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平成20年10月21日

子どもが かがやく まちづくり
~名張市「子ども条例」の取組から~

名張市健康福祉部 子育て支援室 大西 哲

 1994(平成6)年に,日本が「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」を批准して以来,すでに10年以上が経過しました。
 この間,いくつかの法改正や法制定が行われ,子どもの権利保障において一定の進展が見られたり,子どもにかかわる人権課題がいっそう明確になるなどの成果がありました。
 しかしながら,「虐待」「いじめ」「不登校」をはじめとした,昨今の子どもの生命や権利をめぐる問題の解決は,教育現場はもとより,行政や地域社会にとっても急務の課題であるといえます。
 こうしたなか,2006(平成18)年3月,三重県内ではじめての「子ども条例」が名張市において制定されました。この条例のねらいや制定に至る経緯,今後の具体的な取組を紹介し,「子どもの権利」に視点をあてた自治体の施策やまちづくりのありようについて考えてみたいと思います。

子どもに関する条例の必要性と意義

1)名張市子ども条例が制定された背景

 1989年に国連で採択された「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」を,日本は1994(平成6)年に批准し,世界で158番目の締結国となりました。

 名張市では,これまで人権教育・人権啓発施策として1991(平成3)年に「人権尊重都市宣言」を行ったのをはじめ,1995(平成7)年には「名張市における部落差別をはじめあらゆる差別の撤廃に関する条例」を制定し,さらに2006(平成18)年3月に「名張市人権施策基本計画」を策定しました。この計画には「子どもの人権」をはじめ,子どもにかかわる具体的施策が盛り込まれています。また,次世代育成支援対策推進法の制定を受けて,2005(平成17)年3月に「産み育てるにやさしいまち“なばり”」の実現を目標とする「名張市次世代育成支援行動計画」を策定し,同時に国から「子育て支援総合推進モデル市町村」の指定を受けるなど,「子どもが人として尊ばれ,社会の一員として重んじられ,よい環境の中で育てられる(児童憲章:1951年施行)」地域社会をめざし,「名張市総合計画」「名張市地域福祉計画」等と連携,整合を図りつつ,新しい社会的環境条件の整備に努めてきました。

 一方で近年,社会問題として大きな注目を集めるようになった児童虐待やいじめ,不登校等については,その原因が極めて幅広い分野に及ぶことから,その対応は児童に関する施策だけでなく,福祉,教育等幅広い分野が連携して取り組むことが求められています。国においては内閣府が青少年育成推進会議等を通じて関係省庁と連絡を図り,調整を行っているものの,地方自治体が子どもの権利に関わる施策を総合的に推進するためのよりどころとなるものがないのが実状でした。

2)議員発議の条例として

 こうしたなか,2006(平成18)年3月,「名張市子ども条例」が名張市ではじめての議員発議による条例として制定されました。この条例は「子どもの権利条約」にいう,子どもの権利の保障とともに,子どもを一人の人間=「権利の主体者」として位置づけることを基本に,子どもの権利の保障と,青少年の健全育成を総合的に推進することを目的としたもので全会一致で可決されました。この条例の制定にあたっては,議員が3年間にわたって検討を行い,法的な部分については弁護士の助言を受けながら,条例案の作成を行ったものです。

議員提案の「名張市子ども条例」が発議・可決されるまで

2003(平成15)年
1月30日
・議員有志より子どもに関する条例を提案したいとの意見がある。
・条例制定の目標年度を2004(平成16)年6月議会とする研究会(非公式)が議員有志により立ち上げられる。
2003(平成15)年
2月10日~12月19日
・この間,14回の全体会議(勉強会),先進地視察,5回の委員会を開催し,条例案を練り上げる。
・2003(平成15)年12月に条例案完成。
・研究会で作成した案を有志の案から「名張市議会」の案とし,さらに精査したうえでの議案としていくために,議長及び各会派長の了解を求め,新たな研究会を発足させていくことで合意。
2005(平成17)年
6月16日
・一定の了解が得られたため,活動を再開。
2005(平成17)年
11月~
・執行部との意見交換,市の法令審査委員会に提出しチェックを受ける。
・弁護士に法的な部分について助言を受ける。
・議員全員説明会の開催,意見交換,条例発議に向けて賛同者を確認。
2006(平成18)年
3月
・条例を発議,可決(施行は2007(平成19)年1月から,一部は同年4月から)。

