みえ国際協力大使 前川恵理子さんからの活動報告
赴任国:ケニア 職種:村落開発普及員 2011年9月派遣
赴任国ケニア共和国と任地ウンダニについて
ケニア共和国は47の民族からなり、国土は日本の面積の約1.5倍と言われています。ここケニアは紅茶やコーヒー、切花などが有名な産地で、日本など海外への輸出も盛んです。その他ケニアの魅力はなんと言っても広大な自然、これにつきるのではないでしょうか。ケニアには多くの国立公園があり、そこには数多くの動植物や鳥、魚が保護されており、各地域で全く異なったケニアを堪能することができます。
ツアボ国立公園にて保護されているゾウ(任地の近所のツアボ国立公園はケニアで最も広い面積を誇る。主要道路に動物が飛び出して来たり、住民の畑をゾウが荒らしに来たり、と特有の問題も深刻。)
任地の様子(山の麓を中心に人々が生活している。多くの住民は山の斜面に畑を持っているため、畑仕事をするにも一苦労。)
ケニアで生活をして一番感じることは、自国に対して日本人とは少し異なった見方があるということです。単一民族である我々とは違い、各々の民族には各々の民族性もしくは地域性を強く持っています。その為ケニアの人々は「国」という概念よりも「民族」という概念を基準に生活しています。要するに、私達日本人は日本という国をひとつと考え、我々日本人は一つだ。というように考えますが、ケニアは違います。各々の民族に対しては「我々は一つだ」という認識はあるようですが、ケニアという国に対しては「我々は一つだ」という認識は低いようです。例えば昼食時、オフィスの近くのレストランでは自然と各民族(出身地域)の輪ができ、其々の言語で地域の話や政治の話をする、という光景を良く目にします。
私が活動するタイタ県ウンダニは、首都ナイロビから約360キロ南東に位置します。
ナイロビからバスで6時間、さらにマタツという乗合小型バスに乗り継ぎ、1.5時間といったところでしょうか。そこは、「ケニアのスイス」と言われる程年間を通して涼しく緑が生い茂り、非常に住みやすい地域です。私が日本で抱いていた「赤土のケニア」というイメージとはかけ離れています。
年間を通して降雨量が多いことから、住民の多くは農業に携わり、収穫の一部をマーケットで売ることから現金を得ています。中でも農業が進んでいる地域では、住民がグループを形成し、インゲン豆やさやえんどう等の収穫物を各々持ち寄り、それらを纏めてヨーロッパ諸国へ輸出しているグループもあります。
収穫したてのインゲン豆(持ち寄ったインゲン豆のグラムを計り、それぞれ現金を持ち帰る。グループは住民により運営されている。)
園芸作物を栽培する住民グループ(農業事務所の普及員から指導を受ける住民達)
配属先と活動の様子
私はタイタ県のジェンダー社会開発事務所で仕事をしています。赴任して1年と半年が過ぎ、残りの任期も6カ月を切りました。事務所の役割は、住民らが形成するグループ(自助組織)運営の支援、女性グループを対象とした小規模融資(マイクロクレジット)、コミュニティプロジェクト交付金支給等、住民のグループ活動に関わる事業全般です。ここケニアは住民のグループ活動が非常に活発で、農業や小規模ビジネスを行うグループ、地域の灌漑設備を整備するグループ等さまざまな活動を行うグループが存在します。
しかし、我々の事務所はなんとこれだけではなく、高齢者の年金受給や障害者支援窓口の役割も果たしており、地域の福祉全体を担っています。
住民グループ活動のモニタリング(養鶏を行うグループ。きちんと帳簿管理が出来ているか確認する。)
高年齢年金受給のための調査(一軒一軒受給対象者を訪問し、生活状況などの聴き取り調査を実施する。)
それでは、私が配属先と一緒に力を入れている活動について少し紹介したいと思います。
