「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」についての学習指導のスキルアップをめざして~人権学習教材「わたし かがやく」活用のための連続講座を終えて ~
三重県教育委員会事務局 学校教育分野 人権教育室
1 はじめに
2005(平成17)年度の発行以降、各学校では、人権学習教材「わたし かがやく」(以下、「わたし かがやく」)をご活用いただいています。そこで、2009(平成21)年度は、「わたし かがやく」のさらなる活用をめざし、計3回の連続講座を開催しました。
2 連続講座の背景等
(1) 採択20周年
「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」(以下、「子どもの権利条約」)は、1989(平成元)年の国際連合総会で採択されました。つまり、2009(平成21)年は、採択20周年にあたります。ちなみに、日本の批准は、1994(平成6)年のことです。
「わたし かがやく」にある教材「かがやきのチャンス」では、「子どもの権利条約」に係わり、次のように記述しています。
この条約は、1989年(平成元)年11月20日に国際連合の総会において決められました。日本は1994(平成6)年にこの条約を批准し、世界の国々とともに子どもの権利を守っていく取り組みをはじめました。
(12頁より)
(2) 子どもの人権に係わる三重県内の状況
では、三重県内での子どもたちの姿は、また、子どもの権利を守っていく取組は、どのような状況にあるのでしょうか。
① 子どもたちの姿
三重県教育委員会が報告した「平成20年度 公立小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの状況等とデータ」(*1)を見ると、2008(平成20)年度のいじめの認知件数は362件で、前年度から186件減少しています。また、1999(平成11)年度からの推移についても、おおむね減少傾向にあります。
しかし、それがあくまでも認知件数であること、また、「いじめられている子は、相談すると余計にいじめられるから、誰にも相談できない」(*2)といった子どもたちの声や、近年発生している「ネットいじめ」という新しい形のいじめ問題の存在等をふまえれば、いじめをめぐる子どもたちの状況を決して楽観視することはできません。
次に、三重県が公表した「児童虐待相談の年度別推移」(*3)を見ると、2008(平成20)年度の相談件数は395件で、前年度から132件減少しています。
しかし、2003(平成15)年度から2007(平成19)年度にかけては500件を超える状況であったこと、また、2008(平成20)年度の相談件数の減少についても、「市町の相談体制の充実や地域における未然防止の取組などによるものなのか、一過性のものなのかは今後の推移を見ていく必要」(*4)があることや、「児童の安全を確保する観点からは、潜在化しているのではないかとの慎重な見方が必要」(*5)であること等が指摘されています。
さらに、これら以外にも、例えば、いわゆる「子どもの貧困」(*6)や、家庭の経済的状況が子どもの学力・学習状況に及ぼす影響(*7)、また、これらを背景にした「『自分はどうなってもいい』『自分はまわりから必要とされていない』等、自尊感情が育まれていない子どもたちの実態が多くみられる」(*8)こと等も、子どもたちの姿として捉えておかなければなりません。
② 子どもの権利を守っていく取組
三重県教育委員会が発行した「2006(平成18)年度 人権問題に関する教職員意識調査報告書」(以下、「報告書」)では、「『子どもの権利条約』についての認識」として、次のように記述しています。
この結果によると、認知度が最も高かったのは「性的搾取禁止」である。この項目の認知度が高いのは、研修などを通じた「子どもの権利条約」に関する学習の成果というよりも、社会的に教職員等による子ども買春やセクシュアルハラスメントが取り上げられ、教職員処分の報道が相次いでいることに関連するのではないかと推測される。なぜなら、条約について基本的な学習をすれば、他の条項についても、これと同じ程度学ぶはずにもかかわらず、他の項目が低いからである。
権利条約が批准された1994年頃には、それに関する研修も開かれたはずである。もしもそのときの研修が成果を上げていないということであるなら、何が問題であったのかを検討し、改めて研修を計画することが必要である。この条約を日本が批准したあとも教職員の認識が深まっていないことが、現在の20代の権利条約に関する知識の低さにつながっているのではないだろうか。
(53~56頁より)
