三重県情報公開審査会 答申第467号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件審査請求の対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成28年10月7日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「中勢沿岸流域下水道(志登茂川処理区)志登茂川浄化センター建設工事事業実施について事業計画~認可~現在に至る時系列的推移が分る全ての文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成28年10月18日付け、11月21日付け、11月25日付け、12月1日付けで行った公文書部分開示決定等(以下「本決定等」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書及び本件非開示部分について
本件審査請求の対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、中勢沿岸流域下水道(志登茂川処理区)志登茂川浄化センターの建設工事に係る文書であり、本件対象公文書において実施機関が非開示とした情報のうち審査請求の対象となっている情報は、現場代理人、監理技術者及び工程表作成関係者の印影、工事関係者の携帯電話番号並びに工事請負業者が支払った工事中止期間中における工事現場の維持に要する費用等の支払先及び支払金額である。
4 審査請求の理由
審査請求書及び口頭意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
本件開示決定は、請求内容のほんの一部の決定であり、条例の原則公開の趣旨に反し、時間稼ぎの小出しに過ぎない。
本工事における基礎杭の施工データ改ざんによる工事中止期間の遅延損害を帳消しにし、その倍額を県の指示による中止期間とする賠償金を支払う等した内訳をすべて非開示とした。
漏水を伴うひび割れが発生し、その補修を請求しながら、「前回までのひび割れ箇所」の報告書を開示せず、ひび割れの幅、深さ、長さの測定値を示さず、写真撮影記録も開示せず、漏水の程度の測定結果も開示しなかった。
中勢流域下水道(志登茂川処理区)浄化センターは、本来平成21年度末に供用開始の予定であったが、請負JV業者の不正、不法行為によって大幅に遅れた。
周辺水産加工業者の洗浄水用井戸水の水質悪化による申し入れによって、県の指示による工事中止期間の賠償額の算出内訳を秘匿した事は公正な公費支出を疑わせるに十分であり、元県幹部職員の天下りと関連付け、深い癒着があると断ぜざるを得ない。
重要な生活排水処理施設の建設についての品質と公契約の信頼性を深く毀損し、県政の信頼を失墜させるものであり、知事はじめ関係職員は改めて事の重大性に鑑み、現場を精査し失われた信用を回復するためあらゆる手段を尽くすべきである。
よって部分非開示処分を全面的に取消し、全部公開をすべきである。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定等が妥当というものである。
請求内容である「時系列的推移が分る文書」については、「事業概要」を公文書として特定し、10月18日に開示決定を行ったところ、請求者から不服があり、請求者の意向を確認しながら追加の開示決定等を行ってきた。
11月25日の開示追加決定で、工事完成後にひび割れの補修を要求した事がわかる資料として開示した文書中に、「前回までのひび割れ箇所」という記載があったことから、審査請求人はこの「前回までのひび割れ箇所」に関する文書の開示を審査請求書で求めているが、11月25日時点では、審査請求人から「前回までのひび割れ箇所」に関する文書の開示は求められていなかった。なお当該文書は審査請求書の提出後の12月2日、12月22日に追加決定を行っている。
また、本決定等において、非開示とした理由は、以下のとおりである。
現場代理人、監理技術者、工程表作成関係者個人の印影及び工事関係者の携帯電話番号は、条例第7条第2号の個人情報に該当する。
工事現場の維持に要する費用、工事体制の縮小に要する費用、工事の再開・準備に要する費用、その他に記載の支払先及び支払金額は、請負業者の取引先に関する情報で重要な顧客情報であるため、条例第7条第3号の法人情報に該当する。
個人の給与、地代家賃、借地料、駐車料金に関する支払先及び支払金額については、条例第7条第2号の個人情報に該当する。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であれば全て非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が、本決定等において本号に該当するとして非開示とした情報は、現場代理人、監理技術者及び工程表作成関係者の印影、工事関係者の携帯電話番号並びに工事現場の維持に要する費用、工事体制の縮小に要する費用及び工事の再開・準備に要する費用として工事の請負業者が支払った現場代理人及び監理技術者を除く職員の氏名、職員個人の職員給与及び通勤に要する費用、地権者に対する地代家賃及び借地料である。当該情報は、個人に関する情報であって直接あるいは他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報であり、本号本文に該当すると認められる。
また、本号ただし書イ及びロの情報のいずれにも該当するとも認められない。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(5)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が、本決定等において本号に該当するとして非開示とした情報は、工事の中止に伴って発生した工事現場の維持に要する費用、工事体制の縮小に要する費用及び工事の再開・準備に要する費用その他として、工事の請負業者が支払った相手とその金額である。その一方で、「仮設材」、「事務用品」といった項目名や内容は開示している。
一般的な商取引において、取引先情報は事業者にとって重要な営業情報であり、同業他社の努力次第で不利益を被る可能性が全くないと断言することはできず、このような支払先情報を開示することは、当該事業者の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
しかし、上下水道料、放送受信料、通信費、電話料、送信手数料及び宅配便の項目については、これらの事業を行う事業者は特定あるいは限定されているため、事業者名を明らかにしても当該事業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。したがって、これらの項目の支払先については、開示すべきである。
また、工事請負業者が支払った金額については、これを明らかにしても、支払先が明らかにならなければ、単に支払ったという事実が判明するのみであり、当該事業者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれは生じない。
したがって、上記(3)の職員個人の職員給与及び通勤に要する費用以外の支払金額については、開示すべきである。
(6)審査請求人のその他の主張について
審査請求人はその他種々主張するが、いずれも審査会の判断を左右するものではない。(7)結論
よって、主文のとおり答申する。7 審査会からの意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、本件事案については、実施機関の事務処理の一部に不適切な点が見受けられることから、審査会として次のとおり意見を申し述べる。公文書の特定段階で請求の対象公文書の内容について、審査請求人と実施機関双方の認識に相違が存在していたことは否めず、公文書の特定が不十分であったことが認められる。この点について、実施機関は、当初の公文書の特定段階において、開示請求者の意思をよく確認すべきであり、開示決定等を行うに当たっては慎重な判断をすべきであったと言わざるを得ない。
また、本決定等において、実施機関は、開示しない理由として「三重県情報公開条例第7条第2号に該当し、特定の個人が識別される情報であるため」、「三重県情報公開条例第7条第3号に該当し、法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報であるため」と記載している。
非開示情報が記録されているために開示請求に係る公文書の全部又は一部を開示しない場合の理由付記(条例第15条)については、単に条例上の根拠条項を示すだけでは足りず、開示請求者が拒否の理由を明確に認識し得るものであることが必要であると解されており、非開示情報の内容が明らかにならない限度において、どのような類型の情報が条項のどの要件に該当するかを示すことになると考えられる。したがって、本決定等において実施機関の理由付記に不備があったと言わざるを得ない。
実施機関は、情報公開制度への信頼を確保するためにも、条例の適正な運用に努め、今後同様のことがないよう正確、慎重な対応をするよう努力することが望まれる。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
28.12.22 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
29. 1.11 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 ・実施機関に対して、意見書及び資料の提出依頼 |
29. 1.31 | ・実施機関から意見書及び資料の受理 |
29. 2. 7 |
・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
29. 2.28 |
・書面審理 (平成28年度第6回B部会) |
29. 3.28 |
・審議 (平成28年度第7回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
※委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。