三重県情報公開審査会 答申第449号
答申
1 審査会の結論
公益財団法人三重県建設技術センターは本件異議申出の対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申出の趣旨
異議申出の趣旨は、開示請求者が平成27年7月23日付けで公益財団法人三重県建設技術センター情報公開実施要綱(以下「要綱」という。)に基づき行った「特定工事の発注支援に係る業務委託等に関する全ての文書、情報」についての開示請求に対し、公益財団法人三重県建設技術センター理事長(以下「センター」という。)が平成27年8月6日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書及び本件非開示部分について
本件異議申出の対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、特定法人からセンターへ発注があった特定工事の発注支援に係る業務委託の契約書類及び成果品(控)であり、センターが非開示とした情報は、個人の生年月日、住所、学歴、職歴、賞罰、本籍地(以下「本件非開示部分a」という。)及び業務委託に関する内容(以下「本件非開示部分b」という。)、成果品(控)の内容(以下「本件非開示部分c」という。)である。
4 異議申出の理由
異議申出人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
センターは三重県をはじめとした県下の地方公共団体の出資を受け、透明性と説明責任を有している。また、公共性公益性の高い本件委託業務が、特殊な工事に関する発注支援業務であるからといって請負契約の根拠となる本件委託契約がその内容のほぼ全部が非公開とされることは許されない。
5 センターの説明要旨
センターの主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
個人の生年月日、住所、学歴、職歴、賞罰、本籍地については個人に関する情報であるため、要綱第7条第2項に該当する。
当該契約については、特定法人にかかるものであり、公にすることにより、法人の競争上の地位その他正当な利益を害する恐れがあると思われたため、当該法人に対して第三者照会を行ったところ、「入札業務に係る案件であり、情報を開示されることにより、入札、契約等に係る事務に関し、当該法人の財産上の利益を不当に害するおそれ、その他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある」との意見書の提出があった。
また、センターと当該法人は当該業務において守秘義務に関する条項を含んだ契約の締結を行っており、当該法人からもこの契約に基づく守秘義務について厳守するよう何度も要請を受けている。このことから、当該契約や要請による守秘義務を守らず顧客情報の開示を行うことは、当該法人からの信頼を失い、センターの今後の業務活動に多大な影響を受けることが予想されるとともに、本件において当該法人から契約違反を理由とする損害賠償請求を受ける可能性があるため。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
要綱第1条によると、本要綱は、三重県情報公開条例(平成11年10月15日三重県条例第42号)第47条第1項の規定に基づき、センターの文書の開示に関し必要な事項を定めること等により、センターの保有する情報の一層の公開を図り、もってセンターの諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、公正なセンター運営の推進に資することを目的としているものである。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、要綱を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)要綱第7条第2項(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、要綱第7条第2項は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であれば全て非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、要綱は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3) 要綱第7条第2項(個人情報)の該当性について
本件非開示部分aについては、センター職員に関する情報ではあるが、いずれも私事に関する側面が強い情報であって、職務の遂行に係る情報とはいえない。したがって、本項本文に該当し、本項ただし書のいずれにも該当せず、当該情報を非開示としたセンターの判断は妥当である。
(4)要綱第7条第3項(法人情報)の意義について
本項は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、特定法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている対象文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(5)要綱第7条第3項(法人情報)の該当性について
(ア)本件非開示部分bについて
本件非開示部分bは当該委託契約の内容であり、その内容は「契約金額」、「契約日」、「履行期間」等の「当該委託契約に係る情報」、「委託業務名(工事名)」、「工事場所」、「工事内容」等の「発注支援を行う工事に係る情報」が含まれる。これらの情報について検討したところ、公になると、当該法人が発注を行う工事の概要、工事場所等が明らかになるが、入札に影響があるものは確認できなかった。したがって、これらの情報を非開示としたセンターの判断は妥当ではない。
一方、これらの点について、センターは当該委託業務の契約第17条で「委託業務の遂行上、知り得た機密を第三者に開示または漏洩してはならない。」と定めており、当該法人からもその旨の申し出があったため、非開示としたと主張している。しかし、ここで、「委託業務の遂行上、知り得た機密」とは、契約に定める委託業務を遂行する上で知り得た機密情報を意味すると考えられ、本件非開示部分bは機密情報には当たらないと考える。したがって、このセンターの主張を採用することはできない。
(イ)本件非開示部分cについて
本件非開示部分cはセンターが委託契約に基づき作成した積算書等の成果品(控)であり、当該法人はこの積算書等を参考にして入札の業務を行うとのことである。当審査会において本件対象公文書を見分したところ、当該工事の設計価格及びその根拠が記載されており、これらの情報が公になると、入札価格が推測され、入札業務に支障を及ぼすものと判断できる。したがって、本件非開示部分cを公開すると特定法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため、非開示としたセンターの判断は妥当である。(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
27. 8.28 |
・諮問書の受理 |
27. 9. 7 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
27. 9.28 | ・理由説明書の受理 |
27.10.23 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
27.12.15 |
・書面審理 (平成27年度第8回A部会) |
28. 1.27 | ・審議
(平成27年度第9回A部会)
|
28. 2.24 |
・審議 (平成27年度第10回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
※委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。