三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第8号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件審査請求の対象となった部分について、本件部分開示決定を取り消し、開示すべきである。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「各都道府県の路面清掃業務委託に関して、一般競争入札、制限付一般競争入札、指名競争入札、随意契約のいずれを採用しており、それぞれの参加条件は何かを調べた一切の情報」という開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成28年12月28日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書及び本件非開示部分について
本件審査請求の対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、実施機関が平成27年6月4日に各都道府県を対象に実施した路面清掃業務委託の入札に係るアンケートの取りまとめ結果である。
そして、本件対象公文書において、実施機関が非開示とした部分(以下「本件非開示部分」という。)は、路面清掃業務を委託する事業者を選定するに当たって、指名競争入札を採用している自治体が回答した指名要件等である。
4 本決定の一部取消しについて
実施機関は、本決定を行うにあたり、指名競争入札によって路面清掃業務を委託する事業者を選定している16自治体へ本開示請求に係る意見照会を行ったところ、9自治体は開示に反対する意思を示さなかったとのことである。しかしながら、実施機関は、本決定時においては、開示に反対する意思を示さなかった9自治体の回答も含めて非開示としていたが、審査請求書の提出を受け、平成29年2月24日、開示に反対する意思を示さなかった自治体の回答については開示をすることが妥当であると判断を変更し、本決定の一部取消しを行っている。
したがって、当審査会は、開示に反対している7自治体の回答内容(指名要件等)を非開示とした判断について審議を行うこととする。
5 審査請求の理由
審査請求書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
本件対象公文書は、実施機関が平成27年度に各都道府県を対象に実施した路面清掃業務委託に係るアンケートの結果であるが、指名競争入札を行っている都道府県の指名要件等が非開示とされている。
実施機関は「本開示請求の開示の可否について意見照会を行ったところ、開示に反対する都道府県があった。」と主張しており、それらを非開示としているが、今回のアンケートは通常業務として行ったものではなく、「現在、本県の路面清掃業務委託に係る入札の参加要件等について、係争中である」ことを照会文に記載して行ったアンケートである。
国土交通省などは、発注する公共工事については、指名競争入札を行う場合は指名要件などを公表し、透明性を確保しなければならないとしている。つまり、指名競争入札を行うからといって、指名要件を隠すという発想が国土交通省にはない。指名競争入札を行う場合にどのような要件を課して事業者を選択したのか、これを透明にしないと大変なことが起こるわけである。だからこそ、入札の参加資格は公表されなければならない。そうすると、「非開示としてほしい」と主張してきた都道府県においても、直接開示請求することはできるわけであり、それぞれの都道府県に開示請求をすれば公開しなければならない性質の情報であると考える。確かに、実施機関と他の都道府県で何か協議を行ったり、協議中である情報については秘匿することも考えられるが、今回の情報は、何人に対しても公開されなければならない性質の情報であって、他の自治体が「公開してくれるな。」と主張していたとしても、公開されるべき情報である。
6 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当であるというものである。(1) 開示に反対する自治体の契約に係る事務に支障を及ぼす
非開示とした「指名要件」は、発注者が受注希望者の能力や信用などを事前に判断し、これらに疑いを持つ者を入札執行前に排除することにより、入札執行後に受注者の能力不足や信用度の欠落によるトラブルを容易に防ぐための重要な要件であり、実施機関が実施した意見照会に対し、事務事業情報に該当するとして非開示とする旨を回答してきた自治体もある。したがって、「指名要件」を開示すれば、それらの自治体の契約に係る事務に関して支障を及ぼすことは明白であることから、これに対して条例第7条第6号の規定を適用し、非開示とするのが適切であると判断したものである。
