三重県情報公開審査会 答申第456号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成27年7月21日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「四日市建設事務所が発注した国道改良工事で発生した転落死亡事故についてその原因、対応について分る全ての文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成27年7月30日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、転落死亡事故の発生を受けて請負業者が作成した工事事故報告書及び実施機関が作成した工事打合簿及び危機管理統括監報告である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見書における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
開示文書の特定協議を怠り、極めて小範囲に限定し、かつ部分開示にした不作為の違法性を問う。
本件事故の発生箇所は、本来の工事目的物ではなく受注JVの技術提案から設置された仮設物であり、その技術提案は必要ないと県が判断していれば、本件事故は発生しなかった。技術提案書を始め、施工計画書、下請負届、施工体制台帳、道路加工申請、丈量図等、この仮設構造物が合法的に設置されたものか、適正な指揮監督の元で当該被害者の作業が行われたかを判別するに必要な全ての文書の全面開示を求める。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
本件対象公文書の特定は、公文書開示請求書の記載内容から行っており、その判断に誤りはない。
また、本決定において、非開示とした理由は、以下のとおりである。
被災者の氏名、生年月日、年齢、職種、雇用年月日及び障害部位、被災者の治療先である医療機関の名称、住所及び電話番号、被災者の家族の氏名、住所及び電話番号は、個人に関する情報であり、開示することにより特定の個人が識別され、又は識別され得るため、条例第7条第2号(個人情報)により非開示とした。
請負業者の従業員の印影、関係機関の担当者名についても、条例第7条第2号(個人情報)により非開示とした。
請負業者の連絡先については、条例第7条第3号(法人情報)により非開示とした。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本件対象公文書の特定の妥当性について
公文書開示請求書、本件対象公文書を見分したところ、実施機関が本件対象公文書のみを特定したことに特段、不自然、不合理な点は認められない。よって本件対象公文書の特定は妥当であると認められる。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。しかし、形式的に個人の識別が可能であれば全て非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(4)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が、本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、被災者の氏名、生年月日、年齢、職種、雇用年月日及び障害部位、被災者の治療先である医療機関の名称、住所及び電話番号、被災者の家族の氏名、住所及び電話番号、請負業者の担当者の印影並びに関係機関の担当者名である。以下において実施機関が非開示とした情報の本号該当性を検討する。
ア 被災者の氏名、生年月日、年齢、職種、雇用年月日及び障害部位について
当該情報は、個人に関する情報であって直接あるいは他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報であり、本号本文に該当すると認められる。しかし、当該事故の被災者の氏名、年齢及び転落により背中などを強く打って死亡したことについては、既に新聞報道されており、現在何人も知り得る情報となっているため、本号ただし書イの情報すなわち「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当すると認められる。
したがって、当該情報のうち被災者の氏名、年齢及び障害部位にかかる部分を非開示とした実施機関の決定は、妥当ではない。
イ 被災者の治療先の医療機関の名称、住所及び電話番号について
実施機関は、治療先の医療機関を明らかにすることで被災者の特定につながるため非開示と判断したと主張しているが、医療従事者においても守秘義務が課せられるなど、医療機関の名称が明らかになったとしても、特定の個人が特定され得るおそれはないと認められる。したがって、当該情報を非開示とした実施機関の決定は、妥当ではない。
ウ 被災者の家族の氏名、住所及び電話番号について
当該情報は、個人に関する情報であって直接あるいは他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報であり、本号本文に該当すると認められる。また、本号ただし書イ及びロの情報のいずれにも該当するとも認められない。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
エ 請負業者の担当者の印影について
当該情報は、個人に関する情報であって直接あるいは他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報であり、本号本文に該当すると認められる。また、本号ただし書イ及びロの情報のいずれにも該当するとも認められない。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
オ 関係機関の担当者名について
当該情報は、当該事故に関係する労働基準監督署及び警察署の職員名であり、公務員等の職務に関する情報であると認められる。したがって、当該情報を非開示とした実施機関の決定は、妥当ではない。
(5)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(6)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が、本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、請負業者の連絡先である。当該情報を見分すると、事業所の電話番号と担当者の携帯電話番号が連絡先として記載されていることが認められる。このうち事業所の電話番号については、これを開示されても、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
一方、担当者の携帯電話番号については、同条第2号の個人に関する情報であり、非開示が妥当であると考える。
したがって、請負業者の連絡先のうち事業所の電話番号については、開示すべきである。
(7)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
27. 8.10 |
・諮問書の受理 |
27. 8.11 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
27.12.17 | ・理由説明書の受理 |
27.12.24 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
28. 3.18 |
・書面審理 (平成27年度第10回B部会) |
28. 4.22 |
・審議 (平成28年度第1回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
※委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。