三重県個人情報保護審査会 答申第105号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件審査請求に係る本件部分開示決定において非開示とした部分を取り消し、開示すべきである。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、審査請求人が平成28年3月22日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「調査書及び平成28年度後期選抜学力検査の採点済み答案用紙(5教科)」についての開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成28年4月5日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象保有個人情報について
本件審査請求の対象となっている保有個人情報は、以下のとおりである。(1)調査書の「5 その他参考となる諸事項」欄の記述
(2)平成28年度後期選抜学力検査の採点済み解答用紙のうち次に掲げる記述式問題の採点に至る意思形成過程を示す記述及び点数
ア 国語解答用紙の2(五)、6
イ 社会解答用紙の2(2)及び(6)、3(6)、4(6)、5(6)(b)
ウ 英語解答用紙の3(1)①
4 審査請求の理由
審査請求書、意見書及び口頭意見陳述における審査請求人の主張は、概ね次のとおりである。
(1)調査書の「5 その他参考となる諸事項」欄には、生徒の長所、ボランティア活動歴、取得した資格等を記載するはずだが、悪い内容が記載してあると思われる。その内容については、中学校の担任の先生から口頭で聞いており、また、指導要録(生徒の学籍、指導に関する記録)が○○市から全面的に開示されていることから、非開示にする必要はない。この情報を開示したとしても、入学者選抜に係る事務の適正な遂行が著しく困難になるとは考えられない。
(2)解答用紙は本人の個人情報であり、特に点数は合否に結びつくものである。なぜ結果がこうなったのかを知る権利が本人にはあり、高等学校にはその説明責任がある。自分の解答のどこが間違っていたのかを反省するためにも、開示されるべきである。採点基準に従って採点しているはずであるので、非開示にする理由はない。
(3)三重県では、三段階の選抜方法が実施されているが、合格者数が平等でない。
また、中学校での評価は学校ごとに独自で行っているため、差が生じている。
このような不透明な選抜方式の実施は、生徒の人生を大きく変えてしまうことになりかねず、子どもの人権を大いに侵害するものである。
今回の選抜方式が公正であるというのであれば、全てを開示したうえで、説明責任を果たすべきである。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を要約すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1)調査書の「5 その他参考となる諸事項」欄の記述について調査書は、学校教育法施行規則で規定された入学者選抜のための資料である。学力検査で把握できない学力や、学力以外の生徒の個性を多面的に捉え、生徒の優れている点や、長所を積極的に評価し、入学者選抜に活用するという趣旨のものである。
「その他参考となる諸事項」欄は、受検者の長所や特技等の人物評価ともいうべき、評価者の観察力等に基づく情報を記述形式で記載している部分である。
当該部分を開示した場合、記載者の主観的判断を伴う評価について、質問や見解の違いを持った受検者等に対し、その理解と納得を得るような説明を行うことは、現実問題として極めて困難である。
結果として、記載内容が総花的・横並び的なものになるといった形骸化・空洞化が進み、調査書を選抜資料の一つとして活用する意義が滅殺され、入学者選抜に係る事務の適正な遂行が困難になるおそれがあるため、条例第16条第7号に該当すると判断し非開示とした。
(2)解答用紙に記載された採点に至る意思形成過程を示す記述及び点数について
記述式問題の採点は、県ホームページで公開している県の示す採点基準で採点できない場合においては、高等学校ごとに定めた統一見解で採点することになっている。
この各校ごとの統一見解により採点した問題で、採点に至る意思形成過程を示す記述及び点数を開示することについては、受検者等からの部分点の与え方等に係る質問や見解の違いが多数寄せられることが予想され、質問や見解の相違について、逐一開示請求者に説明するには、相当程度の事務量が発生すると予想される。仮に、そうした説明をしたとしても、全ての開示請求者の理解を得ることは、困難であると考えられる。
