三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第1号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件審査請求の対象となった公文書のうち、当審査会が開示妥当と判断した部分を除き、非開示とすることが妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の林地開発に係る申請書に添付されている「確認書」(以下「本件確認書」という。)を申請者が取得した経緯が分かる文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、審査請求人(開示請求者ではない者)が作成した「回答書」を対象公文書として特定し、開示請求者(参加人)に対して行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、条例第17条第1項に規定する第三者である審査請求人が取消しを求めるというものである。
3 本件確認書について
本件確認書は、特定の林地開発の申請にあたって、林地開発の区域内にある申請者の名義ではない特定の土地について、当該土地所有者が本開発に協力する旨の意思を示した文書である。
4 本件対象公文書について
本件審査請求の対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、本件確認書について、偽造されたものである疑いが生じたことから、実施機関が、本件確認書を取得した経緯について、林地開発の申請者の地位承継者である審査請求人に照会し、その結果、審査請求人から提出された「回答書」である。
5 本件審査請求について
実施機関は、本請求に際し、本件対象公文書に審査請求人の情報が含まれていることから、条例第17条第1項の規定に基づき、審査請求人に対して意見照会を行ったうえで、本決定を行った。
実施機関は本決定を行うと同時に、反対意見書を提出した審査請求人に対し、条例第7条第2号(個人情報)及び条例第7条第3号(法人情報)に該当しないとの理由で条例第17条第3項の規定に基づき本件対象公文書を開示する旨を通知したところ、審査請求人から非開示とすることを求めて本件審査請求が提起された。
なお、本請求を行った開示請求者に対しては、本件審査請求に係る裁決に至るまで審査請求に係る部分の開示を停止する旨の通知がなされている。
6 審査請求の理由
審査請求書及び審査会に提出された意見書における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。本件対象公文書には、今現在発生している紛争における主要な争点の一つである本件確認書の真正性に関する審査請求人が有する情報及び認識が具体的かつ詳細に記載されており、これは当該紛争における審査請求人らの重要な攻撃防御方法であることから、本件対象公文書を開示されることは、審査請求人らに対し競争上及び営業上不利益を与えるほか、裁判を受ける権利(憲法第32条ほか)及び適正な手続保障を受ける権利(憲法第31条ほか)を損なうものである。
実施機関は、「競争上の地位その他正当な利益」は広範な意味を有するものであるにもかかわらず、審査請求人が開示決定前に主張した「裁判を受ける権利(憲法第32条ほか)」及び「適正な手続保障を受ける権利(憲法第31条ほか)」が「競争上の地位その他正当な利益」に該当するか否かの具体的検討を行うことなく、「重要な攻撃防御方法にあたるとまではいえず」という理由をもって「競争上の地位その他正当な利益を害するものであるとは認められない」と判断することは、条例第7条第3号の誤った解釈に基づく不当なものであると言わざるを得ない。
また、「本件確認書の真偽」について訴訟が提起された場合には、本件対象公文書に記載されている内容は、判決の基礎となるべき重要な訴訟資料となるものであるため、「重要な攻撃防御方法にあたるとまではいえず」という判断も不当なものであると言わざるを得ない。
7 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定等が妥当というものである。
本件対象公文書は本件確認書を取得した経緯及び本件確認書が正当なものであるという審査請求人の認識を示したのみであって、本件確認書の真正性に関する現在発生している紛争における重要な攻撃防御方法に当たるとまではいえず、開示することにより競争上の地位その他正当な利益を害するものであるとは認められない。
8 参加人の主張
本件確認書は偽造されたものであり、できるだけ早く本件対象公文書を開示してほしい。もしも、本件確認書は偽造されたものではなく、本件対象公文書に本当のことが書かれているならば、開示をしても問題はないはずである。9 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。また、「競争上の地位その他正当な利益」とは、法人等の公正な競争関係における地位、ノウハウ及び信用等の運営上の地位を広く含むものである。したがって、財産権のほか、信教の自由、集会・結社・表現の自由など当該法人の有する憲法上の権利等の非財産的権利を含む法律上の権利がすべて含まれると解される。
(3)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
