28年12月21日付けで三重県警察本部長(以下「実施機関」という。)が行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるものである。
3 本件対象公文書及び非開示部分について
本件審査請求の対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、実施機関が作成した「古物商・古物市場立入調査実施結果報告書」である。
また、非開示部分は、「現場措置」欄、「事後措置」欄及び「特記事項」欄の立入調査の端緒となった理由が記載された箇所である。
4 審査請求の理由
審査請求書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
本件立入調査は、審査請求人の措置要求で行われたものであり、特定事業者が古物商の許可しかないにもかかわらず、廃棄物処理法違反などの違法行為を行っていることを指摘したものである。
三重県公安委員会は、古物営業の許可業者が適正に古物商を行っているかを監視監督し、法令違反があれば、告訴告発などの手続や行政措置を講じる義務がある。実施機関の不作為の違法を把握されないために情報を隠すのは、本末転倒である。
また、審査請求人は自己の措置請求が本件立入調査の端緒であることを秘匿して欲しいなどと言ったことは一度もない。
実施機関は、「以後の許可事務の適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。」と言うが、具体性を欠いた弁解であり、当該情報を開示しない理由となるものではない。
過去には、産廃業者との信頼関係よりも、住民との信頼関係の構築が大事だとして「公益上の要請」を理由に公開を命じた平成9年6月19日津地裁判決がある。また、三重県情報公開審査会答申第53号、第59号、第74号、第77号、第78号においても、産廃業者等に対する立入検査の際に現場で確認した事項や行政指導内容について開示すべきであるとの答申があり、違法な業者について法人の競争上の地位を守るような正当な利益はない。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。(1)条例第7条第4号(公共安全情報)に該当
本件対象公文書の非開示部分である「現場措置」欄及び「事後措置」欄は、事件化の有無等を記載する部分であり、常に記載がある訳ではないが、記載がある時だけ非開示とし、記載がない時に開示とすると、非開示とした時には何らかの措置が採られたことが明らかになる。事件化の有無等が分かる部分を開示することになると、その他の開示された情報と組み合わせることで、警察の捜査手法や事件化の判断基準等が明らかになり、犯罪を行っている者又は今後犯罪を行おうとする者が、証拠隠滅等の隠蔽工作やその他対抗措置、防衛措置を講じるおそれがあるなど、将来の捜査に支障を及ぼすおそれがあると認められることから、非開示とした。
(2) 条例第7条第6号(事務事業情報)に該当
「特記事項」欄には、立入調査の端緒となった理由が具体的に記載されており、これが開示された場合、警察が立入調査を実施する際の判断基準等が推測されるおそれがある。開示を前提とした場合、同欄の記載内容が形骸化されたり、立入調査の実施を躊躇することにもなりかねず、立入調査の目的に沿った事務の遂行に著しい支障を及ぼすおそれが認められる。一般的に、実施機関へ情報提供をする者は、情報提供、通報の事実や情報聴取の有無について公表されないという信頼の基で情報提供等をしており、これらの情報が公表されるのであれば、かかる信頼を損ない、情報提供者等からの必要な協力等が得られなくなることになり、違法行為の発見、情報収集を困難にし、事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれが認められる。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第4号(公共安全情報)の意義について
公共の安全と秩序を維持することは、国民全体の基本的な利益を擁護するために行政に課せられた重要な責務であり、情報公開制度においてもこれらの利益は十分に保護する必要がある。
そこで、犯罪の予防・鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行、その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めるに足りる相当の理由がある情報を非開示とし、その判断に当たっては、実施機関の裁量を尊重することとしたものである。
(3)条例第7条第4号(公共安全情報)の該当性について
実施機関が、本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、本件対象公文書における「現場措置」欄及び「事後措置」欄であり、指導、現行犯逮捕、事件送致など、警察職員が立入現場において又はその後に行った措置を記載する欄である。当該部分を開示すると、開示された他の情報と組み合わせることで、警察の捜査手法や事件化の判断基準等が明らかになり、犯罪を行っている者又は今後犯罪を行おうとする者が、証拠隠滅等の隠蔽工作やその他対抗措置、防衛措置を講じるなど、将来の捜査に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
したがって、当該情報を本号に該当するとして非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(4)条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。なお、本規定は、実施機関の長に広範な裁量権限を与える趣旨ではなく、各規定の要件の該当性を客観的に判断する必要があり、また、事務又は事業がその根拠となる規定・趣旨に照らし、公益的な開示の必要性等の種々の利益を衡量した上での「適正な遂行」といえるものであることが求められる。「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、「おそれ」の程度も単なる抽象的な可能性ではなく、法的保護に値する程度の蓋然性が要求される。
(5)条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
実施機関が、本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、本件対象公文書における「特記事項」欄の、立入調査の端緒となった理由が記載された箇所である。古物営業法は、盗品等の売買の防止、被害品の早期発見により窃盗その他の犯罪を防止し、被害を迅速に回復することを目的とし、警察職員は必要があると認めるとき、古物商の営業所等の場所に立入り等ができる旨を定めている。どのような場合に立入調査を実施するのかといった判断基準は公にされておらず、立入調査の端緒となった理由が開示されると、警察職員が立入調査を実施するかどうかの判断基準が推測されることになるとともに、情報提供者からの必要な協力が得られなくなることで、正確な事実の把握や違法行為の発見が困難になり、立入り等に係る事務の遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる。
したがって、当該情報を本号に該当するとして非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(6)条例第10条(公益上の理由による裁量的開示)の意義について
本条は、第7条各号により開示が禁止されている情報が公文書に記録されていても、実施機関の高度な行政的判断により裁量的開示を行うことができることを明確にしたものである。(7)条例第10条(公益上の理由による裁量的開示)の該当性について
審査請求人は、平成9年6月19日津地裁判決や三重県情報公開審査会答申第53号、第59号、第74号、第77号、第78号を例にして、公益上の要請を理由に開示すべきと主張している。しかし、これらの判決及び答申は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づき行った指導等の文書に係るものであり、条例の適用に当たっては、個々の事例における事情に照らして、判断を行ったものである。
本件対象公文書を見分したところ、古物営業法に基づき実施した立入調査の結果報告書にすぎず、開示することの利益が、非開示による利益に優越する特殊な事情は認められないから、公益上公にすることが必要であると認められる情報には該当しない。
(8) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
29. 5.17 |
・諮問書、弁明書及び反論書の受理 |
29. 8.16 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 |
29. 8.16 | ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
29.12.26 |
・書面審理 (平成29年度第6回第2部会) |
30. 1.31 |
・審議 (平成29年度第7回第2部会) |
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
---|---|
会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
※会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
委員 | 内野 広大 |
委員 |
川本 一子 |
委員 | 藤本 真理 |
※委員 | 片山 眞洋 |
※委員 | 木村 ちはる |
※委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長職務代理者及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。