三重県情報公開審査会 答申第464号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、平成28年3月18日、開示請求者が三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「〇〇株式会社の焼却炉及び収集運搬業の廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく許可申請書類。(更新等すべての書類)過去15年分」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、審査請求人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる許可申請書を対象公文書として特定し、開示請求者に対して行った公文書部分開示決定(平成28年4月26日付け。以下「本決定」という。)について、条例第17条第2項に規定する第三者である審査請求人が取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件審査請求の対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、〇〇株式会社から実施機関へ提出された「産業廃棄物収集運搬業許可申請書」である。
4 審査請求の理由
審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
審査請求人へ産業廃棄物の収集運搬を委託する予定の排出事業者及び予定運搬先の事業者の名称、所在地及び電話番号は、当方の企業秘密であり、第三者により悪用された場合、いやがらせ等により仕事への多大な支障を及ぼすおそれがある。
当方は只今裁判中であることから、取引先の関係業者等に多大な迷惑を掛けるおそれがある。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定が妥当というものである。
〇〇株式会社に産業廃棄物の収集運搬を委託する予定の排出事業者及び予定運搬先の事業者の名称、所在地及び電話番号は、法人情報にあたる。
しかし、産業廃棄物処理に関する情報は、人の生命、身体、健康に深く関係した非常に公益性の高い情報であり、地域住民の不安等を払拭するためには、産業廃棄物の排出事業者名等を開示することは、平成9年6月の津地裁判決や三重県情報公開審査会の過去の答申でも妥当であるとされている。これらの情報を開示することによって、審査請求人に影響を及ぼす可能性は否定できないものの、産業廃棄物処理という事業には事業者の運営によっては地域住民の生活環境等に影響を与える危険性があることも事実であり、当該事業の特質から、非開示により保護すべき利益よりも地域住民の健康等の公益が優先されると判断し、開示とした。
また、申請書に記載されている申請代理人である行政書士法人の名称及び所在地、代表者名、電話番号についても上記と同様に考えられ、また申請代理人は意見照会により開示されても支障がないと認めていることから開示とした。
6 審査会の判断
実施機関は条例第7条第3号(法人情報)ただし書ハに該当するので開示が妥当であると主張していることから、以下、条例第7条第3号ただし書ハの妥当性について検討する。(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定める
こと等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。
(3)条例第7条第3号(法人情報)本文の該当性について
(ア)〇〇株式会社に産業廃棄物の収集運搬を委託する予定の排出事業者及び予定運搬先の事業者の名称、所在地及び電話番号について
上記の情報は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)に基づき、〇〇株式会社から実施機関に提出された産業廃棄物収集運搬業許可申請書に添付された事業計画書等に記載されているものである。
これらの情報は、産業廃棄物を収集運搬する事業者が日常的に取引を行う相手に関するもので、いわば顧客の情報である。そして、これら法人の経営に関わる顧客の情報については、実施機関も認めるとおり、競合他社に知られると、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
したがって、これらの情報は本号本文(法人情報)に該当する。
(イ)申請書に記載されている行政書士法人の名称及び所在地、代表者名及び電話番号に
ついて
これらの情報は、〇〇株式会社により申請書作成の依頼を受けた行政書士法人に関するものである。実施機関は、これらの情報が本号本文(法人情報)に該当することを前提に、ただし書に該当すると主張している。
しかし、審査会が見分したところ、当該行政書士法人の名称は、〇〇株式会社が日常的に取引を行う顧客とは異なり、これらの情報が明らかとなっても〇〇株式会社の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。また、この部分の情報について行われた行政書士法人への第三者照会においても、特段開示されても支障はない旨の回答がされており、行政書士法人にとっても、競争上の地位その他正当な利益を害さないと考える。
したがって、これらの情報は本号本文(法人情報)に該当しない。
(4)条例第7条第3号(法人情報)ただし書ハの該当性について
法人情報に該当する、〇〇株式会社に産業廃棄物の収集運搬を委託する予定の排出事業者及び予定運搬先の事業者の名称、所在地及び電話番号について検討する。(ア)条例第7条第3号(法人情報)ただし書ハの解釈
