日本画部門審査評
昨年に引き続き審査をさせていただきました。出品数がほぼ同じで、内容の幅が広がり、意欲的な作品が多く見られました。入選作品は三重県の自然環境を表現した作品も多く見られました。日本画の素材を理解し活用した完成度の高い作品が選ばれた様に思います。特に伝統的な岩絵具と共に、墨を主体として使用し、その中に色彩も加えた独特な水墨淡彩画の秀作が何点も見られました。思わず見入ってしまう作品も少なくありませんでした。
本来、岩絵具と水墨の古代からの発展は、異なった道程を持っている様に思いますが、日本の絵画ではそれらを融合させて、すばらしい障壁画等を描いた歴史があります。そういう新しい可能性を感じました。対象を十分観察し、入念に写生を行なった上での作品も多く見られ、日本画の制作を指導されている方々の的確さも感じられました。入選作品は個性的で表現技術の高い作品が多い印象でした。さて入選作品の中から賞候補が選ばれ、更に9点の受賞作品が決定しました。賞候補の作品はそれぞれ個性的で更に高い表現技術を有していました。今日の日本画の多様な方向を感じました。その中で最優秀賞作品は近代日本画の良さを今日的に表現した秀作で、身近な対象を写生し、高い技術と完成度を持つ秀作でした。この様な身近な自然環境を正面から表現している事にも好感が持てました。他の受賞作品もそれぞれ個性的で、色彩感や造形感覚の優れた表現力豊かな作品でした。若い出品者の受賞作品も有り、今日的なテーマでの表現を、伝統的な素材を使って日本画として表現する可能性を感じさせられました。
鑑賞者の方にも今日の日本画の多様性を感じていただけましたら幸いです。
日本画部門主任審査員 浅野 均
洋画部門審査評
洋画部門は多数を占める油彩画、アクリル画に加え、水彩、素描、版画の作品も含まれ、大きさもヴァラエティーに富むが、最初の印象として、真摯に制作に取り組んだ作品がほとんどで、出品点数152点から入選作を選ぶ、すなわち選外作品を決めるのは難しく感じられた。最終的には努力の跡というだけではなく、作品の独自性、完成度を基準として監査し、昨年より4点少なくなったが、76点を入選作品とした。
受賞作品は、テーマ性、色彩構成、マチエールの構築、風景へのまなざし、非現実的なモチーフの結合など、出品作品全体の諸傾向をカヴァーする多様な傾向の作品とすることができた。最優秀賞の〈ヴォカリーズ〉は正方形が持つ空間性を基軸に、最小限の要素に限定しつつ、「母音のみの歌唱」を意味するタイトルが示すような重厚な空間が実現されていた。優秀賞(三重県議会議長賞)の〈バリオニクスの大地図〉は、大きな爪をもつ恐竜を意味するタイトルと関連があるか否かは不明だが、記号と規則的な形が幾重にも集積され、濃厚な凝集性と全体の明るく軽快なリズムとのバランスが快適な作品であった。もう1点の優秀賞(三重教育委員会教育長賞)〈seconds〉は、ホームから見た動きつつある車両の中を覗き見たかのような僅かな時間のイメージが印象的に捉えられた清新な表現で、更なる可能性を感じさせる作品であった。三重県町村会長賞の〈柔毛突起語る〉は、手慣れたマチエールと色彩の構築力を感じさせるもので、味わい深い細部の連関が、画面をより大きく感じさせてくれる。岡田文化財団賞の〈私には帰る教会がある〉は、縦長の画面と背面の人物像が照応し、彼方の希望、ないしは救いへの思いが的確な写実的描写力に支えられ、完成された世界を構築していた。中日新聞社賞の〈おちるかたち〉は、画面の動勢を生み出すフォルムの共鳴とマチエールの構築が、手堅い練達度を印象付ける作品で、経験豊富な出品者に与えられるべき賞にふさわしいものであった。〈未来の力 尾鷲ヤーヤ祭〉は、すばらしきみえ賞にふさわしく、郷土への愛と未来への希望が、背景の大樹をオレンジのシルエットで構成する巧みな構想によって表現され、単なる記録的描写を超える力を感じさせた。自然の恵み賞は、三重の自然に対する愛着と敬意が見いだせる作品として〈望郷・千枚田〉が選ばれた。ウミガメと棚田との思いがけない出会いも、豊かな海と山を備えた三重の自然を愛おしむまなざしがもたらしたものに違いない。for your Dream賞の〈We are tiny〉は、社会に対する自らの小ささを突き付けられる思春期の心情が、巧みなフォルムの構築力のもとに表現され、自然、社会、人間の関係性に思いを至らせることのできる若々しくも充実した作品であった。
