三重県情報公開審査会 答申第470号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件審査請求の対象となった公文書を開示すべきである。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成28年9月7日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「全国都道府県議会議長会から提供された地方議員年金制度の自民党PT案」についての開示請求に対し、三重県議会議長(以下「実施機関」という。)が平成28年9月21日付けで行った公文書非開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件審査請求の対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、全国都道府県議会議長会から実施機関に提供された「自由民主党総務部会地方議員年金検討PT(案)」である。
4 審査請求の理由
審査請求書及び口頭意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
自由民主党の一部の人たちが、口止めをしたからという理由で非開示決定されることは、条例第1条に明記されている県民の知る権利の侵害である。
非開示決定によって、県民と県議会議員との意見交換に著しい支障を生じさせる。
県議会代表者会議以後、全議員が情報共有している文書を有権者である県民がなぜ共有できないのか、全く理解できない。
対象公文書は、県議会議員から別途提供を受けているものであり、非開示決定となるものではない。
自由民主党内での意見交換や意思決定に支障が生じるおそれのある資料なら、なぜ自由民主党は全国都道府県議会議長会に提供しているのか、また自由民主党から公表しないことを前提に提供された資料なら、なぜ全国都道府県議会議長会が議会事務局担当者を集めた場で情報提供しているのか理解できない。
当該文書は、法案として国会での審議が予想されるため、その内容について納税者や有権者と情報共有されなければ国会議員と議論することができない。意思形成過程情報であり、その内容で確定しているかのような誤解を招くおそれはほとんどない。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定等が妥当というものである。
(1)条例第7条第3号(法人情報)に該当
文書提供者である全国都道府県議会議長会からは、開示されると支障があるとの意見があった。当該文書は、自由民主党から同会には公表しないことを前提に提供されており、この文書を開示することにより、同会と自由民主党との信頼関係が崩れ、同会の今後の業務に支障を生じさせることとなる。また、当該文書は政党である自由民主党の内部における公開されていない検討段階の資料であり、開示することにより、今後の同党内での意見公開や意思決定に支障が生じるおそれがある。
(2)条例第7条第5号(審議検討情報)に該当
当該文書は今後十分な検討がされた後、法案として国会での審議が予想されるため、国会に係る内部資料とも考えられる。当該文書はまだ十分に検討されていない段階の未公開資料であり、公開されることにより、この内容で確定しているかのような誤解を招くおそれがあり、今後の率直な意見交換、意思決定に支障が生じるおそれがある。(3)条例第7条第6号(事務事業情報)に該当
当該文書は、全国都道府県議会議長会から公開しないことを前提に提供された文書であり、同会の副会長を務めている三重県議会が開示することにより、三重県議会と同会との信頼関係に悪影響を及ぼし、今後のさまざまな業務に支障が生じることは明らかである。6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
なお、本規定は、実施機関の長に広範な裁量権限を与える趣旨ではなく、各規定の要件の該当性を客観的に判断する必要があり、また、事務又は事業がその根拠となる規定・趣旨に照らし、公益的な開示の必要性等の種々の利益を衡量した上での「適正な遂行」といえるものであることが求められる。「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、「おそれ」の程度も単なる抽象的な可能性ではなく、法的保護に値する程度の蓋然性が要求される。
(3)条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
実施機関は、本件対象公文書は全国都道府県議会議長会から公開しないことを前提に提供されたものであり、開示することにより、実施機関と同会との信頼関係に悪影響を及ぼし、実施機関の今後の業務に支障が生じ、条例第7条第6号(事務事業情報)に該当する旨主張しているので、その点につき検討する。まず、開示・非開示の判断は、非公開条件という形式によって開示・非開示が決定されるべきではなく、その内容に即して実質的に開示・非開示が判断されるべきである。なぜなら、非開示を正当とする理由の存否にかかわりなく、提供者からの申し入れをもって本号に該当し、非開示とすることができることとなれば、実施機関の都合により、非開示とすることができることとなり、取得した文書等を含め原則開示とした本条例の趣旨に照らすと妥当でないからである。
