県内で生活する外国人の数は年々増加しており, 2007(平成19)年末現在の外国人登録者数は51,638人となり,10年間で約2倍,1989(平成元)年の約5倍となっています(三重県生活・文化部国際室調べ)。学校現場においては,不就学の問題や日本語の学習が十分ではないといった問題もあり,外国人の子どもの権利保障が重要な課題となっています。今回のNewsでは,このような課題を克服するための,三重県教育委員会事務局研修指導室による取組を紹介したいと思います。
「日本の学校でよりよいスタートをさせるためのQ&A~日本語指導を必要とする外国人児童生徒が進路を切り開いていくために~」の発行に係わって
1 発行の背景
背景について
1990(平成2)年の「出入国管理及び難民認定法」の改正に伴い,日本では,日系2世及び3世の在留資格や就労資格が認められるようになり,多くの外国人労働者を受け入れるようになりました。その結果,学校現場でも,日本語指導を必要とする外国人児童生徒の数は年々増加し,県内の学校には,2007(平成19)年度現在,北勢・中勢地域を中心に1,000人を超える児童生徒(その約半数がブラジル人)が在籍しています。
〔資料1:日本語指導が必要な外国人児童生徒数(人)の推移〕
校種/年度 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
小学校 |
480 |
459 |
473 |
563 |
671 |
810 |
998 |
中学校 |
246 |
201 |
217 |
225 |
207 |
232 |
305 |
高等学校 |
41 |
38 |
63 |
72 |
93 |
72 |
98 |
特別支援学校 |
4 |
2 |
3 |
4 |
3 |
4 |
6 |
(三重県教育委員会ホームページから作成)
これらの学校では,指導のための態勢づくり,教材や教具の開発,母語による情報の発信等,外国人児童生徒が日本社会で将来を切り開いていける力を身につけられるよう,さまざまな取組が行われています。また,三重県教育委員会でも,2007(平成19)年度には,外国人児童生徒巡回相談員の派遣,外国人児童生徒教育専門員による電話等教育相談,「日本語指導の手引き」の作成,「保護者への連絡文書例」「日本の学校は,こんなところ」のホームページへの掲載(以上,小中学校教育室による),「多文化共生の実践~『わたし かがやく』の活用を通して~」の発行(人権・同和教育室による),外国人児童生徒教育に関する内地留学制度(研修企画・支援室による)等,外国人児童生徒教育の充実に向けた取組が行われてきました。
しかし,日本語習得が不十分な児童生徒の学力の保障,児童生徒の多国籍化に伴う多言語への対応,高等学校入学者選抜に係わる取組の充実等の課題もあり,外国人児童生徒教育の充実に向けた取組の必要性は,より一層高まっています。また,今後は,外国人の子どもの権利保障と同時に,すべての児童生徒が異なる文化や習慣を理解,尊重し,お互いを認め合い,共に成長できるような取組がより一層重要となります。
そこで,研修指導室では,外国人児童生徒教育の充実を目指し,特に,共に学び,共に暮らす学校という場が,すべての子どもたちにとって素晴らしい出会いの場となるよう,また,外国人児童生徒教育の充実は,学校教育そのものの改善にも繋がるという視座に立ち,2007(平成19)年度の課題研究講座において,「日本の学校でよりよいスタートをさせるためのQ&A~日本語指導を必要とする外国人児童生徒が進路を切り開いていくために~」(以下,「Q&A」と略称)を作成しました。
課題研究講座について
課題研究講座とは,三重県教育委員会事務局研修分野が実施する研修講座の1つです。そこでは,研修分野職員が事務局員となり,学校現場の方と共に課題研究を進めていきます。
現在,前掲の資料1にもあるように,外国人児童生徒は,各校種に渡って在籍しています。また,外国人児童生徒に対する取組については,各校種で内容や進捗状況が異なり,社会教育等との連携も不可欠です。そのような中で,2007(平成19)年度の講座には,小学校(四日市市立笹川東小学校,伊勢市立神社小学校)から2名,中学校(四日市市立西笹川中学校,伊賀市立阿山中学校)から2名,高等学校(三重県立亀山高等学校)から1名,また,関係機関である三重県国際交流財団から1名の参加がありました。このことは,幅広い見地からの研究や情報共有の進化等,講座にとっても非常に有意義なことでした。
〔資料2:2007(平成19)年度課題研究講座の経過〕
第1回 |
課題や講座に求めるもの等についての意見交換 |
---|---|
・各所属での問題点や課題について ・日本語指導の授業記録をもとにした視聴覚教材や教員研修用の教材を作成することについて |
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第2~4回 |
取組内容の交流,研究内容の検討 |