なお、非開示とすべきと回答した特定の自治体の情報公開条例についてみれば、本県と同様、「公にすることにより、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」については、開示義務の免除をしている。
(2) 他の自治体との信頼関係が損なわれ、今後の意見交換等に支障を来たす
条例第17条においては、第三者に対する意見書提出の機会の付与等として、「開示請求に係る公文書に県、国、独立行政法人等、県以外の地方公共団体、地方独立行政法人及び開示請求者以外のものに関する情報が記録されているときは、実施機関は、開示決定等をするに当たって、当該情報に係る第三者に対し、開示請求に係る公文書の表示その他実施機関が別に定める事項を通知して、意見書を提出する機会を与えることができる。」と規定する。実施機関はこの規定を準用し、本件対象公文書には県以外の地方公共団体から入手した情報が含まれていることから、本件部分開示決定に先立ち、平成28年11月25日付けの文書により、回答があった自治体に対して事情聴取を実施した。その結果、「指名要件」については複数の自治体から「開示すると支障がある。」旨の回答があった。
したがって、これらの自治体においては、「指名要件」を開示することは適切でないと判断していることから、回答があった自治体が非開示とする意思に背いて本県が開示することは信義則に反し、今後、本県の行政運営を行う上で、他自治体との必要な情報交換に支障を来たすなどの恐れがある。したがって、当該自治体の回答を尊重して当該箇所を非開示とするのが適切であると判断するものである。
7 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 指名競争入札制度について
指名競争入札等のあり方について、最高裁判所は、平成18年10月26日判決(平成17年(受)第2087号)において「普通地方公共団体の締結する契約については、その経費が住民の税金で賄われること等にかんがみ、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置付けているものと解することができる。また、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律は、公共工事の入札等について、入札の過程の透明性が確保されること、入札に参加しようとする者の間の公正な競争が促進されること等によりその適正化が図られなければならないとし(3条)、前記のとおり、指名競争入札の参加者の資格についての公表や参加者を指名する場合の基準を定めたときの基準の公表を義務付けている。以上のとおり、地方自治法等の法令は、普通地方公共団体が締結する公共工事等の契約に関する入札につき、機会均等、公正性、透明性、経済性(価格の有利性)を確保することを図ろうとしているものということができる。」と判示している。
このように、地方公共団体が締結する契約については、一般競争入札の方法によるのが原則であると解され、指名競争入札の方法を採用するにあたり、指名要件の設定に関して裁量権が与えられているとはいえ、より一層の透明性が求められるということができる。
(3) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
なお、本規定は、実施機関の長に広範な裁量権限を与える趣旨ではなく、各規定の要件の該当性を客観的に判断する必要があり、また、事務又は事業がその根拠となる規定・趣旨に照らし、公益的な開示の必要性等の種々の利益を衡量した上での「適正な遂行」といえるものであることが求められる。「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、「おそれ」の程度も単なる抽象的な可能性ではなく、法的保護に値する程度の蓋然性が要求される。
また、本県以外の自治体が行う事務の遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある情報についても、本号の対象となる。
(4) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
本件非開示部分について実施機関は、①「指名要件」を開示すれば、開示に反対する自治体の契約に係る事務に支障を及ぼす、②開示に反対している自治体の意思に背いて開示すると、信頼関係が損なわれ、今後の意見交換等に支障を来たす、といった二つの理由により、本号の該当性を主張しているため、以下、それぞれの理由について検討することとする。
ア 他の自治体の事務事業に支障が生じるか
4で述べたとおり、本件対象公文書には、指名競争入札によって路面清掃業務を委託する事業者を選定している16自治体の指名要件等が記載されているが、9自治体は指名要件等を開示されることに反対の意思を示さなかったとのことである。そこで、当審査会にて本件対象公文書を見分し、開示に反対している自治体の指名要件等とそうではない自治体の指名要件等を比較したが、明確な差は認められず、本件非開示部分は、あくまでも路面清掃業務を委託するに当たって一般的に想定される指名要件等であると考えざるを得ない。
