三重県情報公開審査会 答申第469号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件審査請求の対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成28年9月16日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定工事に係る特定法人の技術提案評価結果の情報」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成28年10月7日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書及び本件非開示部分について
本件審査請求の対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、特定工事に係る入札において、特定法人が提出した技術資料届出書及びそれに係る技術提案評価結果である。そして、本件対象公文書において、実施機関が非開示とした部分は、別表の「実施機関が非開示とした部分」(以下「本件非開示部分」という。)のとおりである。
4 審査請求の理由
審査請求書、反論書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
非開示とした氏名、生年月日並びに資格の取得実績等は、事業を営む個人の当該事業に関する情報であり、個人情報の適用除外である。
法人情報を理由に非開示とした部分については、「当該法人の今後の事業活動に支障を来たすこととなり、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」ような情報ではないから、非開示情報には該当しない。
今回の入札における技術提案に関する評価について、公平公正な審査が行われていないと考えている。公平公正な審査が行われなければ、総合評価方式に対する県民の信頼を失うことになるし、恣意的な運用が横行することになり、一般入札制度の根幹を揺るがすことになる。したがって、本件情報を公開することは、総合評価方式の評価の正当性、公正性をチェックするために必要不可欠のものであり、公表することに公益性がある。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
非開示とした氏名、生年月日並びに資格の取得実績等は、個人に関する情報であって特定の個人が識別され得るものと認められるため、条例第7条第2号に該当し、同号ただし書の情報には該当するとは認められないことから、非開示とした。
次に技術提案の部分に関しては、法人に関する情報であって、当該法人が蓄積した施工実績や経験に基づく独自のノウハウを基に作成された情報であり、開示することにより、他の工事入札において、競合他社が当該部分の記載内容を模倣した技術資料を作成・提出することが可能となり、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため、条例第7条第3号に該当し、同号ただし書の情報には該当するとは認められないことから、非開示とした。なお、「公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針の一部変更について」(平成26年9月30日閣議決定)第2の4(1)ロ「発注者は、民間の技術提案自体が提案者の知的財産であることにかんがみ、提案内容に関する事項が他者に知られることのないようにすること、提案者の了承を得ることなく提案の一部のみを採用することのないようにすること等取扱いに留意するものとする。」とされている。
技術提案の評価結果については、法人に関する情報であって、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため、条例第7条第3号に該当し、同号ただし書の情報には該当するとは認められないことから、非開示とした。
上記以外の情報については、法人に関する情報であって、当該法人の営業並びに内部管理に関する情報であり、開示することにより、当該法人の今後の事業活動に支障を来たすこととなり、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため、条例第7条第3号に該当し、同号ただし書の情報には該当するとは認められないことから、非開示とした。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
ア 書類作成者の氏名(整理番号1)及び施工環境監理者の氏名、資格情報等(整理番号3)
これらの情報は、個人に関する情報であり、特定の個人が識別される情報であると認められるため、条例第7条第2号に該当し、同号ただし書の情報に該当するとは認められないことから、非開示が妥当である。
この点について審査請求人は、これらの情報は事業を営む個人に係る情報であるため、法人情報で判断すべきであると主張しているが、記載されている氏名は事業を営む個人の情報ではなく、法人の従業員の情報であるため、個人に関する情報であるとして本号に基づき非開示とした実施機関の判断は妥当である。
イ 生年月日(整理番号2)
配置予定技術者となる者の生年月日については、建設業法に基づく閲覧制度により公にされている情報であるため本号ただし書イに該当し、開示すべきである。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(5)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
ア 法人のメールアドレス(整理番号4)
