三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第6号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、審査請求人が平成29年3月24日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った、「平成27年度(H27.4.1異動)の前年度平成26年度に作成した人事異動希望調書(所属長意見が記載された最終的なもの)」に係る保有個人情報開示請求に対し、平成29年4月7日付けで三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が行った保有個人情報部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるものである。
3 審査請求の理由
審査請求書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
人事異動希望調書における所属長意見欄の非開示部分が私の異動にどう影響したか、また、私としては精一杯記入した希望が受け入れられたか否か確認したい。私はすでに職を辞しており、開示が今後の人事運営に支障をきたすものではない。評価にあたる部分が非開示ということは一定理解するため、私の人物評価ではなく、私が異動を希望したことに関して、どのように処理されたのか、異動希望が尊重されたかどうかを知りたい。
所属長や任命権者が、公開される前提では正直に書けないとあるが、逆に内密主義なら何を書いても良いのか。人生の岐路となった異動であり、人事管理事務より優先されるべきである。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
人事異動希望調書における所属長意見欄は、所属長が職員の勤務状況の観察や異動ヒアリングを通して把握したことを踏まえ、職員の異動希望、希望分野・業務及び能力発揮事項等に加え、組織運営上の観点を含めた総合的な観点から意見を記載する欄である。
所属長意見は人事異動を行ううえでの重要な材料となるものの、人事異動は人事異動方針に基づき全県的な視点により計画的に行われるものであって、必ずしも本人の希望や所属長の意見どおりの人事異動が実現するとは限らず、人事異動を決定づける絶対的なものではないが、所属長意見と人事異動結果だけを結びつけて、所属長の意見が絶対的なものであると誤解されるおそれがある。
また、開示請求者に「所属長意見欄」の記載内容を批判する意図があるかないか、又は開示請求者が在職しているかどうかに関係なく、所属長意見欄の全部開示が認められると、所属長は、所属長意見欄の記載内容を該当職員に知られることを意識せざるをえなくなることから、今後、率直な意見の記載を差し控えるようになることが危惧される。結果として、本来必要な組織運営上の観点からの意見や、職員の勤務態度や勤務実績を踏まえて適切な評価をすべきである所属長の意見が人事異動担当課に的確に伝わらなくなり、今後の人事異動事務の適正な遂行が困難となってしまう。
よって、条例第16条第7号に該当すると判断し非開示とした。
5 審査会の判断
当審査会は、審査請求人及び実施機関の主張を具体的に検討した結果、以下のとおり判断する。(1)条例第16条第7号(評価等情報)の意義について
条例第16条第7号は、個人の評価等に関する保有個人情報を開示することにより、当該事務の適正な遂行を著しく困難にすると認められるときは、非開示とすることを定めたものである。
(2)条例第16条第7号(評価等情報)の該当性について
審査請求人は意見陳述において、非開示部分の全てを開示すべきとの審査請求書の提出時における主張を変更し、所属長の異動に関する意見(異動させたいか否かの記述)以外の非開示部分については争わないとしている。
このため、人事異動希望調書の「所属長意見欄」のうち「所属長意見」及び「異動に関する意見等」における非開示部分の本号該当性について判断する。
ア 本件対象保有個人情報について
審査会において人事異動希望調書を見分したところ、「所属長意見欄」は、所属長が対象者を異動させたいか留任させたいかを記述する「所属長意見」、その理由を記述する「異動に関する意見等」、対象者の育成方針等を記述する「希望分野・業務・将来像等に関する意見、配慮を必要とする心身の状況等」、対象者が現在の所属で行った能力発揮事項に関して所属長が意見を記述する「左記に関する意見」の4項目で構成されていることが認められる。
その記載内容のうち、実施機関は審査請求人に関する事実が記載された部分は開示し、異動に関する意見(異動させたいか否かの記述)及び人物評価等に係る部分が非開示とされていることが認められる。
イ 人事異動希望調書の取扱いについて
実施機関の説明によれば、人事異動希望調書は、職員が「本人希望欄」に異動の希望の有無やその理由などを記入後、所属長に提出し、所属長は「所属長意見欄」に、本人の適正や能力、意欲、実績などに加え、当該所属の職員構成、次年度の事業内容なども含めた総合的な観点から異動に関する意見を記述したうえで、人事異動担当課に提出することとされている。
また、同調書は人事異動を行ううえでの重要な判断材料のひとつであり、対象者に係る客観的事実を除き「所属長意見欄」は対象者本人には開示されないことを前提として、所属長が率直な意見を記入することが想定されているとのことである。
ウ 「所属長意見欄」について
このような取扱いにより人事異動制度が運用されている現状にあって、仮に「所属長意見欄」が対象者に対して開示された場合、記載内容に対する質問や批判がなされることが容易に想定され、所属長はこうした混乱を避けるため、「所属長意見欄」の記載を無難な程度の記入にとどめてしまうことが生じかねないと思われる。
その結果、人事異動担当課としては、人事異動に関して参考となる所属長による率直な評価の情報を得ることができなくなるおそれがあり、ひいては、人事異動担当課の行う人事異動事務の適正な遂行を著しく困難にすると認められる。
エ 「所属長意見」及び「異動に関する意見等」の同号該当性について
前述のとおり、客観的事実を除いた「所属長意見欄」全体が所属長の職員に対する評価等に関する情報である。
特に、「所属長意見」及び「異動に関する意見等」における異動させるか否かの記述は、職員の意欲、態度・能力、実績、心身の状況等に関する所属長の職員に対する評価及び当該所属における次年度の業務執行体制等を所属長が総合的に判断した結果を踏まえての最終的な結論であり、それ自体が所属長の職員に対する評価と一体不可分のものであると判断する。
このため、当該情報を開示すると、評価者である所属長が何らかの心理的圧迫を受け、率直な意見を記載できなくなるおそれが生じると推察され、人事異動事務の適正な遂行を著しく困難にすると認められる。
したがって、当該情報を、条例第16条第7号に該当するとして、非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会からの意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
実施機関は条例第16条第6号ニの該当性について特に主張していないが、本件対象保有個人情報は、そもそも人事管理事務の根幹に係る情報で、開示すると公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるものと認められることから、条例第16条第6号ニの該当性についても詳細に検討すべきであったと考えられる。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
29. 5.10 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
29. 5.12 | ・実施機関に対して、対象保有個人情報が記録された公文書の提出依頼 |
29. 5.26 | ・実施機関を経由して反論書の受理 |
29. 6.23 | ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
29. 7.11 | ・実施機関より意見書の受理 |
29. 9.20 |
・書面審理 (平成29年度第3回第2部会) |
29. 10.25 |
・審議 (平成29年度第4回第2部会) |
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
---|---|
会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
※会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
委員 | 内野 広大 |
委員 |
川本 一子 |
委員 | 藤本 真理 |
※委員 | 片山 眞洋 |
※委員 | 木村 ちはる |
※委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長職務代理者及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。