この点について実施機関は、入札執行後のトラブルを容易に防ぐための重要な要件であり、開示に反対している自治体の指名要件等を開示すると、当該自治体の事務に支障を及ぼすことは明白であると主張しているが、本号に該当するというための基準は上記(3)で述べたとおりであって、実施機関が主張する支障は名目的なものであり、「おそれ」の程度も抽象的な可能性に留まるものであると評価せざるを得ない。
また、現に開示に反対しない自治体が存在することを考慮すると、本件非開示部分を開示することによって、当該指名競争入札に係る事務に支障が生じるとは考え難い。
一方で、上記(2)で述べたとおり、指名競争入札の方法を用いて契約を締結するに当たっては高い透明性が求められることから、開示することの公益性は高いといえる。したがって、本号に該当するとは判断できない。
イ 信頼関係が損なわれ、今後の意見交換等に支障を来たすか
アンケートに回答した自治体が指名要件等を開示されることに反対していることを考慮し、実施機関が非開示としたことは、今後の当該自治体との信頼関係の維持を重要視する姿勢から無理からぬことである。
しかしながら、提供者からの申し入れをもって本号に該当し、非開示とすることができることとなれば、実施機関の都合により、非開示とすることができることとなり、取得した文書等を含め原則開示とした本条例の趣旨に照らすと妥当でないと考える。
したがって、本件非開示部分を開示することによって信頼関係が損なわれるか否かを判断するには、本件非開示部分の内容や他の自治体がどのような認識の下にアンケートに回答したのかを検証する必要がある。
まず、本件非開示部分の内容については、アで述べたとおり、これを開示することによって、開示に反対する自治体の入札事務に支障が生じるとは判断できない。
次に、他の自治体がどのような認識の下でアンケートに回答したのかを検証する。この点について、開示に反対する自治体の情報公開条例を確認したところ、本県の条例と比較し、文言の差異が若干認められるものの、「公文書」の定義や非開示情報の規定など、本質的な違いは認められなかった。したがって、当審査会としては、他の自治体においても本県と同様の情報公開条例を設けている以上、「回答内容が実施機関の公文書となり公文書開示請求の対象となること」、「公文書については原則公開であること」、「開示・非開示の判断については実施機関の権限に委ねられること」等について認識した上でアンケートに回答しているものであると考えざるを得ない。
よって、本件非開示部分を開示することによって、実施機関の主張する他の自治体との信頼関係が損なわれ、今後の意見交換等に支障を来たすおそれについては名目的なものと言わざるを得ず、本号に該当するとは判断できない。
ウ 開示に反対する自治体の主張について
上記のとおり、実施機関の主張からは、本件非開示部分が本号に該当すると判断することはできない。一方で、反対する自治体のその理由について、実施機関が詳細に聞き取っているとはいえず、当審査会としても慎重を期すため、事務局から開示に反対する各自治体に改めて意見照会を行い、その理由について確認を行った。
その結果、各自治体からの回答は4類型に分類できたので、以下、それぞれを検証する。
(ア) 開示することによって事業者に誤解を与えるため
「本件非開示部分を開示することで誤解を与える可能性がある。」という主張については、具体的には「回答した内容は明文化した基準ではないため」、「路面清掃業務の委託に係る発注は県内の各事務所が行っており、それぞれで指名要件を設定しているため、三重県に回答した内容と実際の指名要件が異なる部分があるため」、「誤った内容を記載してしまったため」というものであった。
確かに、明文化された基準ではない情報、あるいは統一的なものではない情報を開示することによって開示請求者に誤解を与える可能性は否定できない。しかし、本件非開示部分に記載されている情報はあくまでも平成25年度、平成26年度の指名要件等であること、三重県へ回答したアンケートの内容であることを考慮すると、仮に誤解を与えたとしても、受注しようとしている事業者であれば、各自治体に直接問い合わせを行うことなどにより、その誤解が解消される可能性は高いと考えられる。
したがって、本件非開示部分を開示することによって、誤解を与え、今後の入札事務に支障を生じさせるとは考え難く、一方で開示による公益性を考慮すると、本号に該当するとは判断できない。
(イ) 指名要件については指名委員会で定められ、指名委員会での審議の内容を漏らしてはならないため