そのような状況を考慮すると、記述式問題を避け、多肢選択式問題を多用せざるを得ず、その結果、多肢選択式問題では把握できない受検者の思考力・判断力や、問題解決の過程等が評価できなくなり、学校教育法や学習指導要領が求めており、かつ本県の入学者選抜の方針でもある受検者の思考力・判断力・表現力を重視するという方向性に、逆行することとなるおそれがある。よって、条例第16条第7号に該当すると判断し非開示とした。
6 審査会の判断
審査請求人は、本件非開示部分の開示を要求しているが、実施機関は本決定を妥当としていることから、本件対象保有個人情報を見分した結果を踏まえ、本決定の妥当性について、条例を適正に解釈して、以下のとおり判断する。(1)条例第16条第7号(評価等情報)の該当性について
条例第16条第7号は、個人の評価等に関する保有個人情報を開示することにより、当該事務の適正な遂行を著しく困難にすると認められるときは、非開示とすることを定めたものである。
ア 調査書の「5 その他参考となる諸事項」欄の記述について
実施機関は、当該情報を受検者等に開示した場合のトラブルを慮って記載が抑制され、内容が総花的・横並び的なものになり、調査書を選抜資料の一つとして活用する意義が減殺されると主張する。
たしかに、実施機関が主張するように、当該情報は、これまで本人に開示しないことを前提として記載されてきたため、記載内容によっては、受検者等と見解の相違が生じないとはいえない。
しかしながら、教育上なされる評価は、たとえ、それが教師の主観的評価・判断でなされるものであったとしても、恣意に陥ることなく、正確な事実・資料に基づき、受検者等からの批判に耐えうる適正なものでなければならないと考えられる。
そもそも条例の基本的な目的は、実施機関が保有する個人情報の開示等を求める個人の権利を明らかにすることにより、県政の適正かつ円滑な運営を図りつつ、個人の権利利益を保護することにある。
したがって、調査書を受検者等に開示することにより、その批判にさらすことが、恣意や不正を防止し、従来にも増して適正かつ公正な評価となると考えられ、入学者選抜に係る事務の適正な遂行を著しく困難にするものとは認められず、開示すべきである。
イ 解答用紙に記載された採点に至る意思形成過程を示す記述及び点数について
記述式問題を採用する場合、高等学校ごとの裁量的要素を含んだ評価を開示することによって、開示請求者との見解の相違が生じ、逐一理解を得るような説明をすることが困難であると実施機関は主張する。
しかし、本件非開示部分については、誤字、脱字、明らかな文法誤り等を理由とする減点やその意思形成過程が記述されており、高等学校ごとの統一見解による採点であったとしても、決して裁量によって加点・減点されるものではなく、客観的に判断し得るものである。
よって、これらの情報を開示しても、開示を受けた受検者等の無用の反発等の事態が生じることは考えられないことから、入学者選抜に係る事務の適正な遂行を著しく困難にするものとは認められず、開示すべきである。
(2)結論
よって、主文のとおり答申する。7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
28. 7. 8 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
28. 7.13 | ・実施機関に対して対象公文書の提出依頼 |
28. 7.29 | ・反論書の受理 |
28. 8. 9 |
・審査請求人に対して、口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
28. 8.26 | ・実施機関より意見書及び資料の受理 |
28. 8.29 | ・審査請求人より意見書及び資料の受理 |
28.10.12 | ・審査請求人より意見書の受理 |
28.10.17 | ・審査請求代理人より口頭意見陳述申出書の受理 |
28.10.18 |
・書面審理 (第123回個人情報保護審査会) |
28.11.15 | ・審議
(第124回個人情報保護審査会)
|
29. 1.17 |
・審議 (第125回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 |
藤 枝 律 子 |
三重短期大学法経科准教授 |
※会長職務代理者 | 岩 﨑 恭 彦 | 三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
内 野 広 大 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 | 尾 西 孝 志 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※委員 | 木 村 ちはる |
司法書士 |
なお、本件事案については、会長及び※印を付した委員によって主に調査審議を行った。