三重県情報公開審査会 答申第457号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成27年10月15日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った、特定法人に係る土砂採取許可に関する指導に係る文書についての開示請求に対し、平成27年10月29日付けで三重県知事(以下「実施機関」という。)が行った不存在決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるものである。
3 異議申立ての理由
異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
県民から行政執行における不適正行為の事実を告げられてから重い腰を上げるという現状を正していくためにも本件のような開示請求を有効たらしめるには、たとえ開示請求時点で不適正行為の現認行為、復命書等が作成されず、不存在であったとしても、通告を受けた時点から速やかに対処すれば現認行為、復命書、法令に基づく行政指導等が行われるべきであり、公務員としての執務執行の適正化が保たれるものである。
今回のケースでも10月15日の請求受理、10月21日に現地確認(復命書作成)となっており、不存在決定(10月29日)であるから、本件不存在決定は時系列的にも矛盾しており、文書の存在を請求時点に限定することは不当である。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定は妥当というものである。
請求日時点では請求内容に関する文書の収受・作成がなかったため、公文書の不存在決定を行った。請求日より後に作成された文書については改めて請求があれば開示する旨を伝えた。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本決定の妥当性について
実施機関は、異議申立人が請求した公文書については本決定時点では保有していたが、開示請求時点では保有していなかったと説明する。そこで、開示請求時点より後に作成した公文書を本決定の対象公文書として特定しなかった実施機関の判断の妥当性について、以下検討を行う。条例は、開示請求の対象となる公文書が請求の時点で保有するものなのか、あるいは決定の時点で保有するものなのかについて、明文で定めているわけではない。
この点、条例第2条第2項において、公文書を「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」と定義し、同第5条において、「何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、当該実施機関の保有する公文書の開示を請求することができる」と定め、同第7条では、「実施機関は、開示請求があったときは、(中略)開示請求者に対し、当該公文書を開示しなければならない」と定めている。
これらの規定を合理的に解釈すれば、条例は、現時点で保有しているものを「公文書」と定めた上で、開示請求の対象となるのは請求の時点で実施機関が保有する公文書であり、実施機関はその請求の時点で保有する公文書を開示する、すなわち、請求時点で実施機関が保有する公文書をあるがままに開示することを想定しており、請求に応じて、実施機関に文書の作成義務を負わせるものではないと解される。
この点、異議申立人は、本決定時点において請求の対象となる公文書を保有しているのであるから、対象公文書に含めるべきであると主張している。
確かに、請求時点で将来的に作成されることが合理的に推察されるのであれば、決定時点に存在すると思われる公文書も例外的に特定に加えるべきであるという考えは、開示請求者の利便性の確保という観点からも理解できなくはない。
しかしながら、請求時点より後に保有することとなった公文書も対象とすることは、開示決定の期限までに公文書を作成又は取得する都度、当該公文書の開示の可否の判断や第三者照会等の手続等を要することになり、結果として決定を遅延させるおそれを生じさせるなど、運用上の安定性を欠くものといわざるを得ない。
したがって、開示請求がなされた時点を一つの区切りとして、その時点で存在する公文書を対象とするという運用は、条例の趣旨を逸脱するものではなく、当該運用に基づき実施機関が行った本決定は、妥当である。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。6 意見
審査会の本件異議申立てに対する判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
今回、異議申立人が対象公文書に含めるべきであると主張する文書とは、異議申立人が通報した事案に係る復命書等の対応記録である。このことについて、実施機関は不存在決定を行う際、異議申立人に対して、再度、同様の公文書開示請求を行えば、異議申立人が求める公文書の開示を行うと説明したとのことである。
しかし、一般的に自身が通報した事案について、その後、実施機関がどのように対応したかを知ろうとすることは自然なことであり、また、実施機関には通報者に対して説明を行う責任がある。今後は、必要に応じて公文書開示請求を待たずとも積極的に情報提供を行うなど、説明責任を果たすよう努められたい。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
27.12.22 |
・諮問書の受理 |
28. 1. 5 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
28. 1.25 | ・理由説明書の受理 |
28. 1.28 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
28. 4.12 |
・書面審理 (平成28年度第1回A部会) |
28. 5.17 |
・審議 (平成28年度第2回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
※委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。