「指名競争入札を行うに当たり、指名委員会にて指名要件等を決定しており、指名委員会の要領に「委員は内容を漏らしてはならない」と記載されており、本件非開示部分を開示することによって、委員会の審議内容が明らかになり、今後の意見交換が損なわれるおそれがある。」という主張について検証する。当該主張は本県の条例においては、条例第7条第5号(審議検討情報)に基づくものであると考えられ、「率直な意見の交換が不当に損なわれるおそれがある」場合に非開示とすることができると規定されている。
したがって、主張されている支障が「不当に」生じうるものかどうかを検討する必要があるが、上記のとおり、指名競争入札の透明性が求められていることを考えると、不当なものであるとはいえない。
また、本件非開示部分の内容は詳細な会議録等ではなく、あくまでも委員会におけるおおまかな業者選定方針のようなものであり、その内容も一般的に想定されるものであると思料される。したがって、これを開示することによって今後の意見交換が損なわれるとは認められないため、これらの主張は採用できない。
(ウ) 目的以外のために使用するのは不当である
条例は、「実施機関の職員が職務として作成、又は取得し、組織的に用いるものとして、実施機関が保有している文書」を「公文書」と定義しており、公文書開示請求の対象になるか否かについて、文書に記録されている情報の性質(例えば、他の自治体の情報が記載されているなど)で判断するわけではなく、あくまでも形式的に「組織的に保有しているかどうか」等で判断するものとしており、これは他の自治体の条例においても同様である。
したがって、公文書に記載されている情報が他の自治体の情報であったとしても、実施機関が保有している公文書に記載されている以上、本県の条例に基づき、実施機関の権限で開示・非開示の判断を行うことになり、これらの判断基準についても、各自治体は認識しているものであると思料できる。
確かに、本件非開示部分を本来の目的外の目的に公開することで支障が発生するのであれば、本号に該当する場合もあると考えられるが、目的外であることを根拠として本号に該当すると判断することはできない。むしろ、実施機関が作成又は取得した目的がいかなるものであったとしても、条例第7条各号の非開示情報に該当しない限りは開示する義務がある。
(エ) 信義則に反する
「開示しないという前提でアンケートがされているため、開示することは信義則に反する。」という主張について検証すると、(4)イで述べたとおり、各自治体は開示されないことを前提に回答していたというよりは、当審査会としては、むしろ開示される可能性を認識していたと考えざるを得ない。また、自治体によっては「任意提供情報」を非開示とすることができる旨を規定しているが、これについてもあくまでも「法人等又は個人から任意に提供された情報」のみを対象としており、自治体はその対象には含まれておらず、また、「任意に提供された情報をすべて非開示とできる」という趣旨ではなく、「任意に提供された情報のうち、通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが情報の性質等に照らして合理的であると認められるものを非開示とできる」といったものであるため、本審査請求事案に適用されないことは明らかである。
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
29. 3. 6 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
29. 3. 8 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 |
29. 6.27 | ・審査請求人に対して、口頭意見陳述の希望の有無の確認 ・実施機関及び審査請求人に対して、意見書の提出依頼 |
29. 8. 9 | ・書面審理 ・審査請求人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (平成29年度第2回第1部会)
|
29. 8.24 | ・審査会事務局から他の自治体へ意見照会(一部の自治体には8月28日照会) |
29. 9.19 |
・審議 (平成29年度第3回第1部会) |
29.10.18 |
・審議 (平成29年度第4回第1部会) |
29.11.15 | ・審議 ・答申 (平成29年度第5回第1部会)
|
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
---|---|
※会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
※委員 | 内野 広大 |
※委員 |
川本 一子 |
※委員 | 藤本 真理 |
委員 | 片山 眞洋 |
委員 | 木村 ちはる |
委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。