当審査会にて本件対象公文書を見分したところ、非開示とされているのは当該法人の窓口となるメールアドレスであると推測できる。この点について実施機関は、当該メールアドレスは公にしているものではなく、開示することで今後の事業活動に支障を来たすこととなると主張している。しかし、一般に法人の窓口となるメールアドレスについては、法人の秘匿すべき内部管理情報というよりは、法人の問合せ先として周知されることが予測される情報であり、また、当該情報を開示することで、今後の事業活動に支障を来たすとも考え難い。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は妥当ではない。
イ 工事実績、受注工事高等(整理番号5、8、10、11)
当該非開示部分には、当該法人の施工実績の中で、県が指定した条件に合う工事(例えば、整理番号8については本件対象公文書の(様式-4)において、「三重県内において、単独若しくはJV構成員(出資比率20%以上に限る)の元請として受注し、平成13年度以降に完成し、かつ、引渡しが済んでいる契約金額2千5百万円以上の評価対象工事の実績」を記載するよう指示している。)が記載されている。実施機関は、当該情報は、当該法人の蓄積された事業活動に関する情報で、当該法人がその中から今回の評価に合致するものを抽出したものであり、また、開示する部分によっては当該法人の経営状況等が判明してしまうため、公開することで今後の事業活動に支障を来たすこととなると主張している。
しかし、これらの情報は単に当該法人の施工実績の一部を表しているにすぎず、これが明らかになったからといって、経営状況等が判明してしまうとまではいえず、当該法人の今後の事業活動に支障を来たすとは考え難い。
したがって、同号に該当せず、非開示とした実施機関の判断は妥当ではない。
ウ 社会貢献度等(整理番号6、7)
当該非開示部分には、当該法人の「次世代育成支援活動実績の有無」や「男女共同参画活動実績の有無」等が記載されている。実施機関は、当該情報は法人の内部管理に関する情報であり、当該情報を開示すると、今後の事業活動に支障を来たすと主張している。
しかし、実施機関が本入札時に公開している「技術資料作成上の留意事項」によると、例えば、「次世代育成支援活動実績の有無」については、「育児休業制度を就業規則等に規定されている場合に評価する」とされており、「男女共同参画活動実績の有無」については「「男女がいきいきと働いている企業」として三重県から認証を受けている企業を評価する」とされている。つまり、当該非開示部分はあくまでも当該法人の経営に関する情報の一側面にすぎない。
この点について、実施機関は補足説明にて、このような情報を開示すると、これらの取組に積極的でない法人が明らかとなってしまい、そのような法人の社会的なイメージや信用度が低下するおそれがあると主張していたが、これらの情報はあくまでも法人の一側面にすぎないし、また、それぞれの項目における実績がないからといって直ちにこれらの取組に消極的であるとまではいえず、実施機関の主張する支障が生じるおそれについても、その可能性は抽象的なものに留まり、条例第7条第3号に該当し非開示とするほどの具体的な支障が発生すると考えることはできない。
また、このような社会貢献等に対する取組というのは、官民共同で推進していくべき事柄であり、各種法人も積極的に取り組んでいく必要があると考える。したがって、仮にこれらの取組に積極的でないことが法人のイメージの低下を招いたとしても、それは受忍限度の範囲内というべきであり、同号で保護すべき利益ではないと考える。
したがって、同号に該当せず、非開示とした実施機関の判断は妥当ではない。
エ 1級技術者数(整理番号9)
当該非開示部分には、本入札実施時の当該法人に所属している1級技術者数が記載されており、実施機関は、公になっている情報ではないため、本号に該当すると主張している。しかし、三重県県土整備部建設業課において、三重県建設工事の発注にかかる建設業者の平成28年6月1日現在の格付一覧を公表しており、一覧の中では各法人の代表者の氏名や法人の住所のみならず、法人に所属している1級技術者の人数も記載されている。また、当審査会にて一覧を確認したところ、当該法人の1級技術者の人数についても公表されていることが確認できた。確かに、公表されている人数と対象公文書に記載されている人数は異なっているものの、だからといって当該非開示部分を開示することで当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず、むしろ格付けされた法人の1級技術者数が公になっているという事実を考慮すると、当該非開示部分を公開することによって何ら当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれはないと判断できる。
したがって、同号に該当せず、非開示とした実施機関の判断は妥当ではない。
オ 技術提案(整理番号12)
当該非開示部分には、県が提示した「施工計画」、「施工上の留意点」、「周辺環境に与えるリスク」の3つの項目に対して、それぞれ「配慮すべき事項」と「その理由」が記載されている。本件非開示部分には上記のとおり、あくまでも県が提示した項目に対する配慮すべき事項等が記載されているだけであり、配慮すべき事項に対する解決策は記載されておらず、また、配慮すべき事項として記載したとしても履行義務もないとのことである。
この点について、実施機関は補足説明において、今回の技術提案においては、法人の現場への着眼点を評価しており、記載内容に法人独自のノウハウ、施工経験等が反映されていると主張している。しかし、このような資料を作成するにあたって、それぞれの法人が工夫を凝らしていることについては当審査会においても否定するものではないが、判断すべきなのは当該内容から法人独自のノウハウが明らかになるかどうかである。
当審査会において本件対象公文書を見分したところ、これらの記載内容に当該法人独自の独創性があるとは認められず、また、同入札に参加した他の法人の提案内容と比較しても、事業者ごとに大きく異なる点は見受けられなかった。また、これらの記載内容のどこにどのようなノウハウ性が認められるかを実施機関に確認したところ、それに対する具体的な説明も得られなかった。当該法人独自の独創性が認められないということは、当該非開示部分を閲覧せずとも同業他社が当該法人と同じような内容の技術提案をすることが可能であるということであり、そのように考えると、当該非開示部分を開示することによって競争上の地位その他正当な利益を害すると判断することはできない。
