三重県情報公開審査会 答申第438号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成27年4月17日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った伊勢建設事務所建築開発室における行政指導に関する全ての文書(平成26年5月~6月分)についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、平成27年4月30日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(以下「建設リサイクル法」という。)に関する通報・現場メモ」及び「建築基準法に関する通報・現場メモ」(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
建設事務所で何人も閲覧できる書類が含まれており、法人名等を明らかにしても、その法人が競争上の地位を害されることはない。
法人は、作業時に散水を行わず周辺住民に健康被害を与えたり、境界壁を破壊され、敷地を侵されることで被害が出て財産上の損失を被るなどしているため、条例第7条第2号ロ、第3号イ、ロに該当し、開示すべきである。
建設リサイクル法に基づく行政指導を三重県が行っているということは、指導先が刑法犯であることを意味しているため、そのような法人の名前等を非開示にしておくことは妥当ではない。
平成26年8月15日に本件事案について開示請求を行った際には、届出書、始末書が開示されているが、今回の開示にはそれらが含まれておらず、公文書の特定を誤っている。また、指導の顛末を書いたメモ、現場の写真等については、平成26年8月15日開示請求時には開示がされていない文書であるが、今回開示がされており、公文書の改ざんが疑われる。
開示された建築計画概要書の項目が「3.設計者」から「5.工事監理者」へ飛んでおり、もう1枚文書があるはずである。
建築基準法令による処分等の概要書の建築確認の項目について、文書の標題にある法人が建築確認を行ったと推測され、これが明らかになったとしても法人の不利益にはならず、非開示としたのは不当である。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
行政指導に関する公文書は、存否そのものが条例第7条第2号(個人情報)及び第3号(法人情報)に該当するため、案件を特定して開示請求された際は、条例第11条(存否応答拒否)として取り扱うこととなる。
今回の請求は、一定期間における文書の請求であり個別文書を特定したものではないため、案件が特定される可能性のある部分を条例第7条第2号及び第3号に基づき非開示とし、部分開示決定を行った。
当該文書は、建設リサイクル法に基づく届出、看板の設置及び建築基準法に基づく看板の設置がなされていないことによる指導内容であり、「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため」又は「違法又は不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある影響から県民等の生活又は環境を保護するため」といった公にすることが必要であるものとは考えられないため、条例第7条第2号ロ、第3号イ、ロに該当しない。行政指導の相手が、刑法犯であるか否かを持って開示内容を変えるものでもない。
平成26年8月15日の開示請求、開示決定した文書は「届出と同等の文書」であるが、今回開示した文書は「行政指導した経緯を記録した文書」と前回と別の文書であり、特定を誤ったものではない。
「建築計画概要書」は建設事務所で何人も閲覧できる書類であるが、指導の際に必要な部分のみコピーをとり、通報・現場メモの参考資料として添付しているものである。条例第7条第2号及び第3号に該当する部分については非開示である。
これらのことから、部分開示としたものである。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本件対象公文書における非開示部分について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「①建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)に関する通報・現場メモ(平成26年5月30日付け)」及び「②建築基準法に関する通報・現場メモ(平成26年6月16日付け)」であり、実施機関はこれらの対象公文書について、別表1の「実施機関が非開示とした部分」欄に示す部分を同表の「実施機関が非開示とした理由」により非開示とする部分開示決定を行っている。
そこで、以下において、これらの非開示部分について、当審査会において見分した結果を踏まえ、非開示情報該当性を検討する。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であれば全て非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(4) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
ア (a)に関する情報
当該情報は、看板の設置がないまま解体工事を行っていることについて、通報した者の姓及び電話番号が含まれるが、これらは特定の個人が識別され得る情報であることは明らかである。
したがって、当該情報は、本条本号の非開示情報に該当し、また、本号ただし書のいずれの情報にも該当しないと判断され、当該情報を非開示とした実施機関の判断は妥当である。