 条例のねらいについては,主に2つがあげられます。まず1つ目は,未来を担っていく子どもを一人の人間として尊重し,その固有の権利を保障していくことが重要であり必要である,ということです。虐待,誘拐,いじめ,不登校など子どもが巻き込まれる事件が毎日のように新聞,テレビなどで報道されるなど,子どもを取り巻く社会が,決して子どもが幸せに育っていける社会とはいえない状況にあるなか,改めて子どもの権利保障を基本原則として位置付けています。

 2つ目は,子どもの権利を市民の共通認識として捉えたうえで,子どもが健全に育つまちづくりを進めていこうとすることです。これまで子どもは未成熟であり,大人に保護,養育され,管理される対象であるという認識で捉えられてきましたが,子どもの健全育成のためには大人と同じ人間(権利の主体)としてその価値を認め,施策を再構築していくことが求められています。

 なお,庁内ではこの条例が制定されたことを受け,2006(平成18)年8月に子どもの施策や人権問題にかかわる各関係部署を中心とした「名張市子ども条例推進プロジェクトチーム」を立ち上げ,条例の具現化に向け具体的に施策の研究検討をしていくことになりました。

名張市子ども条例の特徴

 名張市子ども条例は前文のほか5つの章による組立てで,条文24条から構成されています。

 条例案の作成過程において,議員有志による当初案では子どもの権利の救済に目的を絞った条例となっていましたが,他の議員も入った議論の結果,子どもの施策の総合的な指針となるようにすべきとして,「子どもの権利の保障(救済)」と「子どもの健全育成」の2つを柱とする条例となっているのが特徴です。

名張市子ども条例」の主な内容

前文 条例制定の趣旨
第1章 「総則」 目的,定義,基本理念をはじめとして,市,市民,事業者などの役割を規定しています。
第2章 「子どもの大切な権利と保障」 「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」の中で,名張市で大切にしたい子どもの権利をあげ,その保障を規定しています。
第3章 「子どもの権利の普及」 市が子どもの権利について普及啓発することを規定しています。
第4章 「子どもの健全育成のための施策」 子どもの権利を前提として,健全育成の施策を進めることや,子ども会議を開催し,子どもの声が行政に伝わる仕組みを規定しています。
第5章 「子ども権利委員会」 施策の推進状況の監視と,市長の諮問に応えるための子ども権利委員会の設置について規定されています。

 子どもの権利の保障(救済)では,子どもが「つらい」「しんどい」「苦しい」と感じたときに,子どもだけでなく大人やその関係者など,誰もが安心して気軽に相談できる第三者性を担保した機関として3名以内で組織する「子どもの権利救済委員会」を設置することとしています。相談への対応だけでなく,さらに踏み込んだ救済申立てに対しても,子どもの権利を最優先にしながら,関係機関への調査・審議を行い,助言や是正の要望を行うなど,問題解決に向けた対応を図ることとしています。

 子どもの健全育成に関しては,市が子どもの健全育成に関する基本計画を策定し,子どもを取り巻くあらゆる環境の整備を行うとともに,スポーツや文化,読書などの活動をするための場所づくりに努めることとしています。なお,計画策定にあたっては子どもの意見を聴くこととしているのをはじめ,子ども会議の開催についても定めており,その意見等を市政に反映することとされているのも大きな特徴のひとつです。また,基本計画推進体制として市長を本部長とする「子ども健全育成推進本部」を設置することとしています。さらに,子どもの権利保障という視点から,総合的に施策を検証する機関として,10名以内で構成する「子ども権利委員会」も設置することとなっています。

