みえ国際協力大使 小林 邦子さん からの活動報告
2018年1月赴任 派遣国:ガボン共和国 職種:言語聴覚士
報告日:2019年7月31日
ガボンについて
ガボンはアフリカ中央部西側に位置し、大西洋、赤道ギニア、カメルーン、コンゴ共和国に囲まれた赤道直下の国です。面積は日本の3分の2程度ですが、2017年時点で203万人と、人口の少ない国です。多民族国家ですが、他のアフリカ諸国のように民族間の目立った対立はなく、気候も一年を通して湿気は多いものの日本の夏ほどの蒸し暑さもなく過ごしやすいです。また、アフリカ有数の産油国で、人口が少ないことから国民平均所得が比較的高いです。そのためか、ガボンで暮らす人々はのんびりしていて、穏やかな人が多いです。ガボンの主要産物は石油、マンガン、木材で、仕事や現金収入を求めて、近隣諸国からの出稼ぎ労働者も多く、タクシー運転手、商店の店員、洋服の仕立屋などの多くは外国人です。
ガボンは1960年にフランスから独立した国で、公用語はフランス語、そして、教育制度はフランスに準じています。学校は3学期制で9月中旬から始まり、クリスマスまでが1学期、二週間の学期休みを挟んで、1月から3月下旬までが2学期、さらに2週間の休みを挟み、4月から6月中旬までが3学期です。3学期が終わると次の学年が始まるまでの約3カ月のバカンスです。日本と異なり、バカンスがとにかく長い!この間、活動先である学校は閉鎖されるため、本来の活動も休みになります。
私が住む、首都のリーブルビルは人口が集中しており、人も車も建物も多く、活気のある街です。私が住む地区は、水も電気も比較的安定していますが、地区によってはこれらが安定していない所があります。省庁や病院でも水が出ない所があるくらいです。見た目は近代的ですが、生活環境が完全には整っていないのがガボンです。活動先である学校も、常時水が使えない状態です。
活動について
学校の外観
私は首都リーブルビルにある、国立聴覚障がい児学校に配属されています。ここには約100人の生徒がおり、幼稚部と小学部に分かれて、勉強をしています。日本と異なり、義務教育制度があるにも関わらず、障がいを持った子どもは就学が遅れる傾向があること、家庭の事情により継続して登校ができない生徒が多くいること、留年制度があること等の理由から、小学部といっても7歳くらいから上は20歳くらいまでの生徒が在籍しています。また、日本のろう学校と異なり、補聴器をつけている生徒は全体の一割程度で、その生徒らも補聴器を活用できている状況ではありません。ほとんど聞こえていない生徒が多いことから、教員らは手話を用いて授業を行っています。
私は言語聴覚士として、現地教員と共に生徒達の言語発達指導と聴覚活用指導、発音指導を行っています。ガボンには、フランスや隣国のカメルーンで言語聴覚士の勉強をしたという人が数人いる程度で、言語聴覚士という職業は確立されていません。日本でもまだ知名度が低く、仕事の内容を知っている人は少ないですが、ガボンでは聴覚障がい児に日々関わっている教員が、「言語聴覚士=発音指導をする人」という認識を持つ程度です。
生徒達への言語発達支援の様子
言語聴覚士が携わる領域は、主に「聞く」「話す」「読む」「書く」の言語理解や表現に関わる機能と、発声や発音などの声に関わる機能、そして発音にも大きく関わる飲み込みの機能、主にことばによるコミュニケーション機能と食事に関する機能です。
一般的にヒトは生まれてから周囲の話しことばを聞いて、ことばを習得してきますが、聴覚障がいがあると聞こえないためにまず話しことばの習得が遅れ、さらに聞こえる人と異なり、獲得語彙数が極端に少ない傾向があります。また、聞こえないために発音がうまくできず、それ故、音声言語を用いた他者とのやり取りに支障が生じます。さらに、聞こえないために音声と文字とのつながりが理解できず、そのため文字の習得も遅れてしまいます。
日本では、早期に障がいが発見され、それに対する支援を受ける体制が整っていますが、ガボンでは障がい発見も遅れがちで、さらにそれに対する支援体制も整っていません。このような理由で、活動先の生徒達は、現地教員が問題視している「発音」の問題だけではなく、言語機能の根本的な遅れを抱えており、それ故、学習が積み上がらずに、なかなか小学校課程を修了できない、という課題を抱えています。
現地教員が求める「発音」機能の向上のためには、目標とする発音がある程度聞こえること、そして自身の発音と目標の発音を聞き比べる力があることが必要ですが、ほとんどの生徒達は音が全く聞こえていない状態で、その場限りの発音練習はできても、聞こえないために声の出し方や発音の仕方を調節することが難しく、それ故、発音の獲得には結びつかない状況です。
獲得の難しい発音指導をすることよりも、生徒が社会の中でよりよく生きていくために、周囲の人々とのコミュニケーションがスムーズに図れること(この場合、文字で他者とのやりとりができることが前提となります)、また、ある程度の知識を持ち、小学校課程を終えられるくらいの学力をつけることを目指した働きかけが必要であると私は考えています。
そこで、生徒らへの直接的な言語発達支援と聴覚活用指導、発音指導を実施する傍ら、聴覚障がいについての理解(何故、聞こえないと言語発達が遅れるのか、発音が上手くできないのか等)と、前述した働きかけに対する理解を得るため、ポスターやパンフレットを作成し、現地教員や生徒の保護者らに向けた啓発活動を行っています。
ボランティア作成のポスターと同僚
ボランティア作成のポスターを基に、現地職員に発音の仕組みを説明する同僚
日本と異なりガボンの人々はのんびりしているため、こちらのペースで生徒らへの支援活動を行うことはなかなかできないですが、ボランティア活動は現地教員を巻き込み、私の帰国後も続けていけるものでなければならないと考えています。日本の感覚でガボンでの物事を考えてはストレスが溜まるだけです。現地教員と過ごす時間を大切にしながら、少しでも形に残る支援をと、模索する日々です。
長いバカンス期間は、私設孤児院を定期的に訪問し、そこで生活する子ども達と小集団活動や制作活動をして過ごしています。また、ボランティア活動と同様、バカンス中である活動先の職員の家を訪問したり、ガボンの結婚式に参列させてもらったりと、ガボンの人々との文化交流を深める時間にも充てています。
さらに、バカンスとは関係ありませんが、先輩隊員から活動を引き継いで、日本語に関心のあるガボン人らに、毎週末、日本語を教えたり、日本文化を紹介したりしています。また、日本大使館が行っている日本文化紹介イベントの手伝いをすることもあります。
バカンス明けには、活動先で前述の活動はもちろんですが、生徒や現地教員らに日本文化紹介をする時間を設け、特に生徒らの学習意欲の向上につながる何かを提供できたらと考えています。
活動任期も残り半年足らずですが、現地の人との交流を大切にしながら、言語聴覚士としての活動だけではなく、日本の文化についても伝えていけたらと考えています。
私設孤児院にて