3 地方自治制度の概要
論点
1) 自治体の再編成
- 3種類の自治体に再編成。
テリトリー(territorial authority)…住民サービスを担当する基礎的な自治体
リージョン(regional authority)…資源管理と地域計画を担当する広域的な自治体
特別自治組織(special purpose authority)…特別の目的に限って自治権を認められた特殊な自治体
- テリトリーは、5種 205を、2種73に再編成。
都市部… city (28)
borough (78)
非都市部…county (67)
都市部・非都市部を含む地域 district (31)
town (1)
都市部 city (14)
非都市部 district(59)
- リージョンは、従来22あったのを、14に再編成。
- 特別自治組織は、改革前に約 400あったのを、 その権限をテリトリーとリージョンに配分、7つだけが残された。
参考
- 地方自治制度の改革は、1989年の地方自治法(Local Government Act)の改正により、行われた。
- 改革前のニュージーランドの地方自治体は、city、borough 、county、district、townなど様々な形態があり、統一的な制度になっていなかった。また、 200を超える基礎的自治体のほかに、特別の権限をもつ特別自治組織が約 400あるなど制度が複雑で、小規模な自治体の問題(例えばネースビーという人口 133人のborough )もあった。
- 必要に応じて、シティとディストリクトの下には、コミュニティ(community)を置くことができる。改革により、以前のコミュニティは廃止され、新たに 159のコミュニティが設置された。
コミュニティは、自治体ではなく、テリトリーの権限を、より住民に身近な組織に権限委譲するための受け皿である。日本の自治会とは異なり、法律で定められたフォーマルな組織である。 - 自治体再編成について、自治体側には反対があったが、強引に?実施されたとのことである。しかし、1987年12月に自治体の総合改革の検討着手を宣言、88年2月改革案のたたき台を発表、広く国民の意見を聞いてそれを検討した上で、同年8月に基本方針発表、89年6月に最終決定発表、同年11月施行という、わが国の常識からみれば丁寧な手続きがとられている。しかし、自治制度について憲法上の保障はなく、すべて立法により自治制度の改正が可能になっていることも事実である。
論点
2) 自治体運営の効率化
- 今回の自治体改革、自治体再編成の目的は、国、地方を通じる公的部門の効率化にあった。
- チーフ・エグゼクティブ(chief executive)の設置。
1989年改正自治法により、自治体の行政官のトップにチーフ・エグゼクティブが置かれ、自治体運営のすべてについて権限と責務を負うことになった。 - チーフ・エグゼクティブは、効果的、効率的かつ経済的な自治体運営の責務を負うことが、1989年改正自治法に明記されている。
これにより、国で行われているのと同様の行革が、自治体でも進められている。ただし、国家部門の改革に比べて漸進的であるとともに、具体的なやり方は自治体によって異なっている。 - 自治体改革に伴う中央から地方への権限は、殆どなかった。
自治体は、国の定める法律に従わなければならないことを除けば、国の関与を受けずに自治権が確保されてきたので、現在日本で検討されているような地方分権、権限委譲の議論は特になかったとみられる。
参考
- ウエリントン市の場合次のような取り組みをしている。
・民営化(例えば市営駐車場、電気の供給事業)
・サービス提供部門における民間との競争促進と外部委託化
・技術革新などによる効率化投資→人員削減 - ニュージーランドでは、教育、福祉、医療、警察、消防などは、中央政府が担当しており、道路、水供給、下水汚物処理、ごみ処理、公園、図書館などが自治体(テリトリー)の仕事になっている。日本と比べて担当している事務の範囲は限られているが、国の関与は全く受けずに事務を進めることができるので、日本の市町村より強力な権限を有しているとも考えられる。
- 財源としては、土地資産に対する課税(rate)と、道路財源として石油税(Local Authorities Petroleum Tax)が配分され、財源的にも中央政府から独立している。
ウエリントン市助役(Cief Executive)は、中央政府からお金をもらっていないから地方政府の自治権が保たれているのだ、と語っている。
(付 論)
ウェリントン市/アンジェラ・グリフィン助役
Wellington C.C. Chief Executive Angela C Griffin
July 31,1996
at Wellinton C.C.
1 中央政府と地方政府の役割
- N.Z.においては、国の役割と地方の役割は明確に区分されており、その関係は上下の関係というより並立の関係である。
- 中央政府の仕事は、基本的に
1) 教育
2) 保健
3) 社会福祉
4) 警察
5) 消防
等である。
地方政府は、このようなサービスは提供しないが、その他の住民サービスを提供するほかに、地域と中央政府との間の利害調整(brokering )を行っている。
- 地方政府の主な役割を図示すれば、以下のようになろう。
<地方政府(Local Gov.)>- 通常の地域サービス(local functions )
- 利害調整
- N.Z.においては、地方に対し国から資金を交付されることはほとんどない。
私としても、中央政府から資金を交付されると、その見返りとして中央政府は様々な事を要求してくるので、国からの資金は原則として受け取らないこととしている。
2 地方政府の仕事
- 私は、地方政府の仕事は、
1) 全体調整(Over-all)
2) コミッション業務(Commissioning )
3) サービス提供(Service Delivery)
の機能が、ヒエラルキーの関係ではなく、次の図のように重なり合っている関係であると考えている。
- 地方自治体のなかには、上図のうちサービス提供部門が存在しないところがある。
この場合には、サービス提供業務は民間業者に発注しているのである。
3 市政運営の方法
私は、次のような方法で市政を運営している。
4 地方政府の規模
- 地方政府の規模を議論する場合には、地方政府の提供するサービスの種類に応じて考えなければならない。私は、サービス提供分野(delivery)は最小限にして、利害調整機能(brokering )は最大限にすべきであると考えている。
- 現在、ウェリントン市の職員数は、私の就任前に比べて約 800人減少し、約1,500 人となっている。
5 地方自治改革
- 1989年の地方自治改革によって、地方自治体の数は相当減少した。89年以前は100以上存在したが、89年以降88となった。その趣旨は効率性の追求である。
- また、89年以前、助役は「Town Clerk」と呼ばれ、その役割は明確ではなかったが、89年以降は「Chief Executive 」となり、市(Council )との契約により、市の運営をmanageすることとなった。
(注)
グリフィン助役とCity Councilとの契約期間は3年であり、現在2期目である。
また、助役は以前、英国の2つの地方自治体をmanageした経験を持つ英国人(したがって、N.Z.にとっては外国人)である。