三重県情報公開審査会 答申第454号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が、平成27年8月12日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った、「特定弁護士又は特定法律事務所との関係若しくは若手弁護士の雇用関係と業務の実績について分かる全ての文書、記録」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成27年8月26日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、「特定地区急傾斜地崩壊対策事業にかかる家事審判申立てについて(伺い)」である。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
不在者の氏名及び住所は、個人情報とはいえ、公共用地の取得対象者であれば、契約後開示されるべき情報であるから、開示請求人が追加の請求を行えば開示せざるを得ない情報である。
また、財産管理人とした際の公告(告示)手続きがないのは疑問である。分割分の保管責任と当事者の死亡が判明、又は死亡宣告がなされた際の保管財産の各相続人に対する配当等、利害関係人への告知義務等家事審判等の内容、財産管理人の義務と責任に対する告知等、附属・添付されるべき文書が存在しないのは不思議である。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定は妥当というものである。
当該開示請求に係る文書は、相続登記がされていない相続人に係る不在者財産管理人として特定弁護士を選任して、用地取得の手続きを進めることについての起案文書であり、特定弁護士が不在者財産管理人となるべき不在者の氏名、住所が記載されている。
個人の情報とは、個人の内心、身体、身分、地位その他個人に関する一切の事項についての事実、判断、評価のすべての情報が含まれるものであり、その者が不在者であるという事実は、保護すべき個人情報に該当することから、住所、氏名を非開示とした実施機関の判断は妥当である。
また、当該起案文書には、異議申立人が附属・添付されるべきとしている文書は、当初から添付されておらず、異議申立人が公開すべきとする文書は存在しない文書であることから、実施機関の判断は妥当である。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定める
こと等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。しかし、形式的に個人の識別が可能であれば全て非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
異議申立人は、「不在者」の氏名及び住所は、個人情報とはいえ、公共用地の取得対象者であれば、契約後開示されるべき情報であると主張する。他方で、実施機関は、個人の情報とは、個人の内心、身体、身分、地位その他個人に関する一切の事項についての事実、判断、評価のすべての情報が含まれるものであり、その者が「不在者」であるという事実は、保護すべき個人情報に該当すると主張する。
そこで、特定の者が「不在者」であるとの情報が、個人情報に該当するかどうかについて検討する。
まず、条例第7条第2号にいう個人情報とは、特定の個人を識別することができなくとも、公にすることによりなお個人の権利利益を害するおそれのある情報も含み、個人のプライバシー保護という同号の趣旨から、かかる情報は非開示になると解釈されている。
次に、「不在者」とは、従来の住所又は居所から離脱し、容易に復帰する見込みのない者をいい、場合によっては財産管理人が置かれる者である。
そうすると、「不在者」という情報は、個人の人格及びその者の財産管理権と密接に関係する情報であって、公にすることで当該個人の権利利益を害するおそれがあると認められる。
したがって、本件対象公文書においても「不在者」の氏名及び住所を非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(4)不存在の部分について
実施機関は、対象公文書には、異議申立人が附属・添付されるべきとしている財産管理人の義務と責任に対する告示等の文書は当初から添付されておらず、異議申立人が開示すべきとする文書は存在しないと主張する。この実施機関の説明に特段不自然不合理な点は認められないことから、当審査会としては、実施機関が当該文書を作成又は取得をしておらず、当該文書は存在しないものと判断する。(5)結論
よって、主文のとおり答申する。7 審査会の意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、審査会として次のとおり意見を述べる。
今回の異議申立てにおいて、異議申立人は、財産管理人とした際の公告・告示手続きに関する書類がないのは疑問であり、家事審判等の内容が存在しないのは不思議である等主張している。また、「特定弁護士…の実績について分かる全ての文書」として請求していることも併せると、異議申立人は、不在者財産管理人の選任申立てにとどまらず、その後の選任決定や土地売買契約書等、県が行った用地取得の一連の経過がわかる文書についても「実績」として求めていたものと考えることもできる。
しかしながら、実施機関は、不在者財産管理人の選任申立てに係る書類のみを特定して開示を実施していることから、異議申立人との間で意思疎通が十分図られていなかったことが認められる。
実施機関には、県の諸活動を県民に説明する責務を全うされるようにする義務があるのであり、今後、異議申立人とより一層の意思疎通を図られるよう努められたい。
なお、実施機関は、対象公文書のなかで本来非開示とすべき情報を誤って開示していることが認められるので、今後、同様のことがないよう情報公開制度の適正な運用に努められたい。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
27. 9.15 |
・諮問書の受理 |
27. 9.18 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
27.10.13 | ・理由説明書の受理 |
27.10.27 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
28. 3.15 |
・書面審理 (平成27年度第11回A部会) |
28. 4.12 |
・審議 (平成28年度第1回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
※委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。