イ (c)に関する情報
当該情報は、建築基準法に基づく工事現場の看板設置に係る指導を行った文書である。このうち、建設工事場所(目標)、発注者(住所・氏名)、当該地の建築計画概要書のうち、1.建築主、7.備考の部分、第二面、第三面の全て及び確認済証番号については、これを明らかにすることで案件が特定され、特定の個人が識別され得る情報であり、当該情報は本条本号に該当する。
しかし、現場写真の資料については、そのすべてを非開示としているが、写真自体はこれを開示しても、現地を特定される恐れはないと認められる。よって現場写真の資料の写真部分は開示されるべきである。
(5)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務付けられることになる。
(6)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
ア (b)に関する情報
当該情報は、建設リサイクル法第10条に基づく対象建設工事等の届出義務違反及び同法第33条に基づく看板設置義務違反に係る、県からの行政指導を受けたということが、明らかになる情報である。当該法人は、行政指導後直ちに届出及び看板設置を行っていることから、当審査会としては、行政指導を受けたことが公になったとしても、当該法人の社会的評価が損なわれるなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとまではいえないと判断する。
なお、当該建設工事場所に関する情報(通報・現場メモの建設工事場所(目標)、発注者(住所・氏名)の部分、建設リサイクル現地検査書の(9)工事の場所、(11)道路等周辺の状況の部分、地図)は、同条第2号の個人に関する情報でもあり、非開示が妥当であると考える。したがって、建設工事場所に関する情報を除いて、開示すべきである。
イ (d)に関する情報
当該情報は、建築基準法第89条に基づく工事現場の看板設置義務違反に係る、県からの行政指導を受けたということが、明らかになる情報である。当該法人は、行政指導後直ちに看板設置を行っていることから、当審査会としては、行政指導を受けたことが公になったとしても、当該法人の社会的評価が損なわれるなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとまではいえないと判断する。したがって、当該情報は本条本号には該当せず、開示すべきである。なお、建築基準法令による処分等の概要書の確認済証番号については、前述(4)のイのとおり、非開示が妥当である。
(7)異議申立人のその他の主張について
異議申立人は、その他種々主張するが、いずれも当審査会の判断を左右するものではない。
(8)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
本件事案において、異議申立人は、「当該開示請求を行えば、法人名等開示がされると実施機関から説明を受けたため開示請求を行ったのに関わらず、非開示とされた。」と主張し、実施機関との間で意思疎通が十分図られていなかったことが認められる。
実施機関には、県の諸活動を県民に説明する責務を全うされるようにする義務があり、今後、異議申立人とより一層の意思疎通を図られるよう努められたい。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別表1
対象公文書 | 開示しない部分 | 開示しない理由 | 区分 |
---|---|---|---|
①建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)に関する通報・現場メモ |
通報者 | 条例第7条第2号(個人情報)に該当 | (a) |
建設工事場所(目標)、発注者(住所・氏名)、受注者の住所、事業者名、氏名及び電話番号、現地責任者又は現場で協議した者、住宅地図、写真、建設業許可システム情報のうち許可番号、商号名称、代表者氏名、所在地、電話番号、資本金額、整理区分、決裁年月日、許可年月日、申請年月日、登録年月日、解体工事業の登録情報 | 条例第7条第3号(法人情報)に該当 | (b) | |
②建築基準法に関する通報・現場メモ | 建設工事場所(目標)、発注者(住所・氏名)、写真、当該地の建築計画概要書 | 条例第7条第2号(個人情報)に該当 | (c) |
設計者、工事監理者及び施行者の住所・氏名及び電話番号、当該地の建築計画概要書、建築基準法令による処分等の概要書 | 条例第7条第3号(法人情報)に該当 | (d) |
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
27. 7. 9 |
・諮問書の受理 |
27. 7.10 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
27. 7.31 | ・理由説明書の受理 |
27. 8. 3 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
27. 9.24 |
・書面審理 (平成27年度第4回B部会) |
27.10.23 | ・審議
(平成27年度第5回B部会) |
27.11.13 |
・審議 (平成27年度第6回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
※委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。