次に、三重県教育委員会がまとめた「2008(平成20)年度 学校における人権・同和教育の推進に関する調査結果(概要)」 にある「小・中学校における人権問題別人権学習実施率」を見ると、「子どもの人権」に係わる実施率が、小学校については96.3%、中学校については60.1%になっています。また、「中学校における『わたし かがやく』の教材別活用率」を見ると、「子どもの人権」に係わる2つの教材の活用率が、いじめ問題を主に扱う教材「かけがえのない自分」については39.3%、「子どもの権利条約」を扱う教材「かがやきのチャンス」については17.3%になっています。
これらの背景に、教職員の「子どもの権利条約」に対する認識が高まっていないという前掲した状況があることは、推察するに難くありません。
「報告書」では、「子どもの権利条約」第42条「締約国は、適当かつ積極的な方法でこの条約の原則及び規定を成人及び児童のいずれにも広く知らせることを約束する」に係わり、次のようにも記述しています。
条約についての情報提供や学習を子どもたちに保障することは、教職員の重要な役割の一つであろう。しかも、批准された条約の遵守は憲法にも明記されているので、学校での教育実践は、この権利条約の精神や規定に基づいたものでなくてはならない。その意味で、教職員は「子どもの権利条約」に最も関わりのある職業集団の一つであるといえる。しかしながら教職員の過半数がこの規定自体を知らないということになると、子どもたちがこの条項について知る可能性は大きく制約されることになる。
(53・55頁より)
前述した子どもたちの姿をふまえれば、「子どもたちがこの条項について知る可能性は大きく制約されること」は、喫緊の課題と言わざるを得ません。
(3) 連続講座がめざすもの
「報告書」では、次のようにも記述しています。
この際、研修の在り方や情報提供の在り方を見直すだけではなく、学校教育の在り方を権利条約の観点に立って根本から見直す試みがあってよいはずである。そのようにして学校全体を再点検することによって初めて、権利条約と学校の実態のズレが明確になり、教職員が自分たちの日々の取組を見直すことも可能になるものと考えられる。この点は、調査結果から示唆される明確な結論であり、それに基づいた提案である。
(56頁)
そこで、今回の連続講座では、「子どもの人権に係わる問題を解決するための教育」の充実を図るために、「わたし かがやく」にある教材「かがやきのチャンス」を取り上げ、「子どもの権利条約」についての学習指導のスキルアップをめざしました。
(*1) 「平成20年度 児童生徒の問題行動等生徒指導上の 諸問題に関する調査結果【三重県】」(平成21年12月1日)にあるhttp://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000368980.pdf。
(*2) 文部科学省HPにある「『いじめをなくそう』子ども会議(第2回)(子どもを守り育てる体制づくりのための有識者会議(第10回))の概要について」の「東京都・高校1年女子からの発表概要」より。
(*3~5) 「『子どもを虐待から守る条例』第28条に基づく年次報告書(平成20年度版)」(平成21年9月)より。
(*6) 例えば、「OECD対日経済審査報告書 2006年版」(2006年7月20日)では、「2000年の児童の貧困率はOECD平均を大きく上回る14%に上昇した」「貧困が将来世代に引き継がれることを防ぐため、低所得世帯の子供の質の高い教育への十分なアクセスを確保することが不可欠である」と記述されている。なお、詳細については、OECD東京センターHPを参照されたい。
(*7) 例えば、「平成21年度 全国学力・学習状況調査 調査結果のポイント」(2009年12月)では、「就学援助を受けている児童生徒の割合が高い学校の方が、その割合が低い学校よりも平均正答率が低い傾向が見られる」と記述されている。なお、詳細については、国立教育政策研究所HPを参照されたい。
(*8) 「わたし かがやく ◆豊かな 出会いのなかで◆ 教職員用活用資料集(以下、「活用資料集」)」三重県教育委員会、2006年3月、16頁より。
(*9) ユニセフは、「子どもの権利条約」が大きく「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」の4つの権利を守るように定めているとしている。詳細については、財団法人日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)HPを参照されたい。
3 第1回講座
2009(平成21)年8月5日(水)、公立小中学校及び県立学校、私立学校の教職員等、23名の方にご参加いただき、第1回講座を開催しました。
講座では、まず、前述した講座の背景等についての講義を行いました。次に、「かがやきのチャンス」を活用した授業実践例(*12)をもとに、2つの模擬授業を行いました。
(1) 模擬授業1
模擬授業1は、授業実践例「今、大切にしたい権利-『子どもの権利条約』から選んでみよう」をもとにしたものです。この実践例の概要・目的、おもな目標(*13)、進め方(概略)は、次のとおりです。