・カリキュラムや時間割,使用教材(テキストやプリント),授業記録(ビデオや写真)等の資料の交流 ・視聴覚教材やQ&A形式の資料を作成することについて ・テーマ「日本の学校でよりよいスタートを切るために」の決定 ・一問一答形式の資料とすることについて ・研究の視点「外国人児童生徒が未来をつかんでいくために,学校の受け入れ態勢はどうあるべきか」の確認 ・質問項目を各校種共通のものと校種別のものとすることについて |
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第5~7回 | 質問項目の検討 |
小・中・高等学校各部会,全体会で |
2 「Q&A」の概要
「Q&A」をまとめるにあたって
「Q&A」をまとめるにあたっては,講座の経過をふまえ,「多くの学校は,これまで外国人児童生徒を受け入れた経験がなく,受け入れに関するノウハウがない」「そのため,新たに外国人児童生徒を受け入れるにあたって,どのように進めれば良いのかを知りたがっている」ということを前提としました。また,次の4点をポイントに作業を進めていきました。
1. 「学校は,外国人児童生徒が未来をつかんでいくための受け入れ態勢をどうつくるべきか」ということを示す。
2. 小・中学校での受け入れ態勢だけではなく、高校進学,高校での学校生活,高校卒業後の就職・進学に向けた態勢についての内容を盛り込む。
3. 詳細な内容ではなく,言わば「交通整理」のイメージで,「必要な情報はここにあります」ということをわかりやすく示す。
4. 小・中・高等学校各校種における中・長期的な展望に立った態勢づくりを目指したものとする。
なお,母国(出身国)や入国目的,保護者の国籍等,外国人児童生徒によっても様々な違いや背景がありますが,「Q&A」では,県内の学校に在籍する外国人児童生徒の半数を占めているブラジルからの児童生徒を,主な対象としました。
「Q&A」の概要について
今回の課題研究講座の研究成果である「Q&A」は,これまでの研究成果と同様に,三重県教育委員会事務局研修分野(三重県総合教育センター)のホームページに掲載しています。また,今回については,研究成果の共有化を図るため,高校教育室の協力のもとで冊子として印刷し,2008(平成20)年4月,県内の学校に配布しました。
〔資料3:「Q&A」の構成〕
はじめに
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3 「Q&A」作成の成果
「Q&A」の活用状況について
各校では,現在,「Q&A」をもとにした校内研修等の取組が行われています。以下,学校現場から寄せられた意見を紹介します。
・ 「知りたい情報がどこにあるのか」ということがすぐわかるので,助かっている。これまでは情報収集そのものが難しかったので,ありがたい。
・ 校内の研修担当として,毎月1回の校内研修を行っている。毎回,15~20分間程度の提案をして情報共有や協議を行っているが,「将来,異動した時にどのような状況にも対応できるよう,資料として活用したい」という声があった。
・ 現任校には,外国人児童生徒は在籍していないけれども,「これからは,クラスに普通に外国人児童生徒が在籍するようになるだろう」という意識を共有した。
・ 小・中・高等学校といろいろな校種に渡っているので,現任校とは違った校種での様子がわかって,参考になった。
・ 外国人児童生徒に説明した時に「わかりました」という言葉を聞いて,そのまま進めていたが、実際には「わかっていない」ことが多いということを再認識した。
・ 日々,目の前の外国人児童生徒が困っている様子を見て,その子が「なぜ,何に困っているのか」という視点で,ものを見るようになった。
今後の取組について
外国人児童生徒教育の充実という視点での課題研究講座は,2006(平成18)年度からの2年間の取組でした。研修指導室では,今年度,課題研究講座を開設していませんが,今後も,その成果を生かした取組を実施していきたいと考えています。なお,2年間の課題研究講座の研究成果として,「Q&A」と同様に,2006(平成18)年度に作成した,小学生を対象にしたクイズ形式の教材「知ってますか?日本に住んでる外国人のこと~サシ・ペレレが教えるよ」を三重県教育委員会事務局研修分野(三重県総合教育センター)のホームページに掲載しています。
また,研修指導室では,一般研修講座として,2007(平成19)年度には「日本語指導実践初級講座」を,2008(平成20)年度には「日本語指導実践講座」を開設し,日本語指導教材の作成,実践発表をもとにした交流,「ミニ・ポルトガル語講座」等の取組を行いました。今後の研修講座については,現在,その内容等を計画しているところです。
研修指導室では,外国人児童生徒教育の充実に向け,三重県教育委員会事務局内の他室,市町教育委員会や関係機関等と連携を図りながら,すべての児童生徒が異なる文化や習慣を理解,尊重し,お互いに認め合いながら成長していけるよう,今後も取り組んでいきたいと考えています。
三重県教育委員会事務局研修指導室