三重県情報公開審査会 答申第442号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成27年7月16日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「尾鷲市南浦の特定事業者の採石事業許可申請に係る行政訴訟について分る全ての文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が公文書開示決定等期間延長の後、平成27年8月11日付けで行った公文書開示決定(以下「本決定」という。)について、開示請求時点より後に作成又は取得した公文書の開示を求めるというものである。
3 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
開示請求から14日間の開示決定時期の間に、本件控訴審の判決に対する上告手続の法定期日が経過し、開示決定等期間延長したにも関わらず、開示の範囲を請求日時点に限定した事は、不作為の違法に当たる。
実施機関は、開示請求に対応する文書の特定を誤っており、決定日までに取得又は作成した公文書についても特定した上で開示すべきである。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
開示請求の対象となるのは請求の時点で実施機関が保有している公文書と解されている。これに従い、開示請求日である平成27年7月16日現在で保有する公文書を特定し、開示決定したのであるから、不作為の違法には当たらない。異議申立人は、請求から開示決定までに開示対象となる訴訟の上告期間が経過したことなどを主張するが、開示請求時点で当該上告に関する公文書を実施機関が保有していなかったことに変わりはない。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本決定の妥当性について
本決定で実施機関が特定した公文書は、実施機関が開示請求時点で保有していた第1審、第2審における「訟務記録」等の公文書である。そして、実施機関の陳述により、開示請求を受けてから開示決定を行うまでの期間内に、第2審判決を受け上告手続を行い、新たな公文書を作成していることが確認できた。
そこで、開示請求時点より後に作成した公文書を本決定の対象公文書として特定しなかった実施機関の判断の妥当性について、以下検討を行う。
条例は、特定の対象となる公文書が請求の時点で存在するものなのか、あるいは決定の時点で存在するものなのかについて、明文で定めているわけではない。
しかし、条例第2条第2項において、公文書を「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」と定義し、同第5条において、「何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、当該実施機関の保有する公文書の開示を請求することができる」と定め、同第7条では、「実施機関は、開示請求があったときは、・・・開示請求者に対し、当該公文書を開示しなければならない」と定めている。
これらの規定を合理的に解釈すれば、条例は、現時点で保有しているものを「公文書」と定めた上で、開示請求の対象となるのは請求の時点で実施機関が保有する公文書であり、実施機関はその請求の時点で保有する公文書を開示する、すなわち、請求時点で実施機関が保有する公文書をあるがままに開示することを想定しているものと解される。
この点、異議申立人は、第2審判決に対する上告期限が14日間と定められており、開示決定期限までに実施機関は上告手続にかかる公文書を作成しているので、対象公文書に含めるべきであると主張している。
確かに、請求時点に作成が予定されるのであれば、決定時点に存在すると思われる公文書も例外的に特定に加えるべきであるという考えは、開示請求者の利便性の確保という観点からも理解できなくはない。
しかしながら、請求時点より後に保有することとなった公文書も特定することは、開示決定の期限までに公文書を作成又は取得する都度、当該公文書の開示の可否の判断や第三者照会等の手続等を要することになり、結果として決定を遅延させるおそれを生じさせるなど、運用上の安定性を欠くものと言わざるを得ない。
したがって、開示請求がなされた時点を一つの区切りとして、その時点で存在する公文書を対象とするという運用は、条例の趣旨を逸脱するものではなく、当該運用に基づき実施機関が行った本決定は、妥当である。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
_別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
27. 8.24 |
・諮問書の受理 |
27. 8.26 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
27. 9. 2 | ・理由説明書の受理 |
27. 9. 7 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
27.11.13 |
・書面審理 (平成27年度第6回B部会) |
27.12.11 |
・審議 (平成27年度第7回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
※委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。