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平成20年12月04日

リコーダー活用報告

青年海外協力隊 19年度第2次隊

バヌアツ共和国派遣 小学校教諭

小熊 裕子

  1.サラカタ小学校について

 私の活動場所であるサラカタ小学校は、エスプリッツ・サント島のルーガンビル市内に位置します。学年は1年生から8年生まで,各学年1クラスずつあり,計8クラスです。生徒数は282名、教員・スタッフは13名という市内でも大規模の学校です。

 バヌアツの教育カリキュラムの中では現在、音楽科は独立された科目ではありません。Art(芸術)という科目の中に組み込まれているのです。しかし実際、学校では図工の授業がメインでおこなわれていたようで、私が赴任する前、音楽科の授業はほとんどされていませんでした。サラカタ小学校から音楽の授業をより普及、定着させたいという要請があり、私が音楽科教諭として派遣されました。

写真1

 バヌアツ政府は2006年、初等教育を6年から8年へとする基礎教育の拡充が、比較的規模の大きな小学校を対象に開始されました。サラカタ小学校もその対象校でしたが、新たに必要となった7・8年生が使う校舎を増設するための予算がありませんでした。そこで、日本政府からの援助により校舎が建設されました。写真の後ろに見えるのがその新校舎で、この写真は体育の授業風景です。    

  

2. リコーダー要請の経緯

 私はサラカタ小学校に赴任し、初めて校内を見学した時にとても驚いたことがあります。これからここで音楽科の授業を始めるというのに、校内にピアノはもちろん、タンバリンもカスタネットも、日本の学校だとどこにでもあるような楽器が何ひとつ無いのです。今後、どのように音楽科の授業を進めていくかを校長先生に相談したところ、「教師用に一台キーボードを買うことはできるが、学校の予算不足のため子どもたち一人ひとりが使える楽器を買うことはできない」と言われました。ですから、授業では歌ったり踊ったりするという、楽器を使わないような内容を考え、指導をしていました。子どもたちはそれでもとても楽しそうでした。というのもバヌアツはキリスト教の教会音楽など、普段から歌を歌う習慣があって皆、音楽が大好きでしたし、子どもたちにとっては今までになかった音楽科の授業というものが新鮮に思えたのかもしれません。 

写真2

 何ヶ月か過ぎ、現地の先生や子どもたちから「楽器を演奏してみたいな」という声を聞くようになりました。もし、子どもたちに楽器を演奏するという機会を与えることができれば、①子どもたちが楽典的な知識を学び、より音楽を好きなるかもしれない。②子どもたちが楽器を上手に演奏できるようになれば、音楽会など発表する機会を企画することができる。③音楽会を開催することによって地域の住民とのかかわりができ、学校の運営資金集めなどにも協力してもらえるのではないか。というメリットがあると考え、何より音楽が大好きな子どもたちだからこそ、楽器を演奏させてあげたいと思ったので、三重県に楽器の支援を要請しました。

 

 3.リコーダー活用例

 ●サラカタ小学校での授業

 普段の授業では、青年海外協力隊の先輩隊員が作成した音楽の教科書を使って授業をしました。リコーダーを使った楽曲は、「エーデルワイス」「聖者の行進」などがあります。とはいえ、楽器を一度も触ったことがない子どもばかりですから、どの学年もリコーダーの持ち方や運指の練習から始めました。授業中「今から楽器を演奏するよ」と言うと、いつも子どもたちは喜びの声をあげ、飛び跳ねました。それほどまでに皆、リコーダーを演奏することが大好きでした。

 写真3

 

●現地教員を対象としたワークショップ

 任期中に、音楽科教諭としてバヌアツで活動している仲間隊員と協力し、ワークショップと言われる、いわば講習会のようなものを数回開催しました。規模は校内の現地教員を対象とした小規模なものから、市内すべての学校に呼びかけ、各学校から数名の現地教員に参加してもらうという大規模なものまで企画しました。目的は音楽科教育に興味のある現地教員に、音楽科の授業をする際に必要な知識を指導するというものです。内容は楽典と言われる、ドレミの音階についての音楽的知識や楽器の奏法などを扱い、リコーダーの奏法についても紹介しました。

 サラカタ小学校では、現地教員がワークショップでリコーダー奏法を学んだ後も練習を積み重ねました。そして、校内音楽会で、教員の出し物として合奏をすることになり、数名の先生と私はリコーダーを演奏しました。 

 写真3       写真4

       ワークショップ                         校内音楽会

 

 

 ●校内音楽会で

 私の活動の最後のイベントとして、学校の運営資金集めを兼ねた校内音楽会を開催しました。リコーダーは3年生が「Jesus Is The Winner Man 」(2年生は歌)を演奏、5年生が「茶色のこびん」(4年生は鍵盤ハーモニカ)を演奏しました。リコーダーは指使いが難しく、授業中だけでは時間が少ないため、なかなか上達しない子どももいました。すると、ある子が「授業以外でも楽器を練習したい」と言ってくれたので、休み時間や放課後に一緒に練習をしました。すると他の子どもたちもたくさん集まってきました。そうして、本番までみんなで教え合って練習しました。その練習の甲斐あって、音楽会は大成功。子どもたちの演奏はすばらしいものでした。

 写真5 写真6

        2・3年生の発表                     4・5年生の発表

 

4.最後に

 私がバヌアツで生活した二年間は想像以上のものでした。ある程度の話は先輩隊員から事前に聞いていたのですが、生活や文化が日本とあまりにも違い、良かれと思ってしたことが、逆に相手に迷惑をかけてしまったり、自分の語学力や指導力不足のため、子どもに伝えたいことをきちんと伝えられず何度も悔しい思いをしたりしました。しかしそんな時助けてくれたのも現地の人々です。特に、子どもたちはいつも私にパワーをくれました。その純粋な瞳とすてきな笑顔を見ると、私はいつも勇気付けられ「よし!頑張ろう!」と思いました。

 校内音楽会は、私の活動の中で一番大きなイベントです。この音楽会を開催するために、何ヶ月も前から準備に取り掛かりました。特に、子どもたちが楽器を弾けるようになるまでには時間が必要なため、授業では特に丁寧に教えるとともに、授業外でも現地の先生に練習時間を設けてもらえるよう依頼しました。

 音楽会当日、私はステージのそばで子どもたちの演奏を聞いていました。どの子どももとても一生懸命で、その真剣な姿を見て本当に感動しました。私はみんなに感謝の気持ちをこめた歌を作り、それをプログラムの最後の方で歌おうと思っていました。しかし本番中、子どもたちの前に立ち、皆のことを考えたら、急に涙がでてきました。お恥ずかしい話、この年にもなって涙が溢れてきてしまい、半分以上歌えなかったのです。この二年間、私はバヌアツで言葉では言い表せないほどの、たくさんのことを学びました。音楽を通じて何かを伝えようと思っていた私は、今振り返ってみると自分が伝えたことよりも子どもたち、先生方、そのほか現地の人々から学んだことのほうが多かったように思います。

 さて、いただいたリコーダーは、サラカタ小学校校内に大切に保管してあります。今は、新しいボランティアの先生がサラカタ小学校に赴任され活動中です。いつか、その先生が子どもたちにリコーダーを指導されると思います。そのとき子どもたちは再び、楽器に触れるでしょう。子どもたちが前よりも上手に演奏ができるようになったり、演奏する楽しさを実感したりして、音楽のことをもっと好きになってくれることが私の願いです。

写真7

 

サラカタ小学校の子どもたちからのお手紙 

お手紙の解説

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三重県 政策企画部 国際戦略課 〒514-8570 
津市広明町13番地(本庁3階)
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