三重県情報公開審査会 答申第461号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った公文書部分開示決定については、当審査会が妥当と判断した部分を除き、その決定を取り消し、改めて対象公文書を特定し、文書の存否を含め、決定すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成27年10月2日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った造林補助事業申請書等についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成27年10月13日付けで行った別表の公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
実施機関は造林補助に係る補助金を支給するにあたり、森林簿を根拠資料としているようであるが、森林簿に誤りがあるため、異議申立人に補助金が支給されていない。
開示された補助金申請の書類についても、異議申立人は地番に基づいて支給された補助金の書類を求めているにもかかわらず、実施機関は森林簿上の小班に基づいて支給した補助金の書類を開示しているため、処分を取り消すべきである。
また、請求した項目に対して処分がされていないものがあり、不作為であるとの答申を求める。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
異議申立人が請求した造林補助に係る補助金の申請書については、異議申立人が指定した地番に対して平成14年度から平成23年度の間に補助を行った「造林補助金申請書」を対象公文書として特定したが、開示請求者以外の補助申請書類等の内容が条例第7条第2号の非開示情報に該当すると判断して部分開示とした。
また、処分をしていない項目については、請求書を読む限り、他の請求内容の補足としか読み取れず、開示請求の項目であるとは判断できず、処分を行っていない。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。しかし、形式的に個人の識別が可能であれば全て非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
異議申立人は、開示された造林内訳書等について、氏名・住所は個人情報として非開示となることは理解するが、その他の項目は個人情報に該当しないため、氏名・住所以外が確認できる情報を公開するよう主張している。
当審査会において対象公文書を見分したところ、対象公文書には森林所有者の氏名、森林の所在地、森林簿上の小班等、森林の種類、林齢、樹種、補助金の額等が記載されており、そのすべてが非開示とされていた。
このことについて実施機関から聴取したところ、当該事務については個人情報取扱事務登録簿を作成しているため、そのすべてを非開示としたと主張している。しかし、三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号)第6条に規定されている個人情報取扱事務登録簿は、実施機関が、個人情報が記録されている公文書を使用する事務について、その事務の名称、目的、記録項目、収集先などを一覧表に取りまとめたものであって、県民はこれを閲覧することで、自己に関する個人情報の所在や内容を確認することができるというものである。したがって、当該事務について、個人情報取扱事務登録簿を作成していることを理由に、そのすべてが条例第7条第2号に該当するとした実施機関の判断は妥当ではない。
上記のとおり、異議申立人は森林所有者の氏名・住所以外の開示を求めているため、氏名・住所以外の項目の個人情報該当性について審査すると、氏名・住所が明らかにならない限りは、これらを開示したとしても個人を識別することはできず、また、森林簿に関する開示請求があった場合には、実施機関は、氏名・住所を非開示とし、森林簿上の小班等、森林の種類、林齢、樹種等の情報を開示していることから、個人情報には該当しないと判断する。
したがって、実施機関は、造林内訳書等の氏名・住所以外の項目について、開示すべきである。
(4)その他の決定の妥当性について
別表の決定毎に判断する。ア.No.1について
異議申立人は、平成14年度から平成23年度に提出された造林補助金申請書を請求したが、開示されたのは平成14年度の申請書だけであり、それ以外の年度の申請書も開示すべきであると主張する。このことについて実施機関から聴取したところ、申請書が提出されたのは平成14年度だけであるため、他の年度の申請書は存在しないとのことである。この実施機関の説明に不自然・不合理な点はなく、不存在とした実施機関の判断は妥当である。
また、異議申立人は、開示されたのはあくまでも森林簿上の小班に対してなされた補助に関する文書であって、異議申立人が求めている地番に対してなされた補助に関する文書ではないと主張している。この点について、請求内容を幅広く解釈し、対象公文書を特定した実施機関の対応が誤っているとは言えない。したがって、実施機関の判断は妥当である。
イ.No.2について
異議申立人は、開示された造林関係事業補助金交付要綱・要領に対して、実施機関の事務はこれらの要綱・要領には基づいていないため、決定を取り消すべきであると主張する。実施機関によると、造林補助事業の補助金は、開示した要綱・要領に基づき、本人等からの申請書、委託契約書、現地測量図等から判断して、実施しているとのことである。
異議申立人は、実施機関の事業に異議があるならば、開示された要綱・要領と実施機関の実務を照らし合わせ、要綱・要領に基づいていないと主張すればいいのであって、むしろ、要綱・要領を開示せず、その機会を与えないことこそ問題であると考えられる。
