三重県情報公開審査会 答申第448号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が、三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成22年度、23年度の特定法人に関する森林整備加速化林業再生基金事業協定書及び特定地区木材協同組合関係の補助金、申請者の名簿一覧」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、開示請求者に対して行った公文書部分開示決定(平成27年7月6日付け。以下「本決定」という。)について取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立て及び本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、「平成22年度、23年度の特定法人に関する森林整備加速化・林業再生基金事業の協定書」である。そして、本件対象公文書において実施機関が非開示とした情報は、「協定の相手先」及び「協定書の原木取引量と間伐材取引量」(以下、「協定書の原木等取引量」とする。)である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
原木の安定取引に関する協定書のうち非開示の部分「協定の相手先」「原木取引量」は、法人情報のうち当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれはないので、開示すべきである。
平成23年度森林整備加速化・林業再生基金事業の補助金の申請を受ける条件は、県産材(地域材)で前年生産量実績の70%仕入すること、素材原木は並材であること等である。私も補助金申請をしに三重県農林水産部へ行ったところ、県産材で、並材が前年実績の70~80%必要ということで、受け付けてくれなかった。
特定法人は、県産材でなく、県外産のものを主体として仕入れていると思われる。それにも関わらず、補助金を得ているのは違反と思われる。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
森林整備加速化・林業再生基金事業の協定書については、森林整備加速化林業再生基金事業実施要領の運用において、事業主体が「地域材を利用する法人」である場合には、「木材安定取得協定等の締結に係る間伐材等利用量は事業計画の概ね70%を超えるものとする。」という条件を満たすこととされていることから、事業主体から提出されたものである。
協定書に記載されている原木取引量、協定の相手先は、法人の内部に関する情報であり、重要な営業情報である。このため、開示することにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害する恐れがあると判断し、原木取引量、協定の相手先を非開示とした。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書において実施機関が非開示とした情報は、森林整備加速化・林業再生基金事業の協定書の「協定の相手先」及び「原木等取引量」である。
そこで、これらの情報が法人情報に該当するかどうかについて検討する。
ア 「協定の相手先」の情報について
まず、「協定の相手先」の情報についてであるが、本件対象公文書において、この「協定の相手先」の情報は、法人の「所在地」と「名称」で構成されている。
このうち「名称」については、企業の取引相手先の情報であり、法人の事業活動に関する情報であるから、これが開示されれば、当該法人の取引先や経営方針等が競争相手に知られることになるため、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するといえる。
他方で、「所在地」について、県、市のどの範囲から、相手先の法人の特定が可
能かを実施機関に聴取したところ、県からでは特定は困難であるが、市まで明らかになれば特定されるおそれがあるとのことであった。このことから、当審査会としては、「所在地」のうち「県名」については、これが開示されても協定の相手先は特定できないものと判断する。
したがって、「協定の相手先」の情報のうち、「所在地」の「県名」については、開示すべきである。
イ 「協定書の原木等取引量」の情報について
次に、「協定書の原木等取引量」について、当該情報は法人の事業活動に関する情報ではあるものの、取引の相手先が不明であるとするなら、これを開示しても、当該法人がいかなる相手と当該取引量を取引しているかは明らかではない情報となる。また、「原木等取引量」自体もあくまで協定に基づく取引量であって、当該法人の事業活動の全ての取引量が明らかになるものでもない。これらのことから、これを開示しても当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとはいえないと判断する。
したがって、「原木等取引量」については開示すべきである。
ウ 結論
したがって、「協定の相手方」のうち、「名称」及び「県名」を除く「所在地」の部分は非開示が妥当であるが、「県名」と「原木等取引量」については開示すべきであると考える。
(4)異議申立人のその他の主張について
また、異議申立人は、その他種々主張するが、いずれも審査会の判断を左右するものではない。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。本件事案においては、県事業の実施について、異議申立人と実施機関との間で意思疎通が十分図られていないことが認められる。事業の実施にあたっては、その内容について、正確かつ分かりやすく伝えるよう心がけ、県民への説明責任を全うされるよう努められたい。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
27. 8.26 |
・諮問書の受理 |
27. 8.31 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
27. 9. 7 | ・理由説明書の受理 |
27. 9.14 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
27. 9.19 | ・意見書の受理 |
27.10.27 | ・意見書(写し)の送付 |
27.12.15 |
・書面審理 (平成27年度第8回A部会) |
28. 1.27 |
・審議 (平成27年度第9回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
※委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。