三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第29号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件審査請求の対象となった保有個人情報のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、審査請求人が平成30年8月6日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った、「特定の個人に関するインシデント報告書」(以下「本件対象保有個人情報」という。)についての保有個人情報開示請求(以下「本件開示請求」という。)に対し、三重県病院事業庁長(以下「実施機関」という。)が平成30年8月23日付けで行った保有個人情報非開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるものである。
3 審査請求の理由
審査請求書、反論書、意見書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
実施機関はインシデント報告書について「外部へ公表することは想定していない」と主張するが、本件請求は保有個人情報について関係当事者として開示請求を行うものであり、三重県情報公開条例に基づく公文書開示請求や外部への一般公表とは異なるものである。
また、病院は、個人情報の適正な管理運用に努める責を負うが、管理行為の中で、病院自身が個人情報保有の主体であると勘違いしているのではないか。そもそも病院と患者の診療情報契約に係る当事者関係の中では、法的背景において、診療契約に付随して医療行為の結果に対する説明義務を負うとされている。
さらに、三重県情報公開・個人情報保護審査会答申第23号で、インシデント報告書の情報の性質は「特定人に関して病院で発生した事象、それに伴い実施した医療行為等が記載されていることから、個人情報に該当する」と明確な判断が示されている。
これらのことから、インシデント報告書も保有個人情報としての診療情報に含まれるものであり、診療記録、看護記録と同様に開示されるべきである。
次に、実施機関は当事者の個人責任が追及されるおそれについて主張しているが、実施機関は報告者の個人名秘匿を前提条件としてインシデント報告を受けることとしている。仮に第三者の個人情報が含まれ不都合なら、当該部分を非開示とすれば良い。それ以前に、担当医師、現場責任者、関係担当者も既に明らかである中で、個人責任追及という具体的対処には及んでいないため、開示、非開示による新たな不利益の問題は発生しない。求めているのは、医療内容の事実経過を確認することである。
また、「業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」については、三重県個人情報保護条例において、「支障」の程度については名目的なものでなく実質的なものが必要とされ、「おそれ」も単なる抽象的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が要求されると解釈されるが、実施機関から具体的な根拠は示されていない。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
インシデント報告書は、実施機関の医療安全管理指針に基づき、院内で発生した危うく事故になりかけた事例、所謂ヒヤリハット事例について、院内の関係者で速やかに情報を共有し、病院全体で同様の医療事故予防や再発防止対策の検討に活用することを目的として収集している情報である。
そのため、インシデント報告書は、多職種の職員から事実をありのままに積極的に報告してもらうことが重要であり、報告者の氏名は秘匿すること、当事者の個人責任を追及しないことを前提条件としている。このように、インシデント報告書は病院内部で使用するものであり、外部に公表することは想定していない。
したがって、本件対象保有個人情報の一部でも開示されると、外部から責任を追及されることをおそれ、職員からの積極的なインシデント報告が見込めなくなり、現行のインシデントの再発防止の仕組みを根幹から揺るがすことになるため、医療安全管理業務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
5 審査会の判断
審査請求人は、本件対象保有個人情報の開示を要求しているが、実施機関は本決定を妥当としていることから、本決定の妥当性について条例を適正に解釈して、以下のとおり判断する。(1)本件対象保有個人情報について
本件対象保有個人情報は、審査請求人の親族である特定個人に関して発生したインシデントについて実施機関が作成した報告書であり、その全体が当該特定個人の個人情報であると認められる。
また、実施機関はインシデント報告書全体について非開示としているが、その内容により以下のとおり分類することができる。
ア インシデント報告書の様式にあらかじめ記載された部分
イ インシデント報告書のシステム更新履歴情報
ウ 報告者が記載する部分
そこで、これらの部分について、当審査会において本件対象保有個人情報を見分した結果を踏まえ、個別に非開示情報該当性を検討する。
(2)条例第16条第6号(事務事業情報)の該当性について
条例第16条第6号は、県、国、独立行政法人等、県以外の地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものは、非開示とすることを定めている。
ア インシデント報告書の様式にあらかじめ記載された部分について
審査会において実施機関に聴取したところ、インシデント報告書の記載内容のうち、ページタイトル、ページ番号、報告書番号、項目名、URL及び報告書の印刷日時については、すべてのインシデント報告書について自動的に表示されるものであるとのことであった。これらの情報は、開示されたとしても報告者がインシデント報告書の提出を躊躇し、インシデント事例の収集が困難となる結果、医療安全管理業務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、開示すべきである。