したがって、当該請求に対して、造林関係事業補助金交付要綱・要領を対象公文書として特定し、開示した実施機関の対応に何ら不備はなく、決定を取り消す必要はない。
ウ.No.3について
異議申立人は、平成15年から平成27年まで実施機関に対して補助金不正受給について調査依頼を行っており、実施機関の職員が〇〇町で聞き取り調査を行ったと聞き、「復命書」などが公文書として存在するはずであると主張している。他方で実施機関は、平成15年に調査依頼を受けた事実が確認できないため、不存在決定を行ったと主張している。確かに、請求内容からは「いつの調査結果」を求めているかは判然としないが、「異議申立人が主張してきた補助金不正受給に関する調査結果」を求めていることは明らかである。開示請求書には、「異議申立人が平成15年に調査依頼を行った」と記載されており、この点について異議申立人と実施機関のあいだに認識の相違があることが認められるが、上記のとおり「異議申立人が主張してきた補助金不正受給に関する調査結果」を求めていると判断できることから、異議申立人の意図を確認せず、不存在とした判断は妥当とはいえない。
したがって、実施機関は、本決定を取り消し、再度、書面で異議申立人の意図を聞き取り、対象公文書の特定及び探索を行ったうえで、文書の存否を含めて、改めて決定すべきである。
エ.No.4について
異議申立人は、当該補助金は国費及び県費により支給されており、不正受給が発覚した場合の処理方法を規定した文書が存在するはずであると主張する。他方で実施機関は、今回の開示請求は特定の補助金受給が不正であることを前提として、特定の補助金受給に係る造林補助事業での告訴や、補助金の返還請求方法を定めた公文書を求められたため、不存在と判断したと主張している。開示請求書及び異議申立書の記載からは、異議申立人が主張している特定の補助金受給が違法であるか否かに関わらず、一般的に不正受給があった場合の処理方法を規定した公文書を求めていると判断せざるを得ず、当審査会としては、実施機関は請求内容を限定しすぎたと言わざるを得ない。
したがって、実施機関は、本決定を取り消し、再度、書面で異議申立人の意図を聞き取り、対象公文書の特定を行ったうえで、文書の存否を含めて、改めて決定すべきである。
オ.No.5について
異議申立人はA小班がB小班に組み込まれた状態に、平成15年度に書き換えられた林班図が存在しており、理由なく書き換えるわけがなく、公文書が存在するはずであると主張する。他方で実施機関は、異議申立人が主張する「組み込む」ことを行っていないため、公文書は存在しないと主張する。この点について、異議申立人は2つの林班図を示し、それらを比べたうえで、一方でA小班がB小班に組み込まれておらず、他方では組み込まれており、その理由が分かる文書を請求していると解釈できる。これらのことから「組み込む」という文言の意味、請求した内容について、異議申立人と実施機関双方の認識に相違があると考えられ、公文書の特定が不十分であったと言わざるを得ない。したがって、実施機関は、本決定を取り消し、再度、書面で異議申立人の意図を聞き取り、対象公文書の特定を行ったうえで、文書の存否を含めて、改めて決定すべきである。
カ.No.6について
異議申立人は、実施機関は補助事業に必要な費用を計上し、予算を事前に確保し、補助事業が可能であることを異議申立人に伝えており、一方で異議申立人は当該補助金を受給していないため、森林組合が流用した疑いがあると主張している。他方で実施機関は、造林事業では、実際に行われた森林施業に対し補助金を交付しているものであり、施業前に補助金を交付することはなく、森林組合が補助金を流用したことを確認する公文書は存在しないと主張している。この実施機関の説明に特段、不自然・不合理な点はなく、「異議申立人が受給するはずであった補助金を森林組合が流用したことが確認できる情報」について、不存在とした実施機関の判断は妥当であると判断する。
キ.No.7について
異議申立人は、森林簿の訂正ができない理由を開示すると、実施機関が自らの誤りを認めることとなるため、「記録訂正ができない理由が確認できる公文書は作成していない」と虚偽の処分理由を記載していると主張している。他方で実施機関は、森林簿は森林法に基づき5年ごとの地域森林計画の樹立時に変更され、その都度、修正を行っており、異議申立人の要求している森林簿の訂正についても、森林簿の誤りが認められれば、次回の樹立時に変更できるよう訂正作業を進めており、異議申立人へ口頭で説明を行ったが、特段、訂正ができない理由を文書として作成はしていないとのことである。この実施機関の説明に特段、不自然・不合理な点はなく、不存在とした実施機関の判断は妥当であると判断せざるを得ない。
ク.No.8について
異議申立人は、これらの請求について、補正を求められれば請求内容が特定できたことから、実施機関は補正を怠っており、対象となる公文書を開示すべきであると主張している。他方で実施機関は、その文面から他の請求内容の補足であると捉えたため、決定を行わなかったと主張している。この点について、条例上の「補正」とは、開示請求書の形式上の不備を補うための補充、訂正をいい、請求書の文面からは公文書の特定が困難な場合に行う請求者からの聴き取りもそのひとつであると考えられる。本件開示請求については、1件の開示請求書において複数の請求内容が含まれており、それぞれの請求内容にその請求の背景等が仔細に記載されている。今回、実施機関が決定を行わなかったのは「〇〇は〇〇でないことは既に明白になっている。」、「〇〇が違法と判断できる情報を請求した。」という2つの項目であり、他の項目においてはその末尾が「公開請求致します。」、「〇〇が分かる一式を公開請求。」と記載されており、決定を行わなかった2つの項目と他の項目は明らかに区別して記載されている。
