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令和05年07月05日

第73回みえ県展 審査評

 

日本画部門審査評

 日本画部門には56点の多彩な作品が出品された。はじめに3名の審査員の挙手により33点の入選が決まった。そこからそれぞれが賞にふさわしいと考える作品に票を投じ、入賞作9点が決まり、そこからは話し合いにより各賞が決定した。
 最優秀賞《ふjiの木》は、ゴッホのような空、カラフルな樹皮、点描風の草地それぞれに工夫がありかつその組み合わせが新鮮で、非常に強いインパクトを受けた。優秀賞《兆し》は、水辺の風景の清澄な空気感が伝わる。水辺に映る枝が簡略ながら写実性を失っていない。優秀賞《雪原に立つ》は、雪をかぶった一本の棕櫚の立姿から孤高の人物のような気高さが感じられる。三重県市長会長賞《うだつ》は、古い町屋を描くが、下半分をぼかし、屋根を光らせることで、うだつの印象を見る者にストレートに伝えることに成功している。三重県町村会長賞《秋の贈り物》は、植物を入れた花瓶を上からのぞきこむ構図の工夫とバランスのよい色彩に確かな力量を感じた。岡田文化財団賞《チーム》は、水墨の技法だけでなく鶴の飄逸な表情に魅せられた。こういった「愉快さ」は現代日本画に一番足らない要素であろう。すばらしきみえ賞《神宮の森》は、水墨で幽邃な森の趣を表す。上から差し込み水に反射する光の質感がすばらしい。for your Dream賞《オオアリ クイ》は、一見抽象画のようだが見ていると足からアリクイの姿が立ち上がってくるのが、面白い視覚体験であった。自然の恵み賞《出会い》は、雪景色の中での餅つき。人々の活気ある情景が生き生きと伝わって来る。
 応募全体としては一定以上の水準のものが多いという印象を受けた。その中で評価を分けた一番のポイントは、作者の実感が絵を通してどれほどこちらに届いたかであろう。入選作を通覧すれば、テーマや技法は多岐にわたっており、三重の日本画の豊かさを感じていただけることと思う。

                                      日本画部門審査主任 田島 達也
 

洋画部門審査評

 洋画部門は、昨年よりも応募総数が40点ほど少ないけれど、今年も全部門の中で入選率が最も低い厳しさとなった。最優秀賞には「今を思う」を決定した。全員の審査員が、描かれたモデルがそこに居ると感じる確かな存在感、画面の内側からの光を放つ魂のこもった作品として高く評価した。つづいて岡田文化財団賞の「赤い風景」は、厚みのある下地に多彩な赤で描かれた街並みの華やぎと温かさが魅力。三重県議会議長賞の「カマキリの闘い」は、鮮やかな色彩に昆虫や植物の形を複雑に絡ませて、生物の多様性や生命力を感じさせる作品。三重県教育委員会教育長賞の「タンポポ」は、正方形の画面に鳥たちの配置が工夫され、おおらかな形と塗りで力強い画風となっている。三重県市長会賞の「在りし日の風景」は、青空を背景に手前の樹の鮮やかな緑に眩い光が透ける豊かな色感、奥に広がる空間性など作者の観察力と表現力の確かさを見せた。三重県町村会長賞の「母と子」は、永遠のテーマ母子像と現代的なスマホの組み合わせ、さらに色感や描写のセンスが光った。for your dream賞の「Discover your Impossible」は、今回コロナ禍でマスクをした人物群を、単に不安感だけでなく、カラッとした社会風刺的味わいがあって秀逸。すばらしきみえ賞の「津の街 美杉町 竹原 2023」は、木版をつかったモノトーンの力強い表現を続けておられ、昨年に続き独自性が評価された。自然の恵み賞の「大王崎灯台と旅館モヘジ」は、さらりと描かれたように見えて、ねじれた遠近感、平面的な海や岬、屋根の連なりや船や桟橋の細かい描写が組み合わされて面白く表現されていた。
 審査会には多くの観覧者に参加いただいた。洋画部門は技法もテーマも様々だが、美しさ、端正さ、描画のテクニックだけではない、訴えてくる、惹きつけられる力を持つ絵画に評価が集まる。コンクールに入選入賞することだけが作品制作の目的や価値を決めるものではないが、こうした場で自作に生かせるヒントを感じていただけたらと願う。

                                     洋画部門審査主任 赤松 玉女
 

彫刻部門審査評

 今回は、16点と出品数が少ないのが残念でしたが、結果としては13点が入選となり、その中にはきらりと光る作品も多くありました。
 特に最優秀賞に選ばれた「四角い顔のおばあちゃん」は、審査員の満場一致で決定いたしました。首から下が具象的な造形でありながら、頭部が鋸で四角く整形している不思議な造形です。おばあちゃんのさまざまな人生や哀愁が感じられる魅力的な作品になっています。そのほかには、「samsara」「森を壊さないで」「夢幻」「老松」などが、自然との共生や人類の未来を予感させて、印象に残っています。また「湧き出る想い」や「LOVE PHANTOM」のような力作もありました。

 公募展において、彫刻が独立した表現メディアとして徐々にむつかしくなっている現代、来年度は、三重の自然や歴史・文化が感じられ、創る喜びに溢れた既成概念からはみ出した斬新な作品を期待しています。

