三重県情報公開審査会 答申第428号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成27年3月5日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「鈴鹿地域総合防災事務所環境室職員全員の1年間の勤務状況及び出張(管内含む)等について分る全ての情報又は文書(平成26年4月1日~平成27年3月18日)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成27年3月31日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、職員の勤務実績表及び旅行命令一覧表である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
今回の開示請求は、県行政が業務を適正に遂行しているかどうかを検証するために行ったものである。
公務員の勤務実態については法の下での公平、公正を保持する基本から秘密にすることは限定されるべきであり、法に基づいた勤務実態・職務執行が求められるから、全面開示が必要である。
休暇の情報等についても、年次休暇や病気休暇、忌引き等は法律や条例で定められており、それらが適用されたということは開示すべきであり、非公開の理由にはならない。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
勤務実績表の休暇等の情報について、三重県情報公開審査会答申第342号では、休暇簿に記載された職務専念義務の免除を除く休暇の種類は、条例第7条第2号に規定する公務員等の職務に関する情報のうち公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある情報に該当するため、非開示とすることが妥当とされている。今回の異議申立事案における勤務実績表に記載された「勤務日数等にかかる累計表」、「年次休暇(1~12月)」および「その他休暇等にかかる累計表」は、特定の職員の休暇の取得状況を示す情報が記載されている。また、「休暇等」の欄には「年休」、「特休」、「職免」などの休暇の種別が記載され、特定の職員の休暇の取得状況を示す情報である。これらの情報のうち、年次休暇、病気休暇、介護休暇、組合休暇、育児・部分休業、研修、福利厚生休(教育)にかかる特定の職員の休暇の取得状況は、公務とは直接関わりのない事柄で私事に関する情報である。
旅行命令一覧表の車番について、旅費、食糧費等に関する開示基準規則(平成8年10月1日三重県規則第57号)第3条第1号イの規定により、自家用車の登録番号は、開示しないことができると規定されている。今回の異議申立事案における旅行命令一覧表に記載されている車番は、職員の私物の自家用車の車番であり、公務とは直接関わりのない事柄で私事に関する情報である。
また、どちらの情報も、法令等又は慣行により公にされ又は公にすることが予定されている情報ではなく、かつ、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するために公にすることが必要であると認められない。このことから、条例第7条第2号に規定する公務員等の職務に関する情報のうち公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある情報に該当するため、非開示とした。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であれば全て非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
(a)公務員の職務情報の原則開示及びその例外的非開示
本号は、「公務員の職務に関する情報」を個人情報から除外し、原則開示することとしている。これは、公務員の職務に関する情報は、そもそも公務員の職務の性格上公益性が強いことから「個人に関する情報」には含まないこととし、当該情報を原則開示することとしたものであると解される。
しかし、公務員の職務に関する情報であっても、例外的に「公にすることにより、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」については非開示とすることができるとされている。これは、公務員の職務に関する情報であっても、同時に公務員の私事に関する情報の側面もあり、同側面の方が、明らかに大きいような場合(特定公務員の「給与額」「勤務成績」「処分歴」等)がこれに該当すると解される。
(b)公務員の勤務状況等に関する情報について
県の個々の職員の出勤に関する情報それ自体は、当該職員が職務に従事したことを示すものであり、これが当該職員の私事に関する情報を含まない職務に関する情報であることは明らかである。他方、個々の職員の取得した休暇の種別、その原因ないしは内容や取得状況を示す情報は、職務とは直接関わりのない事柄であって、私事に関する情報ということができるが、職務に従事しなかったことそれ自体は、やはり職務に関する情報としての面があるというべきである。
そうすると、出勤に関する情報を開示することが、その反面として、それ以外の時間に職務に従事しなかったこと自体を明らかにするとしても、職務に従事しなかった理由まで直ちに明らかになるわけではないから、私事に関する情報を開示することにはならないと考えられる。したがって、個々の職員の出勤に関する情報(「休暇等を取得し、職務に従事していない」という情報も含む)については職務に関する情報として本条本号に該当せず、取得した休暇の種別については私事に関する情報であるとして本条本号に該当すると考えられる。以下、このような考え方の下で、条例第7条第2号該当性について検討する。
(c)常勤職員の勤務実績表について
