三重県教育委員会では、人権学習教材及び人権学習指導資料の活用のための講座を実施しています。今年度は、人権学習教材「わたし かがやく」、人権学習指導資料「気づく つながる つくりだす」、いじめの問題を解決するための指導資料「ともに つくる あした」に加え、2016(平成28)年3月に発行した人権学習指導資料(小学校高学年)「みんなのひろば」と人権学習指導資料(中学校)「性的マイノリティの人権」の活用のための講座を実施しました。
ここでは、その概要をお知らせします。
1 人権学習指導資料(中学校)「性的マイノリティの人権」活用のための講座
2016(平成28)年4月、文部科学省より「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」が発行されました。また、マスコミ等でも性的マイノリティの人権について多く取り上げられるようになっています。本講座には、中学校以外からも多くの参加があり、教職員の関心の高さがうかがえました。本講座では、まず、指導資料の構成や使い方について、模擬授業を交えて説明しました。模擬授業では、同性愛者であることを隠している当事者の思いを綴った文章を読み、「なぜ隠すのか」について話し合う活動を行いました。この活動を通じて、同性愛者に対する偏見や差別的な言動が社会にあることを確認し、自分自身や自分の周囲にはそんな偏見や言動がないか振り返ってもらいました。
その後、性的マイノリティの人権に関する取組を各校で進めるうえで、教職員で共通認識を図っておきたい基礎知識等について紹介しました。また、当事者の子どもが困ったときに相談しやすい環境づくりのためにできることについて、意見交換をしてもらいました。
【参加者アンケートより】
- 私たち教職員が性的マイノリティの人権ついて正しく知り、全教育活動をとおして子どもたちに肯定的なメッセージを発信することの大切さに気づくことができました。
- 今までLGBTと思われる児童生徒との出会いはありましたが、今日の話にあった「LGBTに該当する人は7.6%」という数字の大きさに驚かされました。当事者の子どもたちがきっといる、その子どもたちのために学校で取り組んでいくことが必要なのだと感じました。人権教育、保健指導等の中でLGBTのことを普通に話題にできるような環境づくりやカリキュラムへの位置づけの必要性に気づくことができました。
- 私たちに必要なのは、「どの子が性的マイノリティなのか」を見分ける力よりも、子どもが困ったときに相談しやすい環境をつくっていくことだと改めて感じました。
- 当事者に自分の立場をカミングアウトさせることが目的なのではなく、当事者が安心して過ごせる学校や社会づくりが大事だと思いました。これは、性的マイノリティの人権だけでなく、部落問題や他の人権問題でも同じだと思いました。
2 人権学習指導資料「気づく つながる つくりだす」活用のための講座
本講座では、「韓国・朝鮮につながりのある人の思いについての理解の促進」と「他者の感情を共感的に受けとめる想像力の育成」をテーマに、「気づく つながる つくりだす」の中から2つの学習展開例を取り上げ、学習のねらいや概要について説明しました。また、人権学習指導資料(小学校高学年)「みんなのひろば」からも、在日韓国・朝鮮人に係わる学習展開例を取り上げ、模擬授業を行いました。
その後、カミングアウトについて、打ち明けること自体が目的ではないこと、当事者が「この人(たち)に語りたい・言わずにいられない」と思えるような信頼関係をつくっていくことが大切であることをグループ交流をとおして確認し合いました。
【参加者アンケートより】
その後、カミングアウトについて、打ち明けること自体が目的ではないこと、当事者が「この人(たち)に語りたい・言わずにいられない」と思えるような信頼関係をつくっていくことが大切であることをグループ交流をとおして確認し合いました。
【参加者アンケートより】
- 教材の活用方法や伝えるべきメッセージを整理することができてよかったです。ねらいや目的を言語化してもらったことで、漠然と理解しているだけだったことが明瞭になりました。
- 模擬授業の中で当事者の気持ちを考えたり、それと似た思いをしている人が他にもたくさんいるのだろうと想像したりすることができました。
- 様々なことを幅広く学んでいく必要があると感じました。無知、無関心であることが差別や偏見を生むのではないかと思いました。
- カミングアウトについてのグループ交流では、今までの自分が生徒に関わる姿勢や態度を振り返ることができました。当事者の「自分のことを語りたくても語れない背景」を理解することや、やっとの思いで語れたことをしっかり受け止める大切さについて、考えることができました。
3 人権学習教材「わたし かがやく」活用のための講座
「わたし かがやく」は、主に中学校を対象とした人権学習教材ですが、中学校以外からも多くの参加がありました。
本講座では、まず、子どもの権利をテーマに、貧困・虐待の問題に係わって、子どもを取り巻く現状と課題等について説明しました。また、子どもの権利条約について、「わたし かがやく」の資料や、人権学習指導資料(小学校高学年)「みんなのひろば」の学習展開例を使い、模擬授業を行いました。「子どもが幸せに生きるために大切だと思うもの」をランキングする活動を通じて、子どもの権利条約が自分の生活に関係があることに気づくための学習展開を提案しました。
【参加者アンケートより】
本講座では、まず、子どもの権利をテーマに、貧困・虐待の問題に係わって、子どもを取り巻く現状と課題等について説明しました。また、子どもの権利条約について、「わたし かがやく」の資料や、人権学習指導資料(小学校高学年)「みんなのひろば」の学習展開例を使い、模擬授業を行いました。「子どもが幸せに生きるために大切だと思うもの」をランキングする活動を通じて、子どもの権利条約が自分の生活に関係があることに気づくための学習展開を提案しました。