「子供の権利」を保障する仕組み ~条例の内容の仕組み~

条例の効果と実施に向けた課題

1)条例制定後の取組(成果)

 条例は2007(平成19)年1月1日(うち第20条の基本計画については同年4月1日)に施行しました。

 条例の施行に先立ち,2006(平成18)年8月には庁内の関係部署の担当室長によるプロジェクトチームを組織し,条例に定める事務事業の推進についての検討を進めてきました。2007(平成19)年に入ると,条例施行にあわせて市広報で周知を図ったほか,4月には既設の家庭児童相談室内に権利救済委員会の窓口としての子ども相談室を設置し,相談員1名を配置しました。さらに7月には弁護士のほか大学教授(臨床心理学),元保護司の3名に子どもの権利救済委員を委嘱するなど,子どもの権利救済へ体制を整えてきました。

救済機関のイメージ(条例第16条関係)

2)これからの取組と今後の課題【2007(平成19)年11月現在】

 子ども相談室の設置には庁内からも既存の相談窓口(家庭児童相談室,小中教育相談室,適応指導教室など)との違い,役割が分かりにくいなどの意見が出されており,その役割を明確化するとともに,他の相談窓口との連携等について検討していく必要があります。また,リーフレットの配布をはじめ多様な手段により,子どもが気軽に相談できる窓口であることの周知を図っていく必要があると考えています。

 実際に子ども自身からの直接の相談については,学校で担任教諭やスクールカウンセラーなどで対応しているのがほとんどであることから,子どもの人権については,教育委員会をはじめ関係機関などとも連携を図りながら,啓発活動に取り組んでいきます。

 作成段階での情報が,市民のみならず市職員の間にも充分に届けられないまま条例が成立した感が否めないため,広報等による周知にも関わらず,条例の理解が充分広がっていない状況にあります。このため,現在,条例に定められている「子どもの健全育成に関する基本計画」の策定を進めていますが,策定委員を市民から公募することをはじめ,策定段階での市民への情報提供,パブリックコメントの募集など,積極的な市民参画を図っていきたいと考えています。そして,あわせて条例の中身についても繰り返し広報等で周知を図っていく予定です。また,基本計画については,既存の「次世代育成支援行動計画」などとも整合を図りつつ,子どもの「豊かな育ち」という視点を最優先にしたなかで,策定していかなくてはなりません。従来,大人の考えで進めがちであった事業・施策が,真に子どものためのものとなるよう転換していく必要があります。

 さらに,条例の条文については子どもが直接読むことを意識した表現になっていないことから,権利の主体者である子どもが理解しにくいものになっています。このことから,特に小・中学生向きに読みやすく,分かりやすいように表現した「小学校低学年用」,「同高学年用」,「中学生用」の3種類の子ども版条例の発行も考えているところです。

 「子どもの権利」に視点を当てた取組は,これまでの行政にはあまり馴染みのなかった分野であり,先進事例も多くないなか,その捉え方についても個人で大きな差が見られるのも事実です。名張市にとって,まだまだこれからという課題ばかりですが,「子どもの幸せ」を願い,今後の取組につなげていきたいと考えています。

 名張市の実践は,「子どもの権利保障」を基本に,「子どもが豊かに育つまちづくり」を進めていく取組として,その今後が注目されます。
 一方,教育現場においては,「子どもの権利(条約)」に対する子どもたちの学びを保障し,子どもが権利の主体者として位置づいていく学校を実現することにより,行政・地域等の取組と連携を図っていくことが重要だといえます。

本ページに関する問い合わせ先

三重県 教育委員会事務局 人権教育課 調査研修班 〒514-0113 
津市一身田大古曽693-1(人権センター内)
電話番号:059-233-5520 
ファクス番号:059-233-5523 
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