審査請求人は、本件対象公文書について、現在発生している紛争における主要な争点の一つである本件確認書の真正性について、審査請求人の認識及び見解が記載されており、これらは審査請求人の民事訴訟法上の重要な攻撃防御方法であると主張している。この点について実施機関は、本件対象公文書は、あくまでも審査請求人の認識を示したのみであって、重要な攻撃防御方法に当たるとは判断できないと主張している。
当審査会において本件対象公文書を見分したところ、審査請求人が本件確認書をどのように取得したのかを示す経緯及び本件確認書の真正性に係る主張が記載されている。確かに、実施機関が主張するとおり、本件対象公文書に記載されている内容は審査請求人の認識を示しているに過ぎないが、本件確認書に関する真正性が争われた場合、本件対象公文書に記載されている審査請求人の認識及び見解そのものが重要な攻撃防御方法になると考えられる。したがって、これらの情報は審査請求人が当該紛争において主張する可能性がある情報であり、開示することで結果的に審査請求人の当該紛争における主張・立証あるいは反論の手段を制約することになると考えられる。
また、このような紛争に関わる法人の認識及び主張に関する情報については、当該法人等は、開示の可否及びその範囲を自ら決定することのできる権利ないしそれを自己の意思によらないでみだりに他に開示、公表されない利益を有していると考えるべきである。なぜならば、紛争をどのように解決するのかを決定するのが紛争の当事者である以上、本件対象公文書に記載された内容を紛争相手へ伝える手段、表現、そもそも伝えるか否かなどについては紛争の当事者に委ねられるべきものであるからである。したがって、本件対象公文書1頁目の24行目以降及び2頁目のその全ての部分については、これを開示することによって、審査請求人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
なお、本件対象公文書1頁目の1行目から23行目には、本件対象公文書が提出された日付、提出先、提出者、提出に至った経緯等が記載されているが、これらは当該紛争における重要な攻撃防御方法であるとはいえず、また開示することによって審査請求人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないため、開示が妥当であると判断する。
(4)条例第7条第2号の該当性の判断について
審査請求人は、本件対象公文書の一部について、条例第7条第2号(個人情報)の該当性も主張するが、当該部分が条例第7条第3号に規定する非開示情報に該当することはすでに述べたとおりであることから、同号該当性については判断しない。(5)審査請求人のその他主張について
審査請求人は、「本件対象公文書は実施機関からの照会に応じて提出したものであり、照会があったという事実自体が、審査請求人が獲得している地域住民との良好な関係に基づき事業活動を行うという社会的評価もしくは信用を損なうものである。」と主張しているが、本件開示請求に対して実施機関は部分開示決定を行っており、その文書の存在については、すでに開示請求者には伝わっていることが認められる。審査請求人の主張は、本件対象公文書の存否自体を明らかにすべきでないというものであるが、本件審査請求に関しては上記のとおり、訴えの利益が認められないため、審査請求人の主張は採用できない。(6)参加人のその他主張について
参加人は、「本件確認書は偽造されたものであり、早急に開示してほしい。また、本件対象公文書に書かれていることが正しければ、開示できるはずだ。」と主張しているが、当審査会は条例に基づき、開示・非開示の妥当性について審議するものであり、当審査会は文書の内容の真偽について判断するものでもないため、参加人の主張は本件の結論を左右するものではない。(7)結論
よって、主文のとおり答申する。10 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
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29. 4.20 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
29. 4.26 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 |
29. 6. 1 | ・実施機関を経由して審査請求人からの反論書及び参加人からの意見書を受理 |
29. 6.27 | ・審査請求人及び参加人に対して、口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
29. 6.28 | ・審査請求人及び参加人に対して、意見書の提出依頼 |
29. 7.19 |
・書面審理 (平成29年度第1回第1部会) |
29. 8. 9 |
・審査請求人の口頭意見陳述 (平成29年度第2回第1部会) |
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
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※会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
※委員 | 内野 広大 |
※委員 |
川本 一子 |
※委員 | 藤本 真理 |
委員 | 片山 眞洋 |
委員 | 木村 ちはる |
委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。