三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第11号
答申
1 審査会の結論
実施機関が部分開示とした決定は、存否を明らかにしない決定をすべきものであったが、結論において妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成28年11月4日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った、「私の保護命令期間中の接近禁止命令の除外範囲が分かる文書」についての開示請求に対し、平成28年11月17日付けで三重県警察本部長(以下「実施機関」という。)が行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるものである。
3 保護命令制度について
保護命令制度は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下「DV防止法」という。)第10条において規定されており、配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)から身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた被害者が、更なる身体に対する暴力によって、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき、被害者の申立てにより、裁判所が配偶者に対して「申立人の身辺につきまとい、又はその通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないこと」等を命ずるものである。
4 本件対象公文書について
本件審査請求の対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、特定人が裁判所に申し立てた結果、発令された保護命令の内容について、実施機関から津地方裁判所へ問い合わせた際の協議内容が記録された「電話受発信用紙」である。
5 審査請求の理由
審査請求書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
対象公文書として特定された電話受発信用紙については、条例第7条第4号(公共安全情報)及び第6号(事務事業情報)には該当しないため、開示されるべきである。
まず、条例第7条第4号の該当性について、実施機関は、本件対象公文書を開示すると、捜査手法等が判明し公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるとして非開示としているが、本件対象公文書には、三重県警察本部生活安全課ストーカー対策係の警部補と、津地方裁判所民事部の裁判所書記官との電話内容が記録されている。警察官から裁判所書記官に発信された電話で、公になれば公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある捜査手法等に関する会話がなされることは想定し難い。
次に、条例第7条第6号の該当性について、実施機関は、本件対象公文書を開示すると、以後の配偶者暴力対策に係る事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとして非開示としているが、本件対象公文書に記載されている内容は、裁判所書記官が禁止行為の解釈や適用に関して回答したものであり、あくまでも法律に即した回答であったと考えられる。このように、裁判所書記官があくまでも法律に即して可能な範囲で回答した内容が、公になったとしても、以後の配偶者暴力対策に係る事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすとは考え難い。
6 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。条例に基づく公文書開示請求では、通常、開示請求者がいかなる者であっても、開示・非開示の判断が左右されるものではなく、例えば、請求者が請求者自身の個人情報を開示請求したとしても、第三者が開示請求をした場合と同様に開示・非開示の判断がなされるものである。
本件開示請求の内容は「私の保護命令期間中の接近禁止命令の除外範囲が分かる文書」と記載されていることから、請求者個人に出された保護命令に係る文書の請求と解される。
よって本来、条例の趣旨からすると、条例第11条に規定された公文書の存否を明らかにしないで拒否するという類型の情報であるとも考えられ、公文書の存否を明らかにしない決定(以下「存否応答拒否」という。)を適用するとの判断もあり得たところ、存否応答拒否を適用せず本件対象公文書の特定にいたったものである。
また、公文書開示請求については、通常、何人に対しても同じ内容で決定されることは述べたとおりであるが、本件非開示部分を何人にも開示することになると、将来の捜査や被害者の保護等に支障を生じるおそれがあると認められることから、条例第7条第4号(公共安全情報)、第6号(事務事業情報)に該当するとして非開示としたものである。
7 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本決定の妥当性について
本件対象公文書には、特定人が裁判所に申し立てた結果、発令された保護命令の内容等が記載されており、本件対象公文書を特定することによって、上記事実が明らかになることから、これは条例第7条第2号に規定する個人情報に該当する情報であると認められる。
この点について実施機関は、開示請求書が提出される前に本件対象公文書が存在することを審査請求人に明らかにしていたため、説明責任を果たす上でも、公文書の特定をし、本件部分開示決定を行ったとのことである。
ところで、条例の定めた情報公開制度は、何人に対しても、理由や目的を問わず開示請求を認める制度であることから、開示・非開示の判断に当たっては、開示請求者が誰であるかは考慮されないものである。つまり、情報公開制度は誰に対しても同じ情報を公開する制度であるから、本人が請求した場合のみ開示するという判断をすることはできない。
したがって、当該事実の有無は、条例第7条第2号の非開示情報に該当し、本件対象公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することになるため、条例第11条の規定により、存否を明らかにしないで開示請求を拒否すべきであったと考えられる。
しかしながら、本件処分においては、本件対象公文書が存在することを認めた上で部分開示決定を行っているため、上記で述べた非開示情報を既に開示した状態となっている。このような場合においては、改めて本決定を取り消して条例第11条を適用する必要性はなく、本件部分開示決定は、結論において妥当であると判断する。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。
8 審査会からの意見
(1)三重県個人情報保護条例に基づく開示請求について
本事案について審査請求人は、三重県情報公開条例に基づく公文書開示請求を行ったところであるが、当審査会としては、三重県個人情報保護条例に基づく保有個人情報の開示請求を行うべきであったと判断する。そして、保有個人情報の開示請求が行われた場合の当審査会の開示・非開示の判断について次のとおり意見するため、諮問庁である三重県公安委員会においては、本意見を尊重し、三重県個人情報保護条例に基づく保有個人情報の開示請求がなされた場合の開示・非開示の判断を行った上で裁決を行い、説明責任を果たすことを望む。(2)審査請求人の保有個人情報該当性について
