三重県情報公開審査会 答申第458号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、「課題」の部分については開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成28年2月9日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「主要地方道四日市鈴鹿環状線道路改良工事について分かるすべての文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成28年2月17日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書及び本件非開示部分について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、主要地方道四日市鈴鹿環状線道路改良工事に係る文書であり、本件対象公文書において実施機関が非開示とした情報のうち異議申立ての対象となっている情報は、技術提案書における「課題」及び「対策」、部分下請負通知書に記載されている落札業者と下請業者との契約金額、支払条件(以下「本件非開示部分」という。)である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
技術提案を非開示としたことについて、単純な土木工事であり、特段の技術力を必要としない工事内容である。知財とされる専門的な技術提案として評価、特筆すべきでないから非開示は違法不当である。
下請負契約書を非開示としたことについて、建設業法、独占禁止法に規定される元請としての絶対的地位を悪用した不当な安値での下請負は違法であり、公契約に係る下請負は、積算額に見合う公正な価額での取引が求められるから、その総額、単価、内訳とも非開示は許されない。アベノミクスの効果検証にも反し、非開示とするのは違法不当である。また、公共工事の下請負契約については、単なる民間同士の契約ではなく、税金の流れを示す情報であり、開示すべきである。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
技術提案については、「公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針の一部変更について」(平成26年9月30日閣議決定)第2の4(1)ロで「発注者は、民間の技術提案自体が提案者の知的財産であることにかんがみ、提案内容に関する事項が他者に知られることのないようにすること、提案者の了承を得ることなく提案の一部のみを採用することのないようにすること等取扱いに留意するものとする。」と記載しており、技術提案における課題や対策などの情報について、企業の利益を守り、ひいては公共工事の質を高めるために、全面的に施工についての情報を守ることを求めている。
「対策」については、落札者の施工経験、施工実績等に基づく独自のノウハウに基づいて作成されたものであり、開示することにより、他の同種工事の入札において、競合他社等が当該部分の記載内容を模倣した技術提案書を作成・提出することが可能となり、競合他社等による対抗的な事業活動が行われる等、落札者の競争上の地位その他正当な利益を害するものと認められる。よって、条例第7条第3号に該当するため、非開示としている。
また、「課題」についても、これまでの施工経験を基に、課題を発見する能力を審査しており、無数にある課題の中から、どのレベルの課題を設定するかについては、事業者の独自のノウハウであることは明らかである。それを開示することは、事業者の正当な利益を害することになり、条例第7条第3号に該当するため、非開示としている。
ただし、「課題」に記載された内容のうち、県が示したテーマの内容をそのまま又は表現を変えて記載しているだけのものについては、独自のノウハウではないので一部公開することはやむを得ないと考える。それ以外の部分については、提案者の施工経験、施工実績等に基づく独自のノウハウから抽出された内容であり、非開示とする。
下請負契約書については、法人が他の法人といかなる金額及び条件で請け負うかどうかは、法人の営業に関する情報であり、これを開示することにより、当該法人の請負金額及び条件の前例となって今後の事業活動に支障をきたすなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。よって、当該非開示部分は、条例第7条第3号に該当するため、非開示としている。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(3)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件非開示部分は、技術提案書における「課題」及び「対策」、部分下請負通知書等に記載されている落札業者と下請業者との契約金額、支払条件である。
以下において本件非開示部分の本号該当性を検討する。
(ア)技術提案書における「課題」及び「対策」について
当審査会において本件対象公文書を見分したところ、本件非開示部分には、県が技術提案を求めた3つの項目に対して、当該法人がどのような点に留意して取り組むかを記載した「課題」、「課題」に対してどのような対策を講じるかを記載した「対策」の2点が含まれている。
まず「対策」の部分については、当該法人が設定した「課題」に対して、いかなる方法で充足し、その結果を証明するための資料として何を提出するのか、工事現場においてどのような配慮をすべきか等の当該法人の応札技術、具体的な技術提案が記載されており、当該部分の対策内容は、当該法人の施工経験、施工実績等に基づく独自のノウハウに当たるものということができる。したがって、当該部分を開示すると、他の同種工事の入札において、競合他社等が当該部分の記載内容を模倣した技術提案書を作成することが可能となり、競合他社等による対抗的な事業活動が行われる等、落札者の競争上の地位その他正当な利益を害するものと認められる。
次に、「課題」の部分について検討する。この点、実施機関は、無数にある課題の中からどのレベルの課題を設定するかは事業者の独自のノウハウであり、これを開示することによって当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると主張する。
しかし、非開示部分である「課題」について見分したところ、県が示したテーマの内容から導かれるごく一般的な内容又は抽象的な内容を記載したものにとどまり、「課題」の作成にあたり、施工経験等が反映されているとしても、本件非開示部分である「課題」そのものは、保護されるべき法人の知的財産あるいは独自のノウハウとまではいえない。つまり、「課題」を作成する過程に独自のノウハウがあることは否定し得ないが、ノウハウを駆使して作成された「課題」として記載された内容を開示したところで、法人がどのように「課題」を作成したかの過程が明らかになるわけではない。したがって、「課題」を開示しても、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
以上のことから、「対策」については、本号本文に該当し、同号ただし書イ、ロ又はハの情報には該当するとは認められないことから、非開示とすることが妥当であるが、「課題」については、開示すべきである。
(イ)落札業者と下請業者との契約金額、支払条件
法人が他の法人といかなる金額及び条件で請け負うかどうかは、法人の営業に関する情報であり、これを開示することにより、当該法人の請負金額及び条件の前例となって今後の事業活動に支障をきたすなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。よって当該非開示部分は、条例第7条第3号に該当し、同号ただし書の情報には該当するとは認められないことから、非開示が妥当である。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。7 審査会の意見
審査会の本件異議申立てに対する判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
公共工事の落札業者と下請業者との契約金額等について、審査会の判断は上記のとおりであるが、異議申立人の「単なる民間企業同士の契約ではなく、公共工事における税金の流れを示す重要な情報である」という主張を全面的に否定するものではない。
公共工事に関しては、一括下請が問題として指摘され、公共工事の透明性の確保と説明責任を果たすという観点からすれば、県の保有する情報を原則公開とした条例の趣旨を考慮すると、法人情報であってもできるだけ公にすることが望ましい。
そのためには、実施機関は、今回のような公文書開示請求がなされた際には、条例第17条に基づき、落札業者及び下請業者に対し、意見書を提出する機会を付与したうえで、開示の是非を判断するなどの方策を講じることが望まれる。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
28. 3.23 |
・諮問書の受理 |
28. 3.24 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
28. 4.15 | ・理由説明書の受理 |
28. 4.20 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
28. 5.17 |
・書面審理 (平成28年度第2回A部会) |
28. 7.19 |
・審議 (平成28年度第3回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
※委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。