当該対象公文書において非開示と判断されたのは、二段目にある年次休暇の月計及び累計、その他の休暇等の月計及び累計、年次休暇の繰越日数、繰越日数と付与日数の合計、取得日数、残日数、三段目にある「病気休暇」、「特別休暇」、「介護休暇」、「組合休暇」、「育児・部分休業」、「研修」、「福利厚生休(教育)」の月計及び累計、四段目にある「当月の休暇を取得した日の取得した休暇の種別」である。なお、二段目にある「その他の休暇等の月計及び累計」については、三段目にあるそれぞれの休暇の合計となっている。また、当該公文書の三段目には「職専免」及び「欠勤」の累計も表示されているが、それらについて実施機関は職務に関する情報であるとして開示をしている。
実施機関は、これらの非開示とした情報について、条例第7条第2号に規定するところの個人に関する情報に該当するものであり、公務員の職務に関する情報に含まれず、公にすることにより個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとして非開示としたと主張する。
二段目の非開示部分については、当月及び当年の年次休暇及びその他の休暇等の取得状況を示す情報である。(b)で検討したとおり、休暇等を取得し、職務に従事していないという情報は、その反面として職務に関する情報としての面があるといえる。また、これらを公にしたとしても、休暇等の取得理由が直ちに明らかになるわけではないことから、私事に関する情報を開示することにはならないと考えられる。したがって、本条本号に該当せず、この部分を非開示とした実施機関の判断は妥当ではない。
三段目の非開示部分については、取得した休暇の種別が識別できる情報であり、(b)で検討したとおり、これらは私事に関する情報であると認められる。この点について、異議申立人は、これらの休暇は法律や条例等で定められた休暇であって、取得した休暇の種別などについても開示するべきであると主張するが、「病気休暇」、「特別休暇」、「介護休暇」、「組合休暇」、「育児・部分休業」、「研修」、「福利厚生休(教育)」というのはその名称から休暇を取得した理由が明らかとなってしまい、開示することにより私生活上の権利利益を害するおそれがあると認められることから、異議申立人の主張は受け入れられない。したがって、本条本号に該当し、ただし書のいずれにも該当しないことから、この部分を非開示とした実施機関の判断は妥当である。
四段目の非開示部分については、当月における「休暇を取得した日の取得した休暇の種別」であるが、三段目の非開示部分の検討結果と同様、取得した休暇の種別については私事に関する情報であるため、非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(d)非常勤職員の勤務実績表について
当該対象公文書において非開示と判断されたのは、二段目にある休暇等の月計及び累計、年次休暇の繰越日数、繰越日数と付与日数の合計、使用日数、残日数、三段目にある「有給休暇」、「無給休暇」、「産前産後・育児・介護」の月計及び累計、四段目にある当月における「休暇を取得した日の取得した時間数」である。なお、二段目にある「休暇等」については、三段目にあるそれぞれの休暇及び年次休暇の合計を表示している。
二段目の非開示部分については(c)で検討した結果と同様、職務に関する情報としての面があるといえ、また、これらの情報を開示したとしても休暇を取得した具体的な理由が明らかになるわけではなく、私事に関する情報を開示することにはならない。したがって、この部分を非開示とした実施機関の判断は妥当ではない。
三段目の非開示部分については(c)で検討した結果と同様、取得した休暇の種別を明らかにする情報であるため、私事に関する情報であると認められる。したがって、非開示とした実施機関の判断は妥当である。
四段目の情報については(b)で検討したとおり、当該非開示部分はその反面、個々の職員の出勤に関する情報であると考えられ、またこれを開示したとしても休暇を取得した理由が明らかになるわけではない。したがって、非開示とした実施機関の判断は妥当ではない。
(e)旅行命令一覧表
当該対象公文書において非開示と判断されたのは、自家用車の車番であるが、これらの情報は私事に関する情報であり、公務員の職務に関する情報とはいえない。したがって、本号本文に該当し、本号ただし書のいずれにも該当せず、当該情報を非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、審査会として次のとおり意見を述べる。
本件において、異議申立人は、県行政が業務を適正に遂行しているかどうかを検証するために開示請求を行ったと述べている。実施機関は、今後は必要に応じて開示請求者から聞き取りを行い、文書の特定を進め、説明責任を果たすよう努められたい。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
27. 4.22 |
・諮問書の受理 |
27. 4.23 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
27. 5.20 | ・理由説明書の受理 |
27. 5.25 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
27. 7.21 |
・書面審理 (平成27年度第3回A部会) |
27. 8.20 |
・審議 (平成27年度第4回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※ 会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
※委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学准教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。