2016(平成28)年度 管理職対象人権教育研修会 講演記録
「学校における合理的配慮 ~障害者差別解消法の施行を踏まえて~」
(2016年9月作成)
1 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)について
2016(平成28)年4月に施行された障害者差別解消法は、障害者基本法第4条の「差別の禁止」の規定を具体化するための法律です。障害者差別解消法の特徴は、次の2点です。
一つは、「差別的取扱い」を禁止したことです。差別的取扱いとは作為的な差別であり、従来より禁止されていますが、それを法令上で明記しました。例えば、障がいを理由として雇用しないことなどがこれに当たります。
もう一つは「合理的配慮の不提供」も差別であるとしたことです。合理的配慮とは、「個々の障がい者から社会的障壁の除去を必要とする旨の意思表明があった場合に、個別に行われる変更・調整」です。これを、たとえ不作為であっても、提供しないことも差別に当たります。ですから、合理的配慮について理解していないと、自分では気づかずに、差別してしまうことがありえます。
合理的配慮に係わって、一つ注意していただきたいことがあります。法律では、「本人」からの意思表明があったときに提供する、とされているのですが、その人の年齢や障がいの種類・程度によっては、本人が意思表明するのが難しい場合があります。そのため、この法律に基づいた対応を進めるための基本方針や対応要領では、本人の意思表明が困難な場合は、「家族や支援者など」が本人を補佐して行う意思の表明も含む、としています。また、たとえ本人・保護者等からの意思の表明がない場合であっても、明らかに配慮が必要だと思える場合には、本人・保護者等と建設的な対話(個人懇談等の折に)を行い、合意を得た場合には、それを合理的配慮として提供することも大切です。法律の条文だけを見ていると勘違いされるかもしれませんので、注意していただきたいと思います。
2 合理的配慮と基礎的環境整備
合理的配慮は、バリアフリーやユニバーサルデザインと混同されることがあります。しかし、これは別のものです。バリアフリー法等によって進められる整備は、基礎的環境整備とか事前的改善措置とか呼ばれ、不特定多数を対象に行うものです。それに対し、合理的配慮は特定の個人に対して行うものです。
また、「基礎的環境整備が進めば、合理的配慮はいらなくなるのではないか」という考え方をする人もいますが、基礎的環境整備がいくら進んでも、一人ひとりに応じた変更・調整の必要性は残ると思います。
3 合理的配慮の提供にあたって大切なこと
車いすを利用している子どもが学校に入学してきたとします。エレベータがあればよいのですが、それができない場合は、合理的配慮で対応することになります。例えば、できるだけ授業を一階でするとか、階段を上がるときは階段昇降機を使うとか、介助員がつくとか、いろいろ方法があると思います。合理的配慮を提供する際には、このように選択肢をたくさんもっておくことが大切です。本人・保護者からの要請に対して、「イエス」「ノー」しか答えをもっていないと、相手との対立を生むことになりがちです。それぞれの学校や教育委員会で実施できることを把握したうえで、実態に応じた対応ができるように、たくさんの選択肢をもっていることが、本人や保護者の希望をかなえる柔軟な対応につながると思います。
合理的配慮には、施設・設備の充実も重要ですが、実は、学校で一番重要になってくるのは、日常の学校生活において先生方一人ひとりが行う、指導内容・方法や評価方法等の弾力的な変更・調整です。
合理的配慮を検討する際に、例えば、大学入試センター試験では、障がいに対する配慮申請(大学入試センター「受験上の配慮案内」参照)ができますので、それを参考にするのも有効な方法です。この配慮申請をするときには、その生徒が在籍する学校で、日常の授業や試験のときに、どんな配慮がされているのかが問われます。例えば、試験のときに、書くことが苦手な生徒に「大きな回答用紙を使っている」とか「パソコンでの回答を認めている」とか。あるいは、書くのに時間がかかるので「試験時間を1.3倍にしている」とかいったことです。そのような配慮事項を「個別の教育支援計画」のような書類にしておいて、それを提出すると認められやすくなります。(詳しくは、上記の配慮申請のWebサイト参照)
4 国際調査から見える日本の教職員の意識
この調査で、「多様な指導方法を用いて授業を行う」ことについて、自信があると答えた割合は、参加国の平均が77.4%であったのに対し、日本は43.6%です。また「多様な評価方法を活用する」ことについては、参加国の平均が82%であったのに対し、日本は26.7%で、平均値の1/3しかありません。
障がいのある子どもとない子どもが一緒に学習するために、子どもの実情を踏まえた合理的配慮を提供するに当たって、これらはとても重要です。例えば、文字で書くことが苦手な子どもが、鉛筆で回答したときには0点であったが、パソコンで入力して答えたら100点がとれた、というようなことがあります。試験が、子どもの学習の状況、理解の状況を把握するものであるならば、運動機能障害のため書くことが苦手な子どもの実情に応じた配慮を提供するとともに、それを評価に生かすことが必要になります。このあたりの対応に自信がない教員が多く、日本における障がい者に対するバリアの一つになっていると思っていただけたらと思います。
5 発達障がいの子どもたち
さらに言うと、6.5%という数値は、小学校1年生から中学校3年生までの平均値です。学年別に見ますと、小学校1年生の段階で9.8%で、学年が上がるに従って減っていきます。その背景には、年齢が上がるほど、子どもが自分が抱えている困難を隠すようになることや、先生も文字を書いているかどうかのチェックをあまりしなくなってくることなどがあると思われます。そう考えると、小学校1年生の9.8%というのが、一番実態に近いかもしれないのです。ここに特別支援学校や特別支援学級の子どもを加えると、十数%いると考えることもできると思います。
それぞれの学校で、表には出てきていないけれどもこういう子どもたちがいるんだということを想定したうえで授業を行っていただければと思います。例えば、発達障がいの子どものなかには、ずっと座っているのが苦手な子どもがいます。そういう子どもが、近年話題になっているアクティブラーニングを取り入れることで、授業に参加しやすくなることがあります。障がいのある子どもの特性を理解し、教室での指導に活かしていく、そういう観点を持っていただければと思います。
6 最後に
以上、丹羽先生の講演より、抜粋してご紹介しました。
障害者差別解消法が施行され、各学校においては、様々な取組を行っていることと思います。すべての子どもの学力・進路保障の取組をさらに進めるため、下記の参考資料もご活用いただければと思います。
参考資料
・障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(内閣府)・障害者差別解消法リーフレット(内閣府)
・障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律に基づく職員の対応に関する要領(三重県教育委員会)
・文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針(文部科学省)
・インクルーシブ教育システム構築支援データベース〔インクルDB〕(国立特別支援教育総合研究所)
・合理的配慮等具体例データ集〔合理的配慮サーチ〕(内閣府)
・「受験上の配慮案内」(大学入試センター)
・「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(文部科学省)