三重県情報公開審査会 答申第471号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った公文書開示決定については、その決定を取り消し、改めて対象公文書を特定し決定すべきである。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成28年10月5日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成24年5月1日付けで申請された岩石採取計画にかかわる平成28年8月5日付けの通知書、不認可の決定にかかわるすべての文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成28年10月18日付けで行った公文書開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 審査請求の理由
審査請求書及び審査会に提出された意見書における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
岩石採取計画申請に対する不認可決定は、県政にとって画期的な判断であり高く評価する。しかし、公文書開示請求に対し、知事が行った開示決定で開示した公文書以外に文書が存在しないことについては、疑問を感じざるを得ない。
事業者にあてた通知書に、不認可にしたことについて「県として慎重に審査しました」と記述されていることから、会議で審査を行ったと判断するが、会議における文書が作成されているのではないか。
公文書は尾鷲建設事務所にも県庁にも存在しないのか。あるいは、物理的に存在するが、情報公開条例の解釈上、実施機関が「保有」していないという意味なのか。
「慎重に審査した」としながらも文書が存在しないという回答は、裁判に影響するとして文書を隠ぺいしたのではないかとの不信感を抱かざるを得ない。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
本決定で特定し、開示した公文書は、平成28年8月5日付けの通知書、実施機関が発注して実施された特定事業者による環境調査業務結果報告書、濁水の影響に係る学識経験者の意見等である。
岩石採取計画認可申請に対して、当該事案に係る裁判所判決やその元となる濁水の調査結果等を勘案して不認可決定しており、会議等を開いて決定したものではないため、本決定で開示した公文書以外に公文書は存在しない。
また、尾鷲建設事務所にも本庁(県土整備部)にも、本決定で開示した公文書以外に公文書は存在しない。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本決定の妥当性について
審査請求人は、岩石採取計画認可申請に対し実施機関は「慎重に審査」したことから会議等を開いて不認可決定したはずだから会議等に係る公文書が存在すると主張する。
一方、実施機関は、当該事案に係る裁判所判決や本決定で開示した濁水の調査結果等を勘案して判断したものであり、会議等を開いて不認可決定したものではないと説明しており、実施機関のこの説明に特段不自然不合理な点はない。
しかし、実施機関の説明によると、岩石採取計画不認可決定を行うに際して、職員が起案し、上司が承認又は決裁するため押印した起案文書を対象公文書に含めず、事業者に対し交付した不認可通知書だけを対象公文書として特定したことが認められる。
開示請求対象公文書を特定する場合、当該公文書のうちその情報が記録されている部分のみを開示請求の対象として特定するのではなく、当該公文書全体を対象として特定する必要がある。起案文書の場合は、当該起案の一部分ではなく当該起案全部が開示対象となり、起案文書を対象公文書に含めなかったことは、不適切な事務処理であったと言わざるを得ない。
したがって、実施機関は、本決定を取り消し、再度対象公文書の特定を行ったうえで、改めて決定すべきである。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。6 審査会からの意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、審査会として次のとおり意見を申し述べる。本件事案において、審査請求人は、「岩石採取計画認可申請に対し、県は慎重に審査したということだから、会議等を開いて審査したはずだ」と主張している一方、実施機関では「会議等を開いて審査したものではない」と説明しており、審査請求人と実施機関との間で意思疎通が十分図られていないことが認められる。
実施機関には、県の諸活動を県民に説明する責務を全うされるようにする義務があり、今後、審査請求人とより一層の意思疎通を図られるよう努められたい。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
29. 1.17 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
29. 2.24 | ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
29. 3.13 | ・審査請求人から、意見書の提出 |
29. 4.21 |
・書面審理 (平成29年度第1回B部会) |
29. 5.12 |
・審議 (平成29年度第2回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
※委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。