概要・目的 「子どもの権利条約」の各権利(条文)の中から今の自分にとって大切だと思う権利(条文)を選ぶことで、条約についての興味・関心を高める。また、自分のこれまでの生き方や他者とのかかわりを振り返るとともに、条約の精神を生活に生かす。 |
おもな目標 ・「知識・理解」の領域として、「人権と社会正義(自分たちの権利を知ろう)」「他者理解(みんな一生懸命に生きている)」。 ・「スキル」の領域として、「自己のとらえ返し(見つめる、つづる、語り合う)」。 ・「姿勢・態度」の領域として、「他者への共感(人の思いがわかる)」。 |
進め方(概略) |
この模擬授業は、グループに分かれて行いました。時間の関係上、各グループの取組の様子を共有することができませんでしたが、一つひとつの条文を咀嚼しながら順位づけしたり、選択理由を熱心に語ったりする参加者の姿が印象的でした。
(2) 模擬授業2
模擬授業2は、授業実践例「プロジェクト『人権課題の解決のために』」をもとにしたものです。この実践例の概要・目的、おもな目標、進め方(概略)は、次のとおりです。
概要・目的 学校やクラスの中にある人権課題を解決するためのプロジェクトを企画・立案する(一連のステップ、ステップの支え・妨げになる力を考える)ことで、「子どもの権利条約」についての興味・関心を高める。また、条約の精神を生活に生かすとともに、自己と他者との関係を大切にする。 |
おもな目標 ・「知識・理解」の領域として、「変革と未来(未来はかえられる)」。 ・「スキル」の領域として、「批判的思考と判断力(こんなことも考えられる)」「問題解決と意思決定(自分ならこうする)」。 ・「姿勢・態度」の領域として、「他者への共感(人の思いがわかる)」「正義と公正、社会参加(正しいことをやりきる)」。 |
進め方(概略) ・学校やクラスの人権課題の確認と、企画・立案用ワークシートの配布、取組の説明。 ・企画・立案と、プレゼンテーション。 ・「子どもの権利条約」との係わりについての考察。 ・意見交流及びまとめ。 |
この模擬授業も、グループに分かれて行いました。取組の前提となる人権課題については、「わたし かがやく」の教材「かけがえのない自分」を参考に、友だちとの関係で悩み、クラスの中で心を開くことができず、学校に来られない状況にあるというAさんの事例を基本としました。
各グループでは、これまでの参加者の経験をふまえながら、企画・立案や意見交流が行われました。なお、各グループからは、次のような取組の様子が報告されました。
・「障がいのある子と共に成長するためには、どうすればいいのか」という視点で企画・立案した。意見交流では、「子どものありのままを受けとめるとはどういうことか」というテーマでの話し合いを行った。
・参加者が経験した事例を加味しながら、クラスに漂う雰囲気を変えていくために、「Aさんや保護者の思いを知る」「Aさんに手紙を書く」「保護者や地域の人たちとも係わる」等の具体的な取組を考えた。
・日記を付けさせているという参加者の取組を参考に、日記のやりとりをとおして、「Aさんをいじめていたことに対する反省」等、子どもたち一人ひとりの思いが出るようにしたいという意見が出された。
・大切にしたいこととして、「『そんなの関係ない』という雰囲気が生じないようにすること」「子どもたち一人ひとりが、自分自身を見つめられるようになること」等が挙げられた。
(*12) 連続講座用に当グループが作成したもの。小学生・中学生を主な対象とする2例と、中学生・高校生を主な対象とする2例の計4例。模擬授業で取り上げなかった2例は、小学生・中学生を主な対象とする「わたしたちの権利条約-『子どもの権利条約』の絵をえがこう」と、中学生・高校生を主な対象とする「私たちの権利条約-『子どもの権利条約』を訳してみよう」。
(*13) 「活用資料集」(2~4頁)の「(4)子ども一人ひとりにつけたい力としての3領域」をもとにしたもの。
4 第2・3回講座
2010(平成22)年1月6日(水)、公立小中学校及び県立学校、私立学校の教職員等、22名の方にご参加いただき、第2・3回講座を開催しました。
校種別に5つの分散会に分かれて行った第2回講座では、まず、参加者がそれぞれの取組を報告しました。次に、報告された取組について検討し、その成果や課題を共有しました。
全体会形式で行った第3回講座では、参加者がそれぞれの取組の成果や課題を発表しました。
(1) 第2回講座(参加者の取組から)
参加者から報告された取組は、第1回講座での模擬授業をふまえて行われたものです。
取組を内容別に大別すると、授業での実践が9本、授業案の作成が7本、人権サークル等での実践が4本、教職員等の研修案の作成が2本です。なお、次の資料は、それぞれの主な取組をまとめたものです。
◎ 資料1-主な取組
種類 | 主な取組 |
---|---|
