2013(平成25)年度 人権学習指導資料「気づく つながる つくりだす」活用のための連続講座報告(8月9日実施分)
女性の人権に係わる問題を解決するための教育
「暴力によらない対等な人間関係づくり」を進めるために
~ 「デートDV」の実態および学習の必要性について考えよう~
テーマの設定理由
2001(平成13)年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)が施行されたことを受け、三重県においても2006(平成18)年に「三重県DV防止及び被害者保護・支援基本計画」が策定されました。近年は、若年層における交際相手からの暴力(デートDV)の問題が全国的に注目され、その克服に向けた取組も進められています。
三重県においても昨年度、県内すべての高等学校(全日制のみ)および一部の私立学校・大学の協力を得て、三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」が、県内初となる「『デートDV』に関するアンケート調査」(以下「アンケート調査」)を実施しました。このアンケート調査で、交際経験のある高校生・大学生の約4人に1人が被害を、約5人に1人が加害を体験していること等がわかり、デートDVに対する取組の必要性が明らかになりました。
また、DVを未然に防止するためにも、高校生の年代においてデートDVについて学習することが有効であることをふまえ、本年度の研修テーマとしました。
研修概要
1.講演
「フレンテみえ」より滝石麻衣子さんを講師としてお迎えし、アンケート調査の報告書をふまえてお話しいただきました。アンケート調査にみられる高校生のDVや暴力に対する認識などをご紹介いただくとともに、学習を進めるうえでの指導のポイント・留意点などについてもご示唆をいただきました。
講演内容より
① 男女共同参画社会の実現に係わる状況
- 「男女平等」の意識は浸透してきているが、現実的にはジェンダー・バイアス(社会的・文化的に形成された性別による偏見)が根強く、男女が対等な社会進出を果たせていない状況がある。
- 男女間格差の国際指標「ジェンダーギャップ指数(GGI)」のランキング(平成24年発表)において、日本は101位と前回より順位を下げ、相変わらずの低迷ぶりである。
- 日本の女性は世界的にも高い能力(HDI:人間開発指数 12位)を有しているが、その能力が社会に活かされていない。
②デートDVの基礎知識
- DVには、「身体的」「精神的」「性的」「経済的」「社会的」などいくつかの暴力の形がある。特に多いのは「精神的暴力(大声でどなる、無視する、おどす、人前で侮辱する等)」であるが、「性的暴力(性行為を強要する、避妊しない、見たくないのにポルノビデオやポルノ雑誌を見せる等)」は、表面化しにくいだけに、発見のための工夫が必要である。
- DVの背景(起こる要因)は、「力による支配」「暴力容認」「ジェンダー・バイアス」といった観点から整理できる。暴力的なシーンがテレビ等で当たり前のように流されていることや、児童虐待、いじめ、体罰、セクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメントなどが社会にあふれている状況も背景にある。
- デートDVを起こさないためには、男らしさ・女らしさにとらわれずに、自分で自分らしさを選ぶこと、自分のことは自分で決めてよいということを自覚すること、相手を認め尊重すること、怒りを態度や行動ではなく言葉で伝えることなどが大切である。
③アンケート調査の結果と分析
調査期間 | 2012(平成24)年9月~12月 | |
回収数 |
高校生 6,139件(回収率88.7%) |
大学・短大生 702件(回収率90.0%) |
- デートDVの認知度 デートDVを「知らない」と答えた人の割合は54.2%で、男女別では男性の65.1%、女性の45.4%が「知らない」と答えている。言葉自体を知ることが、まずは第一歩である。
- 固定的性別役割分担意識 「男は仕事、女は家庭という考え方に同感しない」と答えた人の割合は女性46.3%、男性31.3%で、男性の方が固定的性別役割分担意識にとらわれている傾向がある。
- 暴力への感度・許容度 「殴ったり、けったりすること」や「言うとおりにしないとただではすまないとおどすこと」は、男女ともに「暴力と感じる」と答えた割合が高いが、「不愉快な性的言動をすること」を「暴力と感じる」と答えた割合は女性50.2%、男性38.2%と、「性」に関して男女の意識に差が見られる。全体的に、女性より男性の方が暴力を許容する傾向にある。また、固定的性別役割分担意識にとらわれていない人ほど、暴力に対する許容度が低い傾向にある。
- 被害経験 「特定の人と付き合った経験がある」人のうち、女性の約3人に1人(31.0%)、男性の約6人に1人(17.1%)に被害経験がある。被害経験の中で男女差が大きい項目は、「殴るふりをしたり、軽く叩いたりけったりする」「思い通りにならないと、どなったり責めたりおどしたりする」「携帯メールで常に行動を報告したり返信したりするよう要求する」「不愉快な性的言動をする」で、約10ポイントの差がある。
- 加害の理由 女性は「やられたのでやり返した」が27.4%と一番多いのに対して、男性は「自分でも理由がわからない」が23.1%と一番高く、自分の気持ちを分析できずに暴力に及んでいる状況が読み取れる。理由の「その他」として、「ふざけて」「冗談で」「軽いノリで」等の記述が多く、自分の行動が暴力であるという認識が弱いことも危惧すべきである。