本件対象公文書における審査請求人の保有個人情報該当性について、実施機関は、意見書及び口頭意見陳述において「本件対象公文書は、審査請求人の配偶者に発令された保護命令に関して実施機関から津地方裁判所へ問い合わせた際の協議記録であり、その内容について、審査請求人の個人情報であるとは言い難い。」と主張している。三重県個人情報保護条例第14条において、「何人も、実施機関に対し、当該実施機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる。」と規定されており、当該保有個人情報の本人と識別され、又はされ得るものであれば、自己以外のものの情報の中に含まれるものであっても開示請求をすることができると解される。また、自己と自己以外のものの関係が、その内容において不可分の状態で記録されている場合など、自己以外のものに関する情報と自己に関する情報が合一して自己を本人とする個人情報を形成している場合は、当該自己以外のものに関する情報も含めて自己を本人とする保有個人情報とすると解される。
当審査会にて本件対象公文書を見分したところ、一部例外はあるものの、記載内容の大部分が審査請求人を本人とする個人情報であると当審査会としては判断するところである。また、保護命令の内容に係る部分については、審査請求人が裁判所に申し立てた結果、配偶者に対して発令された保護命令であること、当該部分には「被害者」、「申立人」という文言が記載されており、文脈から明らかに審査請求人本人であることが識別できること等を鑑みると、当該部分については、審査請求人の個人情報であるといえるため、実施機関の主張は妥当ではない。
(3)開示・非開示の判断について
実施機関は、意見書において、仮に本件対象公文書に記載されている情報が審査請求人の個人情報に該当するとしても、次の理由により、開示することは適切でないと主張しているため、その主張の妥当性について検討することとする。ア 加害者側の権利利益の保護のため、加害者以外の者には明らかにすべきでない情報が含まれている
三重県個人情報保護条例第16条第2号において、「開示することによって開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれ」がある情報については、非開示とすることができると規定されており、実施機関の主張は本号に基づくものであると解される。また、本号においては、例外事項として、慣行として本人が知ることができ、又は知ることが予定されている情報については、開示することとしており、「知ることが予定されている情報」とは、当該情報の性質、利用目的等に照らして通例知らされるべきものと考えられる情報をいう。この点について本件対象公文書を見分したところ、確かに加害者を本人とする個人情報であって、審査請求人の個人情報ではない箇所も含まれていることが認められる。一方で、(2)で述べた保護命令に関する津地方裁判所からの回答については、審査請求人の個人情報であるといえ、また、審査請求人が申し立てた結果、発令された保護命令に係る内容であることを鑑みれば、被害者である審査請求人が知らされるべきものであるため、「知ることが予定されている情報」に当たると考える。
なお、保護命令の実質的な内容については既に審査請求人が了知していると推察できることからも、当該部分を審査請求人に開示することによって、加害者の権利利益が害されるとは考え難く、そもそも本号本文にも該当はしないと考える。したがって、実施機関の主張は妥当ではない。
イ 審査請求人に開示したことが加害者に知られてしまうと、審査請求人が攻撃されるおそれがある
実施機関は、「審査請求人を保護するためにも開示をしなかった。」と主張しているが、審査請求人が開示請求を行った事実については実施機関以外の者が知り得る情報ではなく、当該事実はDV被害者の個人情報という特に秘匿すべき情報であると考えられることから、実施機関が主張するおそれは抽象的であるとしか評価できず、これを理由に非開示とすることはできないと判断する。ウ 保護命令違反を立証するうえで極めて重要な情報及び実施機関内部における捜査業務の内容が記載されており、何人にも開示されるものではない
三重県個人情報保護条例第16条第4号において「開示することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を非開示とできることが規定されており、同条例第16条第6号において「開示することにより、実施機関の事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある情報」を非開示とできることが規定されており、実施機関の主張は本号に基づくものであると解される。しかしながら、実施機関の主張には具体性がなく、本件対象公文書のどの部分を開示すればどのように捜査に支障が生じるのか、どのような支障が生じるのかについて、判然としなかった。
一方で、アでも述べたように、少なくとも保護命令の内容に関する情報については、DV被害者である審査請求人には知らされるべき情報であり、また、これを審査請求人に公開したところで、上記支障が発生するとは考え難く、開示すべきであると判断する。
(4)実施機関の対応について
本事案について、当審査会としては、実施機関は三重県個人情報保護条例に基づく保有個人情報の開示請求を案内し、同条例に基づき処分を行うべきであったと考える。確かに、どの条例に基づき、どのような申請をするかについては県民に委ねられているとも考えられるが、実施機関としても、両条例を十分に理解することで、適切に案内ができるよう努められたい。9 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
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29. 5. 2 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
29. 7. 5 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
29. 9.19 | ・書面審理 ・審査請求人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (平成29年度第3回第1部会)
|
29. 9.29 | ・実施機関に対して、再度の意見書の提出、再度の意見陳述の意向確認 |
29.10.18 |
・審議 (平成29年度第4回第1部会) |
29.11.15 | ・審議
(平成29年度第5回第1部会)
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29.12.20 | ・審議 ・答申 (平成29年度第6回第1部会)
|
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
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※会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
※委員 | 内野 広大 |
※委員 |
川本 一子 |
※委員 | 藤本 真理 |
委員 | 片山 眞洋 |
委員 | 木村 ちはる |
委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。