【参加者アンケートより】
- 今まで、子どもの権利条約についてどのように取り上げればいいのか悩んでいましたが、講座を受講し、具体的な展開の仕方を知って「よし、やってみよう」という気持ちになりました。
- 子どもの貧困・虐待のところで、高校生の経済状況が予想以上に厳しいことを知ることができました。模擬授業では、ランキングする活動を取り入れた授業の進め方について知ることができました。今後は、子どもたちの実態に合った人権学習を行うために、どのように授業をつくっていったらよいのかを考えていきたいと思いました。
- 模擬授業では、学習補助資料の『子どもの権利カード』を使い、子どもが幸せに生きるために大切なことをランキングすることで、自分のことを振り返ることができました。実際の授業でも、ランキングした理由を出し合わせることで、今まで見えていなかった子どものことを知ることができるのではないかと思いました。
- 異校種の先生方との交流は、大変充実した時間でした。子どもたちが自分たちの権利を正しく知ることで自分の置かれている立場の不合理さに気づき、自分を救える手立てになるのではと思いました。
4 いじめの問題を解決するための指導資料「ともに つくる あした」活用のための講座
本講座では、指導資料の学習展開例を使って模擬授業を行いました。
まず、インターネット上での噂の問題点についてグループで話し合う活動を行い、次に、全国中学校人権作文コンテストの入賞作品を題材として、偏見や差別をなくすためには「よく知ろうとする姿勢」「他人を思いやる想像力」が大切であることに気づくための学習展開を提案しました。
その後、「子ども理解のスキルアップ」「仲間づくりの取組」を進めるための教職員研修プランについて提案しました。その中で、「綴る」活動を実際に体験していただきました。
【参加者アンケートより】
まず、インターネット上での噂の問題点についてグループで話し合う活動を行い、次に、全国中学校人権作文コンテストの入賞作品を題材として、偏見や差別をなくすためには「よく知ろうとする姿勢」「他人を思いやる想像力」が大切であることに気づくための学習展開を提案しました。
その後、「子ども理解のスキルアップ」「仲間づくりの取組」を進めるための教職員研修プランについて提案しました。その中で、「綴る」活動を実際に体験していただきました。
【参加者アンケートより】
- インターネットの普及により、子どもの日常生活の中にあふれている無責任な噂が、こちらから見えにくく、気づきにくくなっています。模擬授業のように、インターネット上の書き込みについて考える学習等を日頃から意識して取り組んでいかなければならないと改めて思いました。
- 綴り方の話の中の、「教師は、子どものしんどい生活の事実を変えることはできなくても、子どもがその事実をどう捉えるかは変えることができる」という言葉に深く共感しました。それを基盤とした仲間づくりが大切だと思いました。
- 提示していただいた資料「一枚文集」(子どもたちが書いた作文)の内容から、綴り方の活動で子どもたちがつながっていく様子が伝わってきました。書くことの大切さを感じることができました。
- 仲間づくりには、意図的で継続的な取組が必要であることを改めて確信できました。綴る活動の体験では、「事実をありのままに書く」ためには、日常的に人や物を意識して見たり、関心を持ったりすることが大切だということが分かりました。
5 人権学習指導資料(小学校高学年)「みんなのひろば」活用のための講座
「みんなのひろば」には、「部落問題」「障がい者の人権」「外国人の人権」「子どもの人権」「女性の人権」の5つの人権問題についての学習展開例が掲載されています。
本講座では、指導資料の概要説明と、学習展開例を用いての模擬授業を行いました。
【参加者アンケートより】
本講座では、指導資料の概要説明と、学習展開例を用いての模擬授業を行いました。
【参加者アンケートより】
- 「みんなのひろば」を活用するうえで大切にすべき点について知ることができました。具体的な資料が示されているので、忙しい現場ではとてもありがたいです。この指導資料を目の前の子どもの実態に合わせて加工することが重要だと思います。部落問題のところで、水平社宣言を自分に引き寄せて考えることができる展開の方法を知り、2学期に取り組みたいと思いました。今までとは違った切り口で深めていきたいです。
- 外国人の人権に係わって、外国からきた子どもに対して日本のルールを伝えるときに大切なことは何かを考えることができました。自分の経験を振り返ると、外国からきた子どもたちは、慣れない学校生活の中で、「それはダメ」と言われることが多いように思います。ダメなことを「ダメ」と伝えることは必要ですが、いろいろな場面で「ダメ」と言われ続けると、子どもは自信がなくなり、笑顔でいられなくなります。ロールプレイをとおして、「ダメ」の伝え方を考えることができてよかったです。
- 女性の人権に係わって、女性が社会進出しにくい背景には、子育てや介護などが女性に任されている現状があり、その問題についてもっと切り込んで考えていく必要があると思いました。社会的な体制としてどういう環境整備や条件整備が必要かを考えていく学習も必要だと思いました。
- 障がい者の人権の学習展開例が印象的でした。耳が聞こえなくても進学や就職、自分がやりたいことができる。ただ、そのためには、その人の頑張りだけでなく、その人が他の人と一緒に過ごせるように環境を変えていく合理的配慮と、周囲との係わり合いが大切であることが分かりました。学習展開例を参考に授業をしたいと思いました。