授業での実践 |
・条約の抄訳やユニセフのホームページを活用したり、権利(条文)のランキングを行ったりした後、意見の交流や発表、劇や美術作品等の制作を行う。 |
授業案の作成 | ・新聞記事を活用したり、ブレインストーミングやウェビング等の手法を用いたりしながら、身近な問題としての認識を深める。 ・「子どもが幸せに暮らすために」「クラスにとって一番必要なもの」「自分らしさの大切さ」等をテーマに意見の交流を行い、仲間づくりや自尊感情の高揚を図る。 |
人権サークル等での実践 | ・校内の人権サークルで、権利(条文)のランキングを行ったり、人権課題解決プロジェクトの立案を行ったりしながら、「自分たちが権利の主体である」ことを学ぶ。 ・校外の学習会で、子どもと教職員がともに学ぶ。また、その成果を保護者や地域住民に発信する。 |
教職員等の 研修案の作成 |
・子どもの権利に係わる意識調査の実施・分析を行い、それをふまえ、条約について研修する。 ・PTA研修として、「子どもたちの現状」「子どもへの接し方で工夫していること」等をテーマに意見の交流を行い、それをふまえ、条約について研修する。 |
前掲したように、参加者の取組は、多岐にわたっています。そこで、ここでは、第2回講座の報告として、参加者の取組を参考にした授業実践例を1つ紹介します。また、この実践例に取り組んだ後の授業展開例を3つ、参加者から提供いただいた取組作品とともに紹介します。なお、実践例・展開例については、小・中・高等学校のいずれでもすぐに取り組めるよう、また、それぞれの学校の実態に合わせて取り組めるよう、核となる部分のみを示したものとしました。
① 授業実践例「今、大切にしたい権利-『子どもの権利条約』から選んでみよう」(資料1)
この実践例に取り組む中で何よりも留意したいことは、子どもの生活の実態や背景を十分に把握することです。
第2回講座では、取組の課題として、権利(条文)の数の多さや内容の難しさ等から、例えば、「権利(条文)のランキングでは、子どもたちに提示する権利(条文)の数や提示の方法に工夫が必要である」という意見が出されました。
このことをふまえれば、権利(条文)のランキングという学習活動では、子どもの生活の実態や背景に応じた形で、提示する権利(条文)を精選したり、抄訳をよりわかりやすくしたりするなどの指導上の配慮が不可欠です。
簡潔に言えば、これらの指導上の配慮があれば、子どもたちは、自らの生活や経験等と「子どもの権利条約」とを重ね合わせることができるようになります。
そして、この重ね合わせが、例えば、「つづる」「語る」等の活動や「仲間づくり」「人間関係づくり」の取組の充実へと、ひいては、子ども一人ひとりの、自らが権利の主体であるという認識の深化へと繋がっていきます。
② 授業実践例「『子どもの権利条約』にふれよう!-川柳・カルタづくりをとおして」(資料2)
この展開例は、権利(条文)の内容を川柳・カルタとして表現することで、主に条約についての興味・関心を高めるものです(資料3-1「作品-川柳・カルタ」)。なお、資料3-1については、四日市市立楠小学校から提供いただきました。
③ 授業実践例「つくろう!わたしたちの『子どもの権利条約』-色紙づくりをとおして」(資料2)
この展開例は、権利(条文)の内容を色紙として表現することで、主に条約についての興味・関心を高めるものです(資料3-2「作品-色紙」)。なお、資料3-2については、名張市立赤目中学校から提供いただきました。
④ 授業実践例「『子どもの権利条約』を広げたい!-オリジナルバッジづくりをとおして」 (資料2)
この展開例は、権利(条文)の内容をバッジとして表現することで、主に条約についての興味・関心を高めるものです(資料3-3「作品-バッジ」)。また、バッジを活用した広報に取り組むことで、権利の主体者としての行動力を高めていくものです。なお、資料3-3については、津市立長野小学校から提供いただきました。
(2) 第3回講座(参加者の取組の成果と課題から)
参加者からの発表は、それぞれ5分という短い持ち時間内で行われましたが、例えば、「もう少し時間を」と何度も繰り返しながら、ていねいに発表する参加者の姿があるなど、充実したものになりました。
最も多かった発表内容は、教職員の「子どもの権利条約」に対する認識が高まっていないという前掲した状況が、取組をとおして強く実感されたということでした。また、条約に対する子どもたちの興味・関心が非常に高かったことも、多くの参加者から伝えられました。
一方で、ある参加者からは、「条約から取り組むのは、少し遠回りな気がする。子どもたちの抱える課題に直接的に取り組みたい」という意見も出されました。
発表内容には、前述した以外にも、様々なものがありました。そこで、ここでは、第3回講座の報告として、非常に印象的な発表内容であった、次のような意見を紹介します。
