三重県情報公開審査会 答申第444号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の工事にかかる契約及び内容について分かる全ての文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる「技術提案書」等を対象公文書として特定し、開示請求者に対して行った公文書部分開示決定(平成27年6月24日付け。以下「本決定」という。)について、条例第17条第1項に規定する第三者である異議申立人が取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書及び本件非開示部分について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、特定工事にかかる仮建設工事請負契約書における技術提案書である。本件対象公文書において、実施機関が開示が妥当であると判断した箇所は「課題」の一部の記載内容であり、そのすべてについて非開示とすることを求めて異議申立てがなされたものである。
なお、本件対象公文書については、当初、実施機関は、「課題」及び「課題」に対してどのような対策を講じるかを記載した「対策」のすべてを非開示とした決定(平成26年11月12日付け)に対し、開示請求人から異議申立てがなされ、当審査会において、調査・審議した結果、「対策」の部分は非開示が妥当であるが、「課題」の部分はすべて開示が妥当であると判断した(平成27年4月22日付け答申)ものである。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
技術提案書の「課題」のうち、特殊な海上工事の中から工事を受注するために過去の経験及び知識を持ち合わせた技術者が集まり、時間をかけて多数の課題の中から抽出した「課題」を開示としたこと、また、これにより「課題」の前後の文章が推察されることによって「対策」も推察されることが考えられる。よって、非開示部分は当然ながら、今回開示された部分について、落札者の知的財産を侵害することにあたらないとした判断は不当である。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
総合評価方式における技術提案資料の内容については、開示することで法人の正当な利益を害する情報もあるが、「課題」に記載された内容のうち、県が示したテーマの内容をそのまま又は表現を変えて記載しているだけのものや、三重県公共工事共通仕様書に記載されている内容については、独自のノウハウではないので、一部開示が妥当である。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(3)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書は、特定工事にかかる仮建設工事請負契約書における技術提案書であり、どのような点に留意して工事に取り組むかを記載した「課題」の記述の一部を開示することで当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるかについて検討する。
異議申立人の主張によると、「課題」を作成するにあたり、まずは県から与えられたテーマから複数の案を捻出し、次にその中から実際に提出するものを抽出するといった作業を経ており、言葉の表現方法にも創意工夫を凝らしているとのことである。また、開示する箇所から、当該法人独自のノウハウである「対策」の記載内容までも推察されてしまうと主張する。
しかし、今回、開示することとなった箇所について見分したところ、県が示したテーマの内容をそのまま、あるいは表現を変えて記載しているもの又は三重県公共工事共通仕様書に記載されている内容又はごく一般的な内容を記載したものであり、「課題」の作成にあたり、施工経験等が反映されているとしても、本件開示部分そのものは法人の保護されるべき知的財産あるいはノウハウであるとはいえず、また「対策」の部分は全部非開示であり、一般的に「課題」から「対策」が明白になるとは考えられない。
したがって、本件異議申立ての対象となった箇所を開示することにより当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず、開示が妥当であるとした実施機関の判断は妥当である。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
_別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
27. 8.10 |
・諮問書の受理 |
27. 8.12 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
27. 9. 3 | ・理由説明書の受理 |
27. 9.15 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
27.10.27 |
・書面審理 (平成27年度第6回A部会) |
27.12.15 |
・審議 (平成27年度第8回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
※委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。