イ インシデント報告書のシステム更新履歴情報について
審査会において実施機関に聴取したところ、インシデント報告書は、インシデント発生現場の担当者によりシステムへ登録され、各セクションのリスクマネージャーの確認を経て医療安全管理室の担当者へシステム上で報告され、最終的な承認を受けるものであり、システム更新日時、更新者氏名及び更新区分が更新履歴情報として記載されるとのことである。また、最終的な承認を行う医療安全管理室の担当者は、報告されたインシデントを取りまとめる事務を行っているとのことである。
以上のことから、更新者氏名のうち、インシデント発生現場の担当者及び各セクションのリスクマネージャーについては開示することでインシデントに関係した職員が特定され得ると認められる。
また、システム更新日時のうち、インシデント発生現場の担当者及び各セクションのリスクマネージャーが更新を行った時刻については、勤務職員が少数となる時間帯にあっては時刻を開示することでインシデントに関係した職員が特定され得ると認められる。
したがって、更新履歴情報のうち、上記情報については開示することでインシデントに関係した職員が特定される可能性があり、報告者が責任追及をおそれ、インシデント報告書の提出を躊躇し、実施機関におけるインシデント事例の収集の確保が困難となる結果、医療安全管理業務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるため、本号に該当し、非開示とすることが妥当である。
しかしながら、上記情報以外の更新履歴情報である更新日、更新区分、最終承認者氏名及び最終承認時刻は、開示されることでインシデント関係者が特定されるものではないため、開示すべきである。
ウ 報告者が記載する部分について
審査会において実施機関に聴取したところ、審査請求人は本件開示請求とは別に当該特定個人に係るカルテについて保有個人情報の開示請求を行っており、インシデント報告書の記載内容の一部については既に同内容の個人情報が開示されているとのことである。
報告者が記載する部分のうち、上記の情報を含めた本人の既知情報については、開示することによって報告者がインシデント報告書の提出を躊躇し、インシデント事例の収集が困難となる結果、医療安全管理業務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、開示すべきである。
一方で、別表1に掲げる部分は、本人の既知情報以外の情報であり、開示されることで報告者が特定され、特定されない場合であっても当該情報は主観的な報告であり、また速やかに事例を収集することで同様のインシデントの再発を防止するための検討に活用するという報告書の目的から見ても未確定な内容が含まれる可能性がある。
したがって、これらの情報が開示されると、報告者が責任を追及されることをおそれ、インシデント報告書の提出を躊躇し、実施機関におけるインシデント事例の収集の確保が困難となる結果、医療安全管理業務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとの実施機関の主張について、特に不自然、不合理な点は認められず、当該情報は、本号に該当し、非開示とすることが妥当である。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別表1
行 | 範囲 |
---|---|
3行目 | 3文字目~30文字目 |
8行目 | 3文字目~29文字目 |
13行目 | 1文字目~9文字目 |
20行目 | 40文字目~44文字目 |
21行目~22行目 | 21行目8文字目~22行目47文字目 |
37行目~39行目 | 37行目1文字目~39行目30文字目 |
42行目~45行目 | 42行目1文字目~45行目28文字目 |
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
30.11.22 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
30.11.26 | ・実施機関に対して、対象保有個人情報が記録された公文書の提出依頼 |
30.12.18 | ・実施機関を経由して反論書の受理 |
30.12.19 | ・実施機関に対して、意見書又は資料の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
31.1.16 | ・審査請求人より意見書の提出 |
31.2.20 | ・書面審理 ・審査請求人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (平成30年度第10回第2部会) |
31.3.13 | ・審議 (平成30年度第11回第2部会) |
31.4.17 |
・審議 |
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
---|---|
会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
※会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
委員 | 内野 広大 |
委員 |
川本 一子 |
委員 | 藤本 真理 |
※委員 | 片山 眞洋 |
※委員 | 木村 ちはる |
※委員 |
坂口 知子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長職務代理者及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。