権利のランキングでは、「差別はいけない」を選ぶ子どもが多かった。しかし、選択理由のほとんどは、とても表面的なものばかりであった。これまでの私の取組は、単に「差別はいけない」ということだけを伝えるものになっていたのだろう。例えば、差別をしてしまう自分自身を振り返ることや、そんな自分自身から出発することの大切さを伝えられていなかったのだろう。ランキングという活動では、子どもたちの生活背景や思いがはっきりと表れる。また、教員が子どもたちの考え方にどんな影響を与えているのかということも見えてくる。
権利条約の学習をとおして、権利を知り、それに興味を持つことができれば良いと、また、友だちの意見を聴くことで、自分の考えが深まれば良いと考えていた。しかし、「知る」にとどまらせず、自分の暮らしや思いに返していくことまでを念頭に置き、取組を進めてこそ、権利条約の学習は人権学習になるのだろう。
日々の生活の中で、よりきめ細かく子どもの思いをつかみ、課題を明らかにしていかなければならない。そして、その課題と権利条約の一つひとつとを丁寧に照らし合わせる、そんな教材研究をしていく必要があった。
5 おわりに
第1回講座で行った講座の背景等についての講義では、次のようなギル・ヴァレンタインさんの言葉を紹介しました。
(後掲「参考文献4」203頁より)
前掲した発表内容をふまえ、この言葉が示唆することを読み解けば、「子どもの権利条約」に係わる取組では、私たちのこれまでの取組を見つめ直すこと、そして、それをもとに取組を再構築することが不可欠になるということです。
誤解を恐れずに言えば、もしかすると、だからこそ、これまでの私たちは、「子どもの権利条約」に係わる取組の拡充にためらいがちだったのかも知れません。そして、もしそうであるならば、採択20周年を経た今こそ、私たちは、新しい取組の方向を設定しなければなりません。
では、それは、どのような方向でしょうか。第1回講座で行った講座の背景等についての講義では、次のような阿部彩さんの言葉も紹介しました。
(後掲「参考文献7」36・37頁より)
教材「かがやきのチャンス」では、次のように記述しています。
子どもが元気であるということは、そこに一人ひとりが大切にされる豊かな環境があるということです。そして、子どもが元気になる環境をつくることは、社会の責任です。
(11・12頁より)
改めて言うまでもなく、「子どもの権利条約」は、子どもたちの未来を保障するためのおとなの約束事です。
では、家庭や地域で、学校で、私たちおとなが子どもたちをどう支えていくのか。問われているのは、やはり、私たちおとなの姿勢です。
〔参考文献(文中に表記がある以外のもの。文献名の五十音順)〕
1 「効果10倍の〈教える〉技術-授業から企業研修まで」吉田新一郎、PHP新書、2006年。
2 「子ども学 その源流へ-日本人の子ども観はどう変わったか」野上暁、大月書店、2008年。
3 「子どもによる子どものための『子どもの権利条約』」小口尚子、福岡鮎美、小学館、1995年。
4 「子どもの遊び・自立と公共空間-『安全・安心』のまちづくりを見直すイギリスからのレポート」ギル・ヴァレンタイン、明石書店、2009年。
5 「こどものけんり-『子どもの権利条約』こども語訳」名取弘文編、雲母書房、1996年。
6 「子どもの権利条約カードブック-みんなで学ぼう わたしたち ぼくたちの権利」財団法人日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)、1997年。
7 「子どもの貧困-日本の不公平を考える」阿部彩、岩波新書、2008年。
8 「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次取りまとめ]」人権教育の指導方法等に関する調査研究会議、2009年。
9 「世界がもし100人の村だったら ④ 子ども編」池田香代子、マガジンハウス編、マガジンハウス、2006年。
10 「ユニセフと世界のともだち」財団法人日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)、2007年。
11 「わたし 出会い 発見 Part2-ちがいに気づき、豊かにつながる-参加型の人権・部落問題学習プログラム・実践集」大阪府同和教育研究協議会編、大阪府同和教育研究協議会、1998年。
12 「わたしの権利みんなの権利-It's Only Right!-『児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)』を学ぶための実践ガイド」スーザン・ファウンテン、財団法人日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)、1993年。
13 「わたしの訳世界人権宣言-ドキュメント世界人権宣言翻訳コンテスト」アムネスティ・インターナショナル日本支部編、明石書店、1993年。