皆さん、県庁に何か手続きに行くことを想像してみて下さい。私達はそこで提供されているサービスや手順について、簡単にインターネットから情報を手に入れることが出来ます。新聞やテレビなどから様々な情報が簡単に手に入る日本と比べ、特にケニアの村落部では正しい情報が正しいタイミングで住民に届く、というのは簡単な事ではありません。時には噂が噂を呼び、間違った情報が住民に届く事はよくあります。このような状況の中、配属先オフィスでは住民の正しい情報へのアクセスに力を入れています。といってもインターネットやテレビ・ラジオ等は利用できません。そこで我々は、管轄地域の村の会議に出向き、サービスの概要や手順を説明するのです。最も遠い地域では、車ででこぼこ道を1時間半~2時間程かけて行くこともあります。
オフィスではこういった取り組みを1年ほど続けてきました。私はこの取り組みの効果を上げるために何かできる事はないかと考え、サービスの概要や手順を説明したポスターや資料を作るという、「情報の可視化」に取り組みました。それをオフィスや住民がよく出入りする村のチーフのオフィスに掲示することにより、簡単に正しい情報にアクセスすることが可能になります。情報が無い為に遠く離れた村から半日かけて出向き、必要な書類が不足している為また戻り、また出向く。という無駄な手間を無くすことにつながっていきます。
こういったオフィスの地道な努力により、次第に管轄地域の村々のチーフと協力体制が築かれ、私が赴任した当初よりもはるかに顧客がオフィスを訪ねてやって来るようになりました。「グループや社会福祉の事はジェンダー社会開発事務所へ」という意識がタイタ県では浸透してきたことを嬉しく思います。
その他私が主体的になって実施している活動の一つに、グループの活動支援があります。
主には農業グループへのジャムやケーキ等の加工食品に関するトレーニングを実施したり、植林グループと共に農業廃棄物から作る炭の普及に取り組んでいます。また、このようなグループに対しては、帳簿の付け方、コスト計算の仕方を徹底させるべく、トレーニングやモニタリングも実施しています。
女性グループとのケーキづくり(地元で開催されるショーで販売するために家庭にある道具を使ってケーキを作る。今日の目玉は値段の付け方やコスト計算方法を一緒に考えること。)
展示会で炭作りを披露(植林方法と共に、農業廃材から作る炭について話をする。みな物珍しさに大勢の参加者が集まってきた。現在メンバーは炭の知名度向上と拡販に取り組んでいる。)
その他、女性グループを対象とした小規模融資(マイクロファイナンス)も配属先において力を入れている事業の一つです。私が配属された当初は地域の女性グループが受け取った金額のどれほどの割合がきちんと返済されているのかも把握されていませんでした。また、信じられないかもしれませんが、ローン受給グループの中には自分達が借金をしていると知らず、支給されたものだと勘違いしているグループも数多くあったのです。
そのような状況を改善させるべく、担当者と私は受給グループの徹底管理と返済額の把握に一から取り組みました。時には山奥の家にまでローンの取り立てに行くことも…これは決して気分の良い仕事ではありませんが、そこからグループの問題は何か、解決方法は何か、オフィサーと共に考えるのです。その日の終わりにはいつも笑って「いつでもおいでー!」「また来るね!」とお別れを言い合います。ケニアの人の良い所は、決して希望を失わないところです。自分達が作った商品が売れない、そんな時も「次が・る!がんばろう!」といつも明るく振る舞います。一方では楽天的とも言えますが、彼らはいつもポジティブで前向きです。きっとそんなパワーが彼らの生活を支えているのでしょう。
残りの任期もあと少しになり、あまりにも周りの人達から「もうすぐ帰るんだなあ」と言われ、最近では嫌でも帰国することが現実味を帯びてきました。彼らと毎日交わす挨拶や握手、些細なおしゃべりが出来なくなると寂しくてなりません。
残り4ヵ月、そんな彼らと笑いながら毎日を楽しんで活動していきたいと思います。