- 被害経験後の相談先 「友人」(86.6%)が圧倒的に高く、次に「親」(13.4%)、「先輩」(12.3%)、「きょうだい」(7.1%)、「先生」(5.7%)と続く。当事者だけでなく、相談される側もデートDVについての理解と対応を学ぶ必要があることはいうまでもないが、「先生」「養護教諭」「スクールカウンセラー」への相談が合計しても7.6%と少なく、相談しやすい環境や機会を工夫してつくる必要があるといえる。あわせて、相談機関の認知度も「知らない」が88.2%と高く、さらに周知が必要である。
- 見聞きした経験とその後の対応 友人の加害・被害を見聞きした経験は、約5人に1人で、見聞きした後、女性は「相談にのった」(54.4%)が最も高いのに対し、男性は「何かしようとは思わなかった」(44.2%)が最も高く、「相談にのった」は29.2%で女性の約半分であることは注目すべきである。男性は自身が被害にあっても「相談したいと思わなかった」(55.5%)だけでなく、他者の相談にのることも少ないことがうかがえる。
④先生方へお願いしたいこと
- 調査結果を参考に、ぜひ各校でデートDVの学習を実施してほしい。
- 生徒からの相談があった場合には、一人で抱え込まずに、校内での連携および相談機関の周知・活用を進めてほしい。
2.ワークシートの解説
アンケート調査の「自由記述覧」に書かれた高校生の声をいくつか紹介しながら、それらを切り口として、「指導資料」のワークシートにおける学習のポイントを事務局より説明しました。
高校生の声 1 「どこからが暴力で、どこからが普通のことなのか、よく分からない」 高校生の声 2 「あまり強い束縛はいやだけど、放置されるよりはいい。やきもちぐらいなら別にいい」 |
学習のポイント ワークシート1(P.68)を活用して、生徒に互いの恋愛観や価値観を交流させる。 |
高校生の声 3 「自分ではDVをされていると自覚していない人がいると思うので、気づく機会を設けることが大切だと思う」 |
学習のポイント ワークシート1(P.68)及び補助資料を活用して、デートDVの基礎知識を身に付けさせる。 |
高校生の声 4
「自分の周りにも彼氏からDVされる子がおったから、すごく止めたし、別れた方がいいと言ったけど、彼女は『好きやから』って言うて聞かへんだ。デートDVってそういうとこ難しいと思う」 |
学習のポイント ワークシート3(P.70)を活用して、被害・加害両方の友だちに対してアドバイスできるための具体的な言葉(セリフ)を持たせておく。 |
また、ワークシートを題材にしたロールプレイを行うなど、授業展開の仕方を提示しました。
ワークシート1(P.68)を題材にしたロールプレイ |
3.グループワーク
①情報・課題の共有
- 各校で把握しているデートDVの実態について
- デートDVを学ぶ必要性について
②ホワイトボードを使った話し合い
参加者が交代で進行役を務め、次の3つのステップで意見交流を行いました。
- 「(デートDVに関して)生徒に伝えたいことは何か」を出し合う。
- 「特に伝えたいことは何か」を一つに絞り込む。
- 「それを伝えるためにどんな授業・活動・取組ができるか」を出し合う。
4.全体交流
グループ交流で出されたデートDVに係わる実態について、各班から事例が紹介されました。デートDVの具体的な事例、把握した際の校内での連携、保護者への連絡・相談、当事者生徒へのアプローチなど、具体的な事例を紹介し合ったことで、自校に事例を持たない参加者も含めて、全員がより実感を伴ってデートDVの深刻さを認識することができました。
デートDVの事例
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グループワークの感想
- 県内の高校生のアンケート結果を知ることができ、とても興味深かった。デートDVの実態はなかなか表には出てこないようで、実際に体験している生徒の話を聞いたことはないが、「予防」をすることが大切であること、またいろんな知識を持つことの必要性を実感した。取り組むべきテーマだと思った。
- 本校でも、実態調査等の取組をしていく必要性を感じた。
- ホワイトボードを用いた話し合いをはじめて経験したが、ボードに記録する人が別にいるというのは交流がしやすかった。他校の事例を聞かせてもらい、対応の仕方について勉強になった。
研修を終えて
県内の高校等で現実に起こっているデートDVの実態を参加者間で確認し合えたことは、各学校でデートDVの学習を進めていく必要性を実感することにつながったと考えます。
今後のデートDVに関する研修内容としては、基礎知識を学ぶことだけにとどまらず、
- 被害・加害の生徒と向き合いながら、両者の成長を促し、課題解決につなげるための相談スキル
- 生徒たちに「相談されたときの対応スキル」「他者との対等な関係を築くためのコミュニケーション力」を身に付けさせるための具体的な指導内容や手法(アサーション・トレーニング、ロールプレイング等)
についても習得する必要があると考えます。
一方で、デートDVを単に男女間で起こる暴力の問題という捉え方にとどめず、生徒たちの生き方や価値観、人間観や人権意識に大きく影響を与える問題だという認識を持って、学習を進めていくことが大切です。