したがって、一定程度、当該法人の施工経験等が反映されているとはいえ、その内容は当該法人が有している独自のノウハウであるとまではいえず、当該非開示部分を開示したとしても、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとまではいえない。
カ 技術提案評価結果(整理番号13)
当該非開示部分は、県が提示した3つの項目に対して提出された当該法人の提案内容のそれぞれの得点である。実施機関は補足説明において、非開示とした理由を2つ挙げている。1つ目の理由としては、当該非開示部分はそれぞれの項目に対する評価であるため、当該法人の得意・不得意分野が分かってしまうというものである。2つ目の理由としては、得点が高い項目が判明してしまうと、他の法人が工事現場を観察することで、当該法人の評価の高かった提案内容を推測し模倣できてしまうため、当該法人の競争上の地位を害するというものである。
1つ目の理由について、本件対象公文書を見分すると、そもそも県が提示したのは「施工計画について」、「施工上の留意点について」、「周辺環境に与えるリスクについて」という項目であり、それぞれの項目は工事を施工するうえでは密接不可分なものであり、それぞれの評価を明らかにしたからといって当該法人の得意・不得意分野が判明するとは認められない。また、これらの得点は単に本提案に対するものであって当該法人の技術力を表しているものであるとは認められないため、やはり実施機関の主張は採用できない。
2つ目の理由については、上記オで判断したとおり、提案内容についての法人情報該当性を否定したところであるため、改めて実施機関の主張を否定するまでもないが、仮に提案内容について法人情報該当性を認めたとしても、提案内容に関する履行義務はないため、これらの提案内容が採用されているとは限らず、また、部外者が工事現場に立ち入ることもできない以上、現場を観察することでこれらの記載内容を推測することは極めて困難であると判断する。
したがって、同号に該当せず、非開示とした実施機関の判断は妥当ではない。
(6)その他
実施機関は補足説明にて、法人が自ら公にしていない情報について、実施機関が自ら開示することは適当でないと主張する。しかし、本件対象公文書の開示・非開示は、本件対象公文書に記録されている情報を開示することで法人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれるかどうかを判断して決定されなければならず、単に法人が自ら公にしていないからといって、本件対象公文書を非開示とすることは妥当ではない。
(7)結論
よって、主文のとおり答申する。7 審査会の意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、本件事案については、実施機関の事務処理の一部に不適切な点が見受けられることから、審査会として次のとおり意見を申し述べる。本決定において、実施機関は、決定通知書に「開示しない部分」として「上記公文書のうち、個人情報に係る部分、法人情報に係る部分」と記載している。
非開示情報が記録されているために開示請求に係る公文書の全部又は一部を開示しない場合の理由付記(条例第15条)については、開示請求者が拒否の理由を明確に認識し得るものであることが必要であると解されており、非開示情報の内容が明らかにならない限度において、どのような類型の情報が条項のどの要件に該当するかを示すことになると考えられる。しかし、本決定においては、「個人情報に係る部分」、「法人情報に係る部分」としか記載されず、どういった情報が非開示とされているのかが書面からは知り得ることができないため、実施機関の理由付記に不備があったと言わざるを得ない。
実施機関は、情報公開制度への信頼を確保するためにも、条例の適正な運用に努め、今後同様のことがないよう正確、慎重な対応をするよう努力することが望まれる。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別表
整理番号 | 非開示理由 | 実施機関が非開示とした部分 |
---|---|---|
1 | 条例第7条第2号 (個人情報) |
書類作成者の氏名 |
2 | 配置予定技術者の生年月日 | |
3 | 施工環境監理者の氏名、資格情報等 | |
4 | 条例第7条第3号 (法人情報) |
法人のメールアドレス |
5 | 多気郡内または旧飯南郡内における工事実績 | |
6 | 社会貢献度 | |
7 | ISO9000s等の有効期限 | |
8 | 受注工事高 | |
9 | 1級技術者数 | |
10 | 評価対象工事の実績 | |
11 | 配置予定技術者の従事した評価対象工事 | |
12 | 技術提案について | |
13 | 技術提案評価結果 |
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
28.11.24 |
・諮問書の受理 |
28.11.28 | ・実施機関に対して対象公文書の提出依頼 |
28.12.20 | ・反論書の受理 |
29. 2. 1 | ・審査請求人及び実施機関に対して、意見書及び資料提出の希望の有無の確認 |
29. 2.16 |
・書面審理 (平成28年度第7回A部会) |
29. 3.15 | ・審議
(平成28年度第8回A部会)
|
29. 4.18 |
・審議 (平成29年度第1回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
※委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。