洋画部門主任審査員 中谷 至宏
彫刻部門審査評
審査会場に足を踏み入れたとき、ちょっとした驚きを感じた。私の予想よりも、力のこもった大作が多かったからである。まず一通りざっと見る。出品数は15点と少ないが、素材、表現、技法もまちまちでバラエティーに富んでいる。この中で入選落選を決め、なおかつ優劣をつけて賞を決めることは、たやすくないと感じられた。選考の基準は各選考委員に委ねたが、私は素材への取り組み方、表現のオリジナリティーを大切にした。選考は随時議論をしつつ進めたが、結果について3名の審査員において大きな相違はなかったように思う。
さて、最優秀賞の山田風雅「森の王様」は、粗削りな雄鹿である。しかしそれを補える表現力と周囲の空間を支配する、エネルギー溢れる木彫作品である。今回の受賞が今後の制作活動につながるように、さらなる飛躍を期待したい。優秀賞の谷本雅一「My Life」は、石彫のプロの手技を感じさせ技術的には完璧な仕事である。彫刻家にとって制作上の技術は大いなる力になるが、それはコンセプトを明確に表現するためのものでなければならない。三重県町村会長賞の銅谷祐子「Wild horse-FACE-」は躍動感あふれる全体像を見てみたい。
結果的に木石金属という彫刻にとって伝統的な素材の作品が上位の賞を独占してしまった。しかし昨今の表現方法の多様性を考えた時、この県展の場で新しい可能性を探るような挑戦的な作品が出品されたなら、きっと審査員は困るに違いない。
彫刻部門審査主任 内田 晴之
工芸部門審査評
工芸部門は、前回よりも2点増の70点の応募があったが、このうち審査員の投票により、45点の入選作品を選出した。今回も陶芸を中心に漆工、木工、金工、染色、ガラスなど幅広いジャンルにわたって粒ぞろいの作品が多かったように思われる。この中で受賞作品について私の感想を述べさせていただくこととしたい。まず、最優秀賞となった「春のひとさら」は、少し反りを入れたシンプルな造形であるが、よく見ると漆面の表情が情感豊かで、印象にひときわ残るさわやかな作品であった。優秀賞(三重県議会議長賞)の「黒陶・浮現」は、昨年に続き秀逸な作品でヒビやもみ殻の跡が加飾となり、堂々たる存在感のある作品である。優秀賞(三重県教育委員会教育長賞)の「黄瓷 組鉢(6枚組)」は、6枚組のセットで、鉄分の多い素地に黄瓷を厚掛けにして深みのある色合いが魅力的である。三重県市長会長賞の「初夏」は、水辺の水草やその中にひそむカエルを水中からのぞき込んだようなユーモラスな作品で、ガラスの質感と沼水の質感がよく合致している。岡田文化財団賞の「栃拭漆盛器」は、栃材を用いて木の葉の形にスッキリとまとめた作品で、木目と透き漆の光沢が美しい。中日新聞社賞の「明日へ 『日暮れの時に』」は、平織の絵羽模様で交互に淡い色彩のグラデーションをつけ、均整のとれた美しい作品である。すばらしきみえ賞の「今宵は何に?(狐)」は伊賀根付の作品で、小品ながら緻密で人目を引くものであった。狐の体表に象嵌された白蝶貝の一枚の葉も効果的である。for your Dream賞の「米寿」は、パーツを組合せ、脆弱に見えて均衡を保っている造形が心に残る作品である。自然の恵み賞の「いなべの六度焼」は、薪窯で灰をかぶせて焼成したもので、パックリと口を開けた造形が特徴的であった。
工芸は手わざによるものであるが、それだけに材質と対話し、それを生かした造形が重要である。それぞれの作家が今後ますます優れた工芸作品を生み出されることを願ってやまない。
工芸部門審査主任 住谷 晃一郎
写真部門審査評