条例第7条第3号ただし書は、法人等又は事業を営む個人に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するために公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものに開示を義務づけたものである。そして、ただし書の解釈については、開示により保護される利益と、非開示によって保護される当該法人の利益とを慎重に比較衡量することにより、前者の利益が後者の利益を優越すると認められるときに限り開示が義務づけられるものと解すべきである。
(イ)比較衡量
まず、開示により保護される利益について判断する。実施機関の主張のとおり、排出事業者や産業廃棄物処理業者に対して厳しい責任を課した廃棄物処理法の趣旨や、産業廃棄物処理業を取り巻く社会状況等を総合的に判断すると、産業廃棄物の生成、運搬、処理に至る一連の過程に関する情報は、地域住民等の健康を保護するために公にすることが強く要請されているものである。
とりわけ、産業廃棄物の排出事業者及び運搬先に関する情報は、産業廃棄物収集運搬業者が取り扱う産業廃棄物の種類、処分方法等の情報とあいまって産業廃棄物の内容をより詳細に把握、確認できる情報である点で、産業廃棄物処理に密接に係わる情報といえる。そして、産業廃棄物処理業は、一般的に、運営態様によっては周囲の自然環境に多大な影響を与える事業であることも軽視できない。このことと併せて考えれば、産業廃棄物処理に密接に係わる情報が開示されることで保護される利益とは、地域住民等の不安感の払拭や良好な居住環境の利益といった抽象的な利益に留まらず、健康を維持して生活を営むうえで、その障害となりうる因子の存在を確認し得る利益ということができる。
そうすると、かかる情報の開示により保護されるべき利益は、広く周辺住民の生命・身体・健康に関わる重要な価値を有した公益と考えるべきである。
次に、非開示により保護される当該法人の利益について判断する。
審査請求人は、顧客情報が開示され、第三者により悪用された場合、いやがらせ等により事業活動に多大な支障が生じると主張する。
しかしながら、当審査会としては、当該法人の情報が開示されれば第三者からいやがらせ行為をされる関係にあるのか、又はいやがらせ行為が事実かどうかについて判断をなしうるものでもない。また、法人情報が非開示とされた趣旨は、健全で適正な経済活動の範囲内において、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を保護する点にある。そうすると、当該法人が第三者からいやがらせ行為を受けないという利益は、公正な経済的競争により得られる利益の範囲外にある一般的な利益であって、条例上の法人情報として保護されないと考える。
さらに、審査請求人は、当該法人の取引先の情報が開示されると、取引先の関係業者にもいやがらせ行為が及び、多大な迷惑を掛けるおそれがあると主張する。確かに、いやがらせ行為が取引先の業者に及ぶことで、場合によっては審査請求人の社会的信用の毀損につながるおそれがあることは否定できない。
しかしながら、上述のとおり、当審査会としては、当該法人の情報が開示されれば第三者からいやがらせ行為をされる関係にあるのか、また、いやがらせ行為が事実かどうかについて判断するのは困難であると言わざるを得ない。
以上から、審査会としては、開示によって保護される利益が、非開示によって保護される利益を優越すると判断せざるを得ない。排出事業所及び運搬先に関する情報は審査請求人の顧客情報であり、開示されることにより、競合他社との関係で審査請求人の事業活動に不利益を与えるおそれがあることは十分に理解できるが、産業廃棄物処理という事業には、事業者の運営によっては地域住民等の生活環境に重大な影響を与える危険性があることも事実であり、本事案においては、当該事業の特質や廃棄物処理法の趣旨、周辺住民等の利益の内容から、非開示により保護される利益よりも開示により保護される公益が優先されると判断する。
したがって、条例第7条第3号(法人情報)ただし書ハに該当し、開示するとした実施機関の決定に誤りはない。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
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28. 6.27 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
28. 7. 5 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 |
28. 7.19 | ・審査請求人に対して、口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
28. 7.26 | ・反論書の受理 |
28. 7.26 |
・審査請求人及び実施機関に対して、意見書及び資料提出の希望の有無の確認 |
28. 8. 1 | ・口頭意見陳述申出書の受理 |
28. 8. 9 |
・書面審理 (平成28年度第4回A部会) |
28. 9.13 | ・審議
(平成28年度第5回A部会)
|
28.10.11 |
・審議 (平成28年度第6回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
※委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。