したがって公開しないことを前提に提供されたという経緯があったとしても、この条件は実施機関が積極的に外部に公表することはしない旨の条件にすぎず、本条例の規定に基づき開示を余儀なくされる場合を含むものではないと解すべきである。
実施機関の説明によると、本件対象公文書は自由民主党が作成したものを全国都道府県議会議長会から取得したとのことであり、議会運営において同会との信頼関係を維持することの重要性は否定できず、公開しないことを前提に自由民主党から提供されたから公開に支障があるとの同会からの意見が出されていることを考慮し、実施機関が同会との信頼関係の維持を重視する姿勢をとることには無理からぬものがある。
しかし、本件で非公開とされた情報を実施機関が公開することによって、全国都道府県議会議長会との信頼関係がどの程度損なわれ、公開がどのような支障を生じさせるのかは、公文書の内容に即して判断されなければならない。
当審査会で本件対象公文書を子細に見分したところ、自由民主党総務部会地方議員年金検討プロジェクトチームが検討した地方議員年金制度の基本的な枠組みを示したものに過ぎず、開示しても自由民主党内での意見交換や意思決定に支障が生じるおそれがあるとは認められない。
このように、自由民主党の正当な利益を害するとは認められないから、これを開示しても、全国都道府県議会議長会と同党との信頼関係は損なわれず、ひいては、同会と実施機関との信頼関係に悪影響を及ぼし、議会運営に支障が生じるおそれがあるとは認められない。
したがって、本号には該当しない。
(4)条例第7条第5号(審議検討情報)の意義について
本号は、行政における内部的な審議、検討又は協議の際の自由な意見交換や公正な意思形成が妨げられ、歪められたり、特定の者に利益や不利益をもたらすことなく、適正な意思形成が確保される必要から定められたものである。(5)条例第7条第5号(審議検討情報)の該当性について
実施機関は、本件対象公文書はまだ十分に検討されていない段階の国会の内部資料であり、公開されることにより、この内容で確定しているかのような誤解を招くおそれがあり、国会における今後の率直な意見交換、意思決定に支障が生じるおそれがあるとし、条例第7条第5号(審議検討情報)に該当する旨主張する。
本件対象公文書は、前述のとおり、自由民主党総務部会地方議員年金検討プロジェクトチームが作成し、全国都道府県議会議長会から各都道府県議会に提供されたものである。三重県議会においては各会派の代表者等から構成される代表者会議を通じて、全議員に配布されていることが認められ、他都道府県議会においても同様に議員に提供されているものと思料される。
そうすると、本件対象公文書は、自由民主党における一定の権限を与えられた責任者が作成した資料であり、同党及び国会の内部における検討段階のものとはいえないため、これが公になっても、国会における今後の率直な意見交換、意思決定に支障が生じるおそれがあるとまではいえない。
したがって、本号には該当しない。
(6)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(7)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関は、対象公文書は、自由民主党から公表しないことを前提に全国都道府県議会議長会に提供されており、この文書を開示することにより、同会と自由民主党との信頼関係が崩れ、同会の今後の業務に支障を生じさせることとなる。また、当該文書は政党である自由民主党の内部における公開されていない検討段階の資料であり、開示することにより、今後の同党内での意見交換や意思決定に支障が生じるおそれがあると主張する。前述のとおり、対象公文書は自由民主党総務部会地方議員年金検討プロジェクトチームが検討した地方議員年金制度の基本的な枠組みを示したものにすぎず、開示しても同党内での意見交換や意思決定に支障が生じるおそれがあるとは認められない。
また、自由民主党の正当な利益を害するとは認められないから、これを開示しても、全国都道府県議会議長会と同党との信頼関係が崩れるとは考えられず、同会の今後の業務に支障を生ずるおそれもない。
したがって、本号には該当しない。
(8)結論
よって、主文のとおり答申する。7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
29. 1.13 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
29. 1.13 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 |
29. 2. 8 | ・実施機関を経由して反論書の受理 |
29. 2.20 |
・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
29. 3.28 |
・書面審理 (平成28年度第7回B部会) |
29. 4.21 |
・審議 (平成29年度第1回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
※委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。