本年度の審査対象は321点。全体の応募作品の傾向は、人物スナップが大勢を占めていた。人を被写体とする作品が県展応募などで減少する傾向があるのに比して伝統的なスナップショットが三重県では健在である。写真行為は、他者と向かい合うことで撮影者自身の存在を確認する優れたメディアといえるが、その基本的姿勢が三重県展に伝統として受け繋がれているようだ。しかも祭行事などの作品化し易い特異な対象よりも、生活の中で捉えた表現が多く見られたのが素晴らしい。次に応募数の多かったのは、風景などのネイチャーもの、自然に恵まれた三重を反映しているといえるが、海辺に向かう作品が意外に少なかったのは、この締め切りの時期が春であったからか。組み写真は、一枚での表現とは全く異次元の表現を可能にする方法。今後もこの組み写真方式の応募数は増えていく予感を感じさせられた。応募方法として、組み写真を独立させるなどの制度改革も検討しなければならない時期かもしれない。今年も最優秀賞に組み写真である。
・最優秀賞(三重県知事賞) 松本由紀子「サニーデイズ」。組み写真。少女の笑顔、子育てのツバメの巣、丘の小さな木、どれも情報量の極端に少ないシンプルな写真だが、組むことで、一枚では表現できない初夏を迎えた爽やかな喜びの深みを軽快に表現して組写真の真骨頂を感じさせる作品。
・優秀賞(三重県議会議長賞) 羽生幸志「夏の名残り」。青空の下、せっせと働く蜂の軽快羽音が聞こえてきそうだ。
・優秀賞(三重県教育委員会教育長賞) 加藤大雄「参観日」。若さと老いとの哀しいすれ違い無情。
・三重県市長会長賞 河井桃子「わるさ」。迷惑なカワイイお手伝い存分に!!
・岡田文化財団賞 古川景祐「おねしょの朝」。家猫はプライベートな椿事を知っての戯れか!?愉快で幸せ家族写真として。
・中日新聞社賞 加藤真希「不機嫌」。祭の日、大人になった少女の凛々しく美しい表情がまぶしい。
・すばらしきみえ賞 佐藤信行「雨あがる」。霧に煙る山裾に春を飾るように咲く桜が豪華。
・for you Dream賞 吉良新一「幼き日の思い出」。水面に茜を映して宇宙空間のように変身した港の異次元空間の抽象が美しい。
・自然の恵み賞 北村和子「池島の春」。小さな自然の片隅を無限域へ広げた美意識がいい。
さて、写真がデジタルになって久しい。表現が多様になり評価も多様な広がりをみせています。来年も多様に!期待したい。
写真部門審査主任 土田ヒロミ
書部門審査評
応募総数が157点あり、その内漢字作品が101点、調和体25点、篆刻6点であった。笠嶋忠幸先生と加藤子華先生と小生が審査を担当させて頂きました。
応募作は極端な優劣は無く入落の線引きが難しく思いました。
それでも陳列壁面の制限がある為、心を鬼にして漢字65点、調和体16点、仮名16点、篆刻3点の入選を決定いたしました。
その内9点の作品が受賞作となりました。それぞれの受賞理由を記しておきますので参考にしていただければ幸いです。
・岸本一水さん(最優秀賞)/篆書の造形感をうまく生かした骨力ある線で表情豊かな作になっていた。
・百地拓窓さん(優秀賞 三重県議会議長賞)/空間の広い紙面に重量感のある線で文章の如く本格的な書になっていた。
・清水好流さん(優秀賞 三重県教育委員会教育長賞)/墨量もよく一字一字の結体の確かさもあり引き締まった作であった。
・寺島千草さん(三重県市長会長賞)/料紙と墨色が合って、前半を静かに後半に盛りあがりをつけ、ちらし書の妙味がある。
・上山恵里さん(岡田文化財団賞)/若々しさがあり太目の線に微妙な筆圧の変化をだしみずみずしい作になっていた。
・豊田真苑さん(中日新聞社賞)/篆書を嫌味なくまとめ、単調にならずに仕上げた作に力を感じる。
・今村寿鴻さん(すばらしきみえ賞)/筆先を生かした線で、流れるようなリズム感があり余白も生きた作。
・川森貞祥さん(for your Dream賞)/字数が多いがさほど窮屈間がない。4行目をだんだん小さく書いたことも成功につながったか。
・岡田翠悦さん(自然の恵み賞)/様々な要素が入った文字になっている。単体で書いているがバラバラ感がない妙のある作。
以上感じるまま記しておきます。又、次年度を目指しご精進下さい。
書部門審査主任 星 弘道