                                     彫刻部門審査主任 籔内 佐斗司
 

工芸部門審査評

みえ県展の工芸部門においては、全体的に質の高い出品作品が多いと感じます。工芸的素材と高い技術の作品、従来の工芸素材に捉われない作品など多種多様な高いレベルの作品が集まっている事がこの展覧会の特徴だと思います。
 最優秀賞の《春のかけら》はキューブ状の木箱に寄木細工で草木と蝶の模様を施した4点組の作品で、色調が抑えられたオリーブ色で草木を表現し、黒く引き締まった輪郭と鮮やかな色で蝶がデザインされています。草木の重なり合う様子が丁寧な技術で表現された秀逸な作品でした。
 次に優秀賞の《Floral Still LifeⅡ》は同じ絵柄の紙を重ねて立体的に仕上げるシャドーボックスの作品で、中世西洋絵画のような重厚で彩度を押さえた深みのある色調と手法が見事に調和した力作でした。《雲の流れ》はこの地域の伝統工芸技法でもある伊勢型紙の技法を用い精緻に幾何学模様を組み合わせた作品で、3箇所の配置された六角形が見事でした。
 さらに、三重県市長会長賞は天然染料の優しい色合いを活かした紬織の着物《春昼》、三重県町村会長賞はユニークな冠を有し金彩を施した5体の鳥で構成された《団欒》、岡田文化財団賞には紙、木、水引、ビーズ、檜の鉋屑、糸を用い、バラの花をモチーフに複合素材を見事に組み合わせた《輝》としました。また、すばらしきみえ賞には赤い橋脚の背景に伸びやかな白い橋が印象的な《白い橋》、For your Dream賞には藤で作られた3つの形態を組み合わせた《遊ぶ》自然の恵み賞には草木染めの平織りの《中村川の摘み草たち》を選出しました。
 入選作品と受賞作品とのレベルは僅差でした。工芸というジャンルにおいて、技術力に加え新しさや創意工夫の少しの差だと考えます。また選外作品と入選作品の差も僅差でこれからに期待できる作品が多くありました。工芸の技術力向上だけでなく、生活の中の気付きを大切に思い切ったチャレンジをして欲しいと思います。

  
                                         工芸部門審査主任 森野 彰人

 

写真部門審査評

 一昨年から続くコロナ禍による行動制限はいまだに大きく、皆さんの作品制作にも影響してきたのではないでしょうか。写真撮影の基本は、自らの足で広く歩き廻ることによって眼にしたものをカメラで撮影することです。それが出来ない困難な状況が長く続きました。にもかかわらず、応募された方々の作品には、独自の視点を見つけようと努力された作品が少なからずあったように思います。
 優秀賞、小野俊男さんの《わがままなモデル》は、様々な自分の左手?の動きをとらえて40数枚もの画面に分割して見せる展開は、さながら千手観音の手が出現したようです。さりげないものでも繰り返し数多く撮影することによって見えてくる面白さでしょう。
 優秀賞、世古道也さんの《ステンドフラワー》は、色ガラスの立体を撮ったのでしょうか。接近し拡大して見ることによって新たな美しい世界が広がってくる典型です。
 岡田文化財団賞、長野慶子さんの《ばあばの振り袖》は、祖母の古びた写真を手にするちょっとしたアイデアで、ホリゾントの前に立つ若い女性の振袖姿が微笑ましく見えてきます。照明が整ったスタジオでの決まりきった型通りの撮影ではない自由な雰囲気が伝わってきます。
 for your Dream賞、村田芳男さんの《ゴールイン》は、広告が蹴上面にある階段を登る二人の姿がピッタリ撮られています。街中に溢れている広告写真ですが、それを逆手にうまくとらえると楽しい背景にしてしまうことができる好例です。
 自然の恵み賞、山口正之さんの《嵐が来る》は、何気ない空の雲や水平線でも言葉によって異なる風景に見えてきます。自然を見ることの不思議さを感じさせてくれる作品です。
 次回も皆さんの撮った写真作品によって、世界がより深くより豊かに見えてくることを期待しております。

                                       写真部門審査主任 宮本 隆司
 

書部門審査評

 生成人工知能(AI)の進化が目覚ましく、世界を揺り動かしています。しかしながら、人類の知的生活は劇的な変化を迎えても、人間の創造性を超えるとは思えません。今後ますます、芸術が衆目を集めるようになるでしょう。
 今回、書部門の総出品点数は146点で(漢字94点、かな21点、調和体26点、篆刻5点。昨年比3点減)、入選作品は98点となりました。審査は吉川美恵子先生、稲垣無得先生と話し合いを重ね、公平、公正を心掛けながら進めさせていただきました。各ジャンルともレベルが高く、僅差で入選できなかった作品が多数ありました。
 最優秀賞をはじめとする9点の受賞作品は、各ジャンルの出品数を勘案しつつ選考しました。いずれも魅力的な優品ぞろいで、書に対する意欲的な取り組みが感じられます。どのような書を理想とするのか。確固たる理想を掲げ、その理想を実現するために、惜しみない修練を積んだ作品が選ばれたと思います。知識や修練だけでは発揮できない、形を超えたオーラは、AIといえども到達し得ない領域であるに違いありません。
   
                                          書部門審査主任 富田 淳

 

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