この点について異議申立人は、口頭で補足を行い、請求内容は伝わっているはずであると主張しているが、実施機関に確認したところ、そのような口頭での補足はなかったとのことであり、双方の意思疎通が十分に図られていないことが見受けられるが、いずれにしても条例は口頭での開示請求は認めておらず、原則的には開示請求の内容を実施機関に書面で伝える責務が開示請求者にはあると考える。したがって、当該請求事項について、他の請求の補足であると考え、決定を行わなかった実施機関の対応に特段の不備があったとまではいえない。
(5) 異議申立人のその他の主張について
異議申立人は開示された公文書の内容及び実施機関が作成した理由説明書の誤りについて主張しているが、当審査会は、条例に基づき実施機関の行った処分についての不服申立てに関し審査するものであって、実施機関が行った補助金支給事務の内容等についてまで審査するものではない。異議申立人はその他種々主張するが、いずれも審査会の判断を左右するものではない。(6)結論
よって、主文のとおり答申する。6 審査会の意見
審査会の本件異議申立てに対する判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
本件事案は、公文書の特定にあたって、異議申立人と実施機関の意思疎通が十分図られなかったと推測される。文書の特定について、実施機関側には、公文書の特定に必要な情報を請求者に対して提供する努力義務があり、請求者側の責務としては条例第6条第2項において「実施機関が公文書の特定を容易にできるよう必要な協力をしなければならない」と規定されている。
実施機関側については、今回の開示請求がなされる以前に何度も異議申立人と当該事業に関する協議を行っており、そこから異議申立人の請求の意図等を汲み取り、公文書の特定に反映させたとのことであるが、それでも異議申立人との意思疎通が十分に図れたとはいえないことは、異議申立書等から明らかである。今後は、請求内容が明瞭でない場合は、書面で開示請求者に補正を求める等、丁寧なやりとりが求められる。
一方、請求者側については、とりわけ、今回の事案は、1件の開示請求書の中に複数の請求項目が含まれ、それぞれにその背景や実施機関が行っている事業への異議申立人の主張が記載されており、そのことが文書の特定に齟齬を生じさせた一因となっていることは否定できない。今後は公文書の特定が適切に行えるよう、双方が協力するよう努められたい。
また、実施機関は、①対象公文書中の開示請求者の個人情報など、本来非開示とすべき情報を誤って開示していること、②決定通知書に記載されている不存在とした処分理由が正確ではないこと、③条例第22条では、諮問をした実施機関には異議申立人に諮問をした旨を通知することが義務付けられているが、今回、実施機関は異議申立人が指摘するまで諮問の通知を行わなかったことなど、不適正な事務処理が認められる。今後は同様のことがないよう情報公開制度の適正な運用に努められたい。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別表
No. | 請求内容 | 決定内容 |
---|---|---|
1 | 特定の森林組合が平成14年度から平成23年度に提出した特定地番における造林補助事業申請書及びその決裁書類。補助範囲が分かる資料を含む。 | 平成14年度の造林補助金申請書を対象公文書として特定。開示請求者以外の補助申請書類等の内容(個人名、申請地番、補助金額、森林資源内容)について、条例第7条第2号に該当するため、非開示とした。 |
異議申立人の所有している土地において、〇〇氏が自分の所有であるとして造林補助事業の申請をし、補助を受けたことが分かる文書。 | ||
2 | 造林補助申請地が補助が可能か否かを実施機関が判断する基準。 | 造林関係事業補助金交付要綱、要領を対象公文書として特定。 |
補助金を支給する際、実施機関が補助申請者及び森林組合に提出を求める書類が分かる文書。 | ||
3 | 異議申立人は平成15年に補助金の不正受給について実施機関に調査依頼を行なった。調査結果を示す情報。 | 不存在決定 |
4 | 不正受給が発覚した際の処理方法が確認できる資料。 | 不存在決定 |
5 | 異議申立人が所有している林班図においては、A小班はB小班に組み込まれていないが、実施機関からいただいた林班図では組み込まれている。組み込む必要が分かる情報。 | 不存在決定 |
6 | 異議申立人に支給されるはずの補助金を森林組合が流用したことが確認できる情報。 | 不存在決定 |
7 | 異議申立人は森林簿の訂正を実施機関に求めているが、いまだに応じてもらえていない。訂正ができない理由が確認できる情報。 | 不存在決定 |
8 | 〇〇町が〇〇氏へ売り渡したのは、○○小班でないことは明白である。 | 決定せず |
異議申立人は造林補助事業を森林組合に委託したが、森林組合は異議申立人の了解なしに一方的に放棄した。森林組合が補助事業を放棄することは違法と判断できる情報を請求した。 |
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
28. 1. 7 |
・諮問書の受理 |
28. 1.13 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
28. 1.27 | ・理由説明書の受理 |
28. 1.29 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
28. 7.19 |
・書面審理 (平成28年度第3回A部会) |
28. 8. 9 | ・審議
(平成28年度第4回A部会)
|
28. 9.13 |
・